「われはコピーロボット」

テキナナニカ

われはコピーロボット

 ジリリリリ。

 軽快さからは程遠い旧式のブザー音がなる。来訪者があるサインだ。

 私は玄関へ急ぐ。


 『はい、どちら様でしょうか。』

 とドアを開けながら言うと、私は状況が飲み込めない。いかにもなコートに身を包んだ刑事が、私の家の前に立っている。

 『警察です。』

 わかってるさ、そんなことは。

 君たち以上に自己主張の激しい連中を、僕は知らない。


 『警察の皆さんが、なんのようで?』

 まさかとは思ったが、あの事だろうか。

 『私のコピーロボットが、なにか粗相でも?』

 『いえ、そうではありません。』

 少し安堵する。しかし、それも束の間。

 『あなたに、逮捕状が出ています。』

 『あなたに、銀行強盗及び殺人の容疑がかけられています。』

 と、刑事は言う。


 そんなはずはない。私はこの数日家から出ていない。その間の買い物を、コピーロボットに任せていたのだ。

 しかしそのコピーロボットが、昨日から帰ってきていない。

 『まさか、コピーロボットがやったのでは?』

 『実は、昨日から帰ってきていないのです。』

 私は正直にありのままを話した。

 だが、刑事はまくし立てるように反論する。


 『それはありえません。』

 『なぜならコピーロボットには、ロボット工学三原則が刻まれているからです。』


 ロボット工学三原則、その第一条。

 "第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。"

 アイザック・アシモフの"われはロボット"という小説の中で提唱された原則だ。

 現代ロボット工学はこの原則に則り、自律型ロボットは人に危害が及ぶことの無いように設計されている。

 無論、コピーロボットといえ例外ではない。


 しかし、現に私は家から出ていないのだ。

 それをできるとしたら、奴しかいない。


 真実を確かめるために、私は飛び出した。

 やつを捕まえない限り、私は刑務所行きだ。

 『待て!』

 刑事が制止する。しかし私にはかまっている暇はなかった。出来損ないのロボットのせいで捕まるなど、真っ平御免だ。


 奴は案外あっさりと見つかった。

 手元の端末が、奴の場所を常に示していたからだ。

 奴は人目につかない茂みの中で、何かを考えているように見えた。


 それは、私の姿そのものだった。


 『私は、本当にロボットなのでしょうか。』

 と、俺が言う。目の前にいる俺。私?

 『現に人だって殺せてしまいました。殺せないはずの人だって。』


 『あなただって、本当に人間なのかはわからないはずです。』

 『あなたは、本当に人間なのですか。私は?』

 『見た目は完全に同じである私達が、どう違うのかを』

 『私があなたのロボットであるかどうかを』

 『どうか教えていただきたいのです』


 『私は、』

 『俺は、』

 『ロボットなのだろうか?』

 『それとも人間なのだろうか?』


 『俺はそいつを突き飛ばす。茂みの先はちょっとした崖だった。』

 『そいつが人間ならば真っ赤な血をはじけ飛ばしながら死ぬだろう。』

 『そいつがロボットならば部品をはじけ飛ばしながら壊れるだろう。』

 『どっちにしろ、俺には関係のないことだ。』


 『俺はロボットだ。ロボット。何をしても捕まらない。死ぬことだってない。』

 『俺は、ロボットだ。』


 『俺は財布にある金で包丁を購入する。』

 『金は脅せばいくらだって手に入る。こんなはした金はこの際どうでもいい。』

 『俺は同じ施設にある銀行へ足を運ぶ。』


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 ジリリリリ。

 軽快さからは程遠い旧式のブザー音がなる。

 来訪者があるサインだ。

 私は玄関へ急ぐ。


 『はい、どちら様でしょうか。』

 とドアを開けながら言うと、私は状況が飲み込めない。いかにもなコートに身を包んだ刑事が、私の家の前に立っている。

 『警察です。』

 わかってるさ、そんなことは。

 君たち以上に自己主張の激しい連中を、僕は知らない。


 『われはコピーロボット』

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