教授の疑問

 翌日、放課後。

「あー、眠い」

 科学室に入るなり俺は机に突っ伏した。

 疲れた……昨日、あれから彼女がハマったと言ってスパイダー男の3Dに何度も乗ったせいだ。

 基本的に科学室か部屋にいるせいか体力が……少し寝よう。



「……ん」

 ふと目を覚ました。目を擦って見わたすと彼女が科学室の薬品を不思議そうに眺めていた。

 並ぶ薬品容器、彼女が冷凍保存の棚に当たりその一つが揺れる。

 あれは確かドライアイス……!?

「危ない!」

 よく考えればドライアイスに当たったからといって何ともない可能性はあったのだが俺は反射で叫んでいた。

「え? あっ」

 彼女はこれまた反射的に落ちてきた容器を受けようとする。しかし容器は空中で開き、ドライアイスが一粒彼女の手に乗る。

「わっ、冷たい」

「大丈夫か! ……冷たい?」

 ドライアイスは冷たすぎる故に熱いと感じる物だと思っていたが……

「……冷たいですよ?」

 彼女は平然とドライアイスを手に乗せている。刺激が強すぎると反応しないのか?

 いや、でも熱さには反応していた……熱さには対応していても冷たさには完全に対応していないのか?

 頭の中で色々と考えながら俺は彼女に駆け寄る。

「お前、大丈夫なのか」

「はい……あっ」

 彼女は何かに気づいたように固まる。

「どうした? 異常でも出たか?」

「いえ、その、話さない方が……」

 何の事だか聞き返す前に後ろから声が聞こえた。

「異常なのはお前の方だ……どうした?」

 後ろを振り返ると教授がコーヒーカップを手に驚いたように立っていた。

「きょ、教授。 いたんですか」

「お前が寝ている時からな……で、どうした?」

 やばい、いくら変人で名の高い俺でも空中に向かって叫ぶのは……

 いや、叫ぶだけなら容器が落ちたからだと誤魔化せる。しかしその後の会話は……

「その、寝ぼけていたようで……」

 俺の言い訳を聞かないとの意思表示のように教授は言葉を被せる。

「今日だけじゃない、この前から何回かなにかに話しかけるお前を見ている……どうした?」

「いえ、その……」

 流石の俺も幽霊がいるとは言えない。いや、それ以前に彼女は幽霊じゃない、俺は幽霊を認めない。

「……今日も寝ていたし少し疲れてるんじゃ無いか? 俺の科目のレポートは待ってやるから今週の放課後は帰って寝ろ」

「は、はい……すいません」

「体調壊して単位落とすなよ、鍵はいつもの場所にあるから少し休んだら帰れ」

 そう言って教授は出て行った。


 少しの沈黙。


「とりあえず……帰るか」

「はい……」

 そう返事した彼女の声は、何処か元気が無いように思えた。

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