実験・反射

「どんな実験をするんですか?」

 正門の前で彼女は聞いてきた。

「その正門を通って外に出れるか?」

「そういえばどうなんでしょうね」

 彼女はごくごく自然に正門を通り、外に出た。

「この敷地に縛られているわけでは無さそうだな」

「みたいですね……これが実験ですか?」

「そうだ……お前さえ良ければまだあるのだが」

「やります! 喜んで!」

「なら俺の家に行こう」

「はい!」

 移動、自宅。

「一人暮らしなんですね」

「仕送りは貰ってるけどな」

 因みに学生支援の安い所である。

「で、どんな実験ですか?」

 本当に実験好きになってきたなこいつ……

「とりあえず一つ実験は終わっている」

「え?」

「お前を認識出来るのが俺一人なのかという実験だ」

 実験には近所にいる飼い犬を使った。その犬は俺と飼い主にのみ懐いており、違う人が通ると吠える癖があるのだ。

 ここに来るまでにその前を通ったが犬は吠えなかった。

 加えて教授も反応無し。俺だけが認識していると考えていいだろう。

「一つという事はまだ他に?」

「ああ、ちょっと待ってろ」

 俺は手鏡を持ってきて彼女に向ける。

「自分が見えるか?」

「はい、見えますよ」

 彼女の答えを聞いて俺も覗き込む。少し薄いようにも感じるが、確かに彼女は見えている。

 俺は手鏡を閉じて窓ガラスを見る。

 窓ガラスには俺しか映っていない。

「おい、窓ガラスでは見えないか?」

「え? ……わっ、見えません!」

 彼女は不思議そうに窓に近づいたり離れたりしている。

 俺はレポート用紙に記録する。

『俺以外の認識は無し』

『鏡には映るが他には映らない』

 二番目に追記

『光の反射が少ない為か若干薄い、鏡以外に映らないのもこれが原因と思われる』

 彼女自身も見えない事から目の構造は大体俺らと同じと仮定してよさそうだ。

「今日の実験はこれで終わりだ」

 俺が言うと彼女は不思議そうに

「この実験なら大学でも出来たんじゃ……?」

 確かにそうだ。

「お前、明日はどうするつもりだ?」

「そうですね……実験があるならしたいです」

 ならばここに連れてきた意味が出来た。

「じゃあ明日の朝……九時くらいにここに来てくれ。 今日はここを教える為にここで実験した」

「なるほど、わかりました」

嘘も方便、である。

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