パラレル
霧島万
第1話
目が覚めると、高い天井が見えた。ライトがぶら下がっている。体育館なのか。
「ここはどこだ」
「あ、おめざめですか」
ずっと看病してくれていたのだろうか。女性がそこにいて答えてくれた。
「ここは避難所ですが」
地震でもあって、意識を失って、それでここに寝かされていたのだろうか。起き上がって辺りを見回すと、ダンボールでできたパーテーションがある。
「ありがとうございます。助けていただいたんですね」
「あ、いえいえ」
「何があったのですか。教えて頂けませんか」
だが、僕には地震などの災害の記憶はなかった。トラックに引かれた記憶ならあるのだが。それとも、あの瞬間こそが地震の瞬間だったのか。だが、女性は、
「いろいろあったんですよ」
と、答えた。何故か平然と。よくあることだというように。それどころか、
「そんなもんなんですよ。この世界は。災害が沢山発生する。それでも、平然と穏やかに過ごさないといけない。それがこの世界の人達全員の使命だってことは分かります。なぜかは分かりませんが」
と、言った。ちょっと待って欲しい。災害後の世界が異世界のようだというなら分かる。ところが、これは本当に、異世界についての紹介の様ではないか。そんなことを思っていると、女性は、
「で、あなたはなんかあれなんですよね。えっと、我々の主のような気がするんですよ。こう、この世界の神だったお方の一人と言いましょうか。」
「ええ!」
この世界の神ってどういうことだよ。なろう小説の始まりかよ。しかし、まわりの風景にファンタジー要素は見当たらない。現実味を感じることはできないが、ショックのせいだと考えてしまう。客観的に見て、テレビで見た避難所そっくりだ。
「ここが異世界だって言うんですか。俺がいた世界とは違う世界だと」
「そんな雰囲気しますけどね。嫌そうな顔してますし」
「はい?」
「避難所生活しなきゃいけないのか。嫌だな~って顔してます。この世界の人は、そんな顔しないんです」
「え?嘘。嫌でしょ、避難所生活。とっとと終わって欲しいもんでしょう。そりゃ、最初は諦めるかもしれませんが」
災害にあった実感があれば、あんがい俺はこの現実を受け入れられていたのかもしれない。むしろ、災害にあったことすら受け入れきれないかもしれないけれど。女性は、
「その感想が異世界人ぽいんですよ」
といった。
それは、異世界人を区別する方法として適切なのだろうか。
「て、いうか、そこまでここが異世界だというのなら、魔法はあるのかよ!」
「無いですよ」
あっさりと答えた。異世界云々はこの女の妄想かもしれない。
女性は、俺を案内してくれた。断水しているトイレの使い方や手を洗う場所、食事を受け取るところを紹介してくれた。本当に災害に慣れているように見えた。気持ち悪いくらいだった。
「ところで、名前は?」
「牧野と言います」
「私は一ノ瀬舞です。この避難所のリーダーです。よろしくおねがいしますね」
「はい」
「あなたにはこの生活は辛いかもしれないけれど、よろしくね」
そう言った一ノ瀬はニッコリしており、辛さを微塵も感じさせない。でも、それは妄想のおかげかもしれないと思うと、辛い。いや、こんな妄想している人が、避難所のリーダーでいいのか。それとも、リーダーというのも妄想なのだろうか。しかし、
「しっかり、サポートしますからね」
そう言った彼女の姿は、思いの外頼りがいのあるものであった。
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