第18話 センリちゃん、頑張る③
誰もいない深夜の通用門で、センリが鍵を一生懸命開けようとしていると、背後の建物内がにわかに騒がしくなり始めた。
「はわわ……バレちゃったかな……? 急がないと」
苦労して鍵を開けると、センリは周りを確認してから、門の外へ走りだす。
門の外は小さな街道が通っている以外は、すべて鬱蒼とした山と森だ。
センリは街道を少し走ると、はたと立ち止まった。
「どうしよう……」
元々、街道近くに身を隠してから明日の朝の街行きの馬車に紛れ込む作戦だったが、あの騒ぎ方からするとそうも言っていられなさそうだ。街道沿いなどすぐに見つかってしまうだろう。
となると、やはり山の中に逃げこむしか無い。
「う~ん、やだなぁ……」
暗い森に一人。エルランドに出会う直前のことが思い出される。
しかも今度はエルランドには出会えそうもない上に、多数の追手がセンリを探しているのだ。
「……頑張れ、わたし~!」
センリは気合いを入れるように両手で頬をパシンと叩くと、ざくざくと山の中へ突入していった。
「はぁ……はぁ……!」
息を切らしながら、草を掻き分けて走る。
すぐ近くに松明の炎がちらちらと揺れていた。それもかなりの数だ。
「こっちだ! こっちにいるぞ!」
追手の叫ぶ声に追い立てられるように、センリは山の中を疾走していた。
足は震え、喉からは血のような嫌な匂いがするが、それでも懸命に足を前に出す。自分がこんなに走れるとは思ってもいなかった。
しかし――。
(やっぱり無茶だったんだ……。わたし一人じゃ……)
必死の逃走劇も終わりに近い。既に松明の光に囲まれつつある。
しかも、気がつけばいつからかポツポツと降り始めた雨が、次第にその雨脚を強くし始めていた。
遠くで低い雷鳴が轟く。
木々が途切れ開けた空間に出たと同時に、
「……っ!」
センリの足が急に止まった。
目の前で、大きな渓谷が行く手を阻んでいる。
眼下を急流がうねるように流れていて、対岸との間には縄と木で作られた吊り橋が申し訳なさそうに吹き付ける風雨に揺れていた。
(渡らなきゃ……!)
そう思っても、どうしても足が前に出ない。
逡巡している内に、松明を持った修道士達の群れに完全に追いつかれてしまった。
修道士達は、センリから十メートル程の距離を取って包囲する体勢をとった。
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