第4話 奈落の先は……?
エルランドが目を覚ますと、そこは暗闇の中だった。
夜目の効くフィエールでも、この真っ暗闇では何も見えない。
「センリ……。いるか?」
「……エル? どこ?」
呼び掛けに答える声は、エルランドの比較的近くから聞こえた。
「ちょっと待ってくれ。今、明かりを……」
エルランドは背中のバックパックから手探りでランタンを取り出すと、暗闇の中で器用に点火した。
ランタンのぼんやりとした明かりに、座り込んだセンリの姿が照らし出される。
「センリ! 怪我はないか?」
エルランドは走り寄って大きな怪我がないか確認した。
「うん、どこも痛くないよ」
「そうか、よかった……」
安堵の息を洩らす。擦り傷はあるものの、目立った怪我は無いようだ。
「助かったのかな……?」
「ひとまず、そのようだな」
二人が滑るように落ちてきた穴も落盤で塞がれ、不幸中の幸いか大サソリの群れも撒くことが出来たらしい。
「ねぇ、あの虫のおばけは一体何だったの……?」
「驚いた。本当に何も知らないんだな」
エルランドが細い目を見開くように言うと、センリは頬をぷくっと膨らませた。
「だって……。仕方ないじゃない」
「すまんすまん。あれは魔物……〈アボイド〉と呼ばれるものだ。この世の生き物とは異なる
「アボイド……」
「そう。およそ百年前、『ゲネラルパウゼ』と呼ばれる世界規模の大異変が起きてから、突如姿を表したと伝えられている異形だ。数えきれない程の種がいる。百年の時を経ても人間と共存することも出来ず、自然と調和することも無い。この世界にとっての、永遠の『異物』。そしてやつらは、我々亜人や人間を……捕食する」
「…………」
センリの顔がにわかに青ざめる。
「悪い、怖がらせるつもりでは無かった。それに、今回のように森の中をうろついたりしない限り滅多に出くわすものではないよ。……しかし、妙ではあったな。あの森で〈アボイド〉に襲われたことは今まで殆ど無いのだが……」
それも、あの尋常では無い数だ。まるで何かに引き寄せられるような――。
「ねぇ、エル。ここから出れるのかな?」
エルランドの思考はセンリの言葉に遮られた。
「ん、あぁ。大丈夫だろう。微かだが空気の流れを感じる」
そう言ってエルランドは立ち上がってランタンを頭上に掲げた。
二人がいる空間全体が、ちらちらと揺れる炎に照らし出される。
そして、そこがただの洞窟や地下室では無かったことに、エルランドはそのとき初めて気付いた。
「これは……!?」
エルランドが上げた驚愕の声が空間に響く。
天井の高いホール状のフロア。その壁という壁には、流麗な古代文字がびっしりと書き記されていた。
ランタンを持ったまま壁に走り寄るエルランドに、
「あ……エル! 待って!」
センリも慌てて立ち上がり付いて行く。
エルランドは壁の古代文字に目を奪われていた。
「なんということだ……。まさか〈生命の胎動〉がこんなところにあったとは……!」
「生命のたいどう……?」
センリの呟きも、今のエルランドの耳には届いていないようだ。
「ということは、あの神器もここに……?」
エルランドがそう言ってランタンを色々な方向に向ける。
と、その先にぼんやりと何かが照らし出された。
「む……!?」
「あ……待ってってばー!」
二人が小走りで向かったフロアの奥には、低い大きな祭壇があった。
その祭壇の上。眠るようにそれは鎮座していた。
「間違いない。神器〈ライフ・クラヴィーア〉……!」
四つの脚に支えられた、黒曜石のように黒く輝く大きな横長の箱。前端部には無数の白と黒の鍵盤が規則正しく並んでいた。
たおやかな流線と厳格な直線が完璧なバランスで共存する、神の造形。
「おぉ……。伝承の通りだ…………」
エルランドは感極まった様子で呟くと、ランタンを足元に置き、祭壇の下に跪いた。
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