第3話 仕事

 俺はあせっていた。

 目の前の女性が自己紹介する前に俺の名前と年齢をあらかじめ把握していたからだ。


 先に断っておくが今、俺が身につけているサバゲー用の装備に名前を示すものは一切取り付けていないし、もちろん年齢を示すものも何一つ付けていない。


 それなのに何故、この女性が俺の名前と年齢を把握していたのか?

 考えられる可能性は幾つかある。


 一つは、俺の職場である某ホームセンターに行って俺の名前を知ったという可能性。


 しかし、これは無いだろう。

 何故ならこんな美女が店に来たら、まず間違いなく忘れないし職場で話題になるからだ。


 直接、俺の名札を見ず職場の同僚に俺のことを尋ねてもなんらかの形で噂が耳に入ってくると思うが、そう言った噂はこれまでのところ聞いたことがない。


 もう一つは、俺の地元の市役所で住民基本台帳を確認するという可能性もあるが、個人情報保護法の観点から見ても、アカの他人であるこの女性に対し市役所の職員が俺の個人情報をほいほいと見せることは無いだろう、多分……


 まあ、男性職員が色仕掛けで堕とされたのなら話は別だが、ホームセンターのしかも地元雇用で入社した一契約社員の個人情報なんてそこまで手間を掛ける価値なんてないだろうからこれも除外。


 あと幾つかは俺の友達や親から聞き出したか、何かのキャンペーン募集の際に俺が記入した個人情報をネットなどなんらかの形で見聞きした可能性もあるがどうなんだろう?


 勿論、俺が登録している企業などから俺の個人情報を含めた様々な情報がビッグデータとして企業間でやりとりされている可能性はあるが、どこの企業からも個人情報がれたというニュースや噂、お詫びのメールなんて見聞きしたことがないし、友達や親からも俺の個人情報を探っている奴の存在なんて聞いていない。


 幾ら何でも目の前の女性が人外の存在であったとしても、なんの下調べもせずに俺の個人情報を把握するなんて神様でもない限り無理だろう。

 俺がひとり頭を巡らせている様子を静かに見ていた女性が口を開いた。



「お主が考えていることが手に取るように分かるぞ。

 無表情になって冷静さを装っているようじゃが、頭の中ではお主の個人情報をわしが握っていることに考えあぐねているのであろう?」

 

(っげ、バレてる……)



 普通、初対面の相手にしかもすんごい美女の口から自己紹介もしてないのに自分の名前や年齢を言われたら焦るし、なんで自分の事を知っているのかって考えることだろう。



「あのー、単刀直入にお聞きしますが、何故私の名前や年齢を知ってるんですか?

 自分でも言いたくはないんですが、どうして私の独身歴まで知っているのかって不思議でしょうがないのですが」


「ああ、それは簡単なことじゃ。

 とある神物じんぶつにお主のことを聞いたからじゃ」


「ああ、そういうことですか。

 と言うかとある人物って一体誰なんですか、私の個人情報を貴女に漏らしたのは!?」


「それはの「それは、私の所為せいです」」


「うわあ! だ、誰なんですかあなたは!?」


(ビックリした!)



 いきなり俺のすぐ横に目の前の女性とは別の女性がいたのだ。

 それも、なんの前触れもなくそこにいたのである。


 気配すら感じさせずに本当にパッと現れたことに俺は大きな衝撃を受けていた。それにしても、この女性も俺の正面にいる人?に負けず劣らず凄い美人だ。



(うわ、巫女さんだよ、巫女さん!)



 生地の質感と着こなしで単なる巫女さんのコスプレでないのは一発でわかった。顔立ちについては日本人なのだが、彫りが深い顔立ちで畳の上に座っているとはいえ、きりりとした雰囲気を纏っている。


 そして目の前の美女ほどの長さではないにしても、腰まで届いている艶やかな黒髪が目を引く。その質感は日本のシャンプーメーカーのCMに出演していてもおかしくないくらいサラサラに髪の手入れが行き届いていた。



「おお、ちょうどよかった。

 今、まさに主の話をしようとしておったところじゃ」


「え、この人の話?」


「うむ。 わしがインフルエンザに罹っているのは、最初にお主と会った時に伝えたであろう?」


「ええ、まあ……」


「で、わしにインフルエンザをうつしたのはそこにおる御神みかみという地球の神じゃ」


「はあ、そうですかぁ……」


(……ん? 今、この人なんて言った?

 『神』って言ったか、この人?)



 仮に俺の隣に座っているこの人が神様なら、なんで目の前の女性がさも偉そうな口聞いているのだろう?聞いたところ日本の神様ではなく地球の神様ってことらしいけど、もし本当ならここにいる3人の中でも一番偉い存在ではないのだろうか?


 それこそ、超大国であるアメリカ合衆国大統領を凌ぐほどの権力者ということだから、まあ普通なら俺ごときが御尊顔できる訳ないのは当然としても、妖怪とも仙人ともとれないこの人より偉いんだから、本当に地球の神様ならこの女性も「神じゃ」とか言ってる場合じゃないだろう。

 


(絶対に嘘だ)

 

「ふふふ、疑っておるな? 御神が地球の神であるのかを。

 まあ分からぬでもないが、事実じゃ。

 御神は正真正銘、地球の神じゃぞ」


「いや、そう言われてはいそうですかと信じる馬鹿が何処にいるんですか?

 大体、貴女の言うことを仮に信じるならば私の隣に座っている方は地球の神様なんでしょう?

 そのようなお方を前にして、何故貴女がそんな不遜ふそんな態度のままなんですか?

 地球の神様なら貴女より断然偉い存在でしょう?」


「ん? お主、わしの存在をどんな風に捉えておったのじゃ?」


「 え?

 どんな存在って、妖怪とか仙人のたぐいとかじゃないんですか?

 例えば、雰囲気的に狐とか?」


「狐……プッ、アッハッハッハッハッハッハッハッ!

 ゲェホ、ゲホ、ゴホ、ゴホ、ゴッホ!

 アハハハハハハハ!

 く、苦しい、可笑おかしくて笑いが止まらん! 苦しい!」


(いや、そこまで笑わなくてもいいでしょう、あなた……)



 自分でインフルエンザに罹っているって言ってたのに元気である。

 俺はそれまでずっと沈黙したままの暫定地球の神様に試しに話しかけてみた。



「あのー、何であの人はあそこまで笑い転げているんですかね?

 私、なんか間違ったこと言いました?」


「え? いえいえ、とんでもない!

 あ、いえ何ていうかそのぉ、アハハハ……」


(え? 何それ、その微妙な笑いは……)


「アハハハ! ……ハア、苦しかったぞ。

 そうか、お主にはわしが妖怪に見えておったか……そうかそうか」


(いや、なんか一人で納得してないであんたの正体バラすなら早くしてよ)


「あの、いい加減自分だけ蚊帳の外の状態はやめてそろそろ教えてくださいよ。

 一体何故、私がここに連れてこられたのか、貴女がたは何者なのかを」


「まあ、それもそうじゃな。

 わしもこのシチュエーションに飽きてきたところじゃし、いい加減わしの自己紹介もせんとの」


 

 よくよく思い出してみると、ここに連れて来られてから、この女性から名前を聞いていないのだ。俺がそんな頃を思い返していると目の前の美女が「オホン」と前置きして自分の自己紹介を始めたのだが、まさかその口から飛んでもないことが出てくるとは思いもしなかった。



「では……わしの名前はイーシア。

 元地球の神で現在は別の世界の管理を担当している神じゃ。

まあ、ぶっちゃけお主の隣に黙って座っている御神の上司……と言うより先輩じゃな」


「はあ?」



 多分、この時の俺の顔は今まで生きてきた中でも最も間抜けな顔になっていた。文字通りポカーンとしていただろう。

 そんな状態の俺に構うことなく、目の前の美女改め『イーシア』はどんどん話を進めて行く。



「で、どうしてわしが元地球の神なのかと言うと、わしが神として一人前になった時にちょうど地球で産業革命が始まってな、丁度良いからそこにおる当時ひよっこじゃった後輩の御神に神としての経験を積ませようと思って地球の担当を御神に譲り当時出来たばかりでまだ担当しんがいなかった世界の担当になったのじゃ」


「今、あの人が言ってることは本当ですかね?」



 俺は隣の地球の神様に聞いてみた。

 すると、御神さんという神様は若干焦った様子でこうのたまった。



「え!? えっとお……まあ大体合ってますけど、地球の担当を交代して私に経験を積ませると言うより、産業革命のあと地球で禄でもないこと世界大戦がのちに始まりそうな予感があって、管理が大変なことになりそうだから私に担当を譲ったとお酒の席で酔っ払いながら言っていた記憶が……」


「うわぁ……」



 正直言ってドン引きである。

 おそらく自分のために先輩がわざわざ担当を代わってくれたと思って、頑張って地球の管理をしていたのに酒の席で酔っ払いながら当時の事情を話されて可哀想に……しかも、明らかに面倒事世界大戦が将来起こることを予期して代わって押し付けていたとは……



(ひどいわぁ……)



 そう言えば、以前勤めていた職場にもそんな上司がいた記憶がある。

 簡単な仕事は率先してやるくせに、ちょっとでも面倒そうな仕事になると俺や当時の同僚に振っていた糞野郎。


 しかし、そのせいかモンスタークレーマーや取引先企業の無茶な要求にもへこたれなくなったし、新しい転職先のホームセンターでも適度に仕事をこなすことが出来るようになっていたのだから不思議なものである。そんな過去を思い出してしまったせいか、つい俺は御神みかみさんに対し同情の念が湧いてしまった。



「大変ですねえ、神様も」


「ありがとうございます」


「ところで、お二人にお聞きたいのですが?」


「ん? なんじゃ?

 ちなみに、神の数え方はにんではなくはしらじゃぞ」


「ああ、はい。

 じゃあ、あのお二柱に幾つかお聞きしたいのですが、良いですかね?」


「ん、なんじゃ?」


「はい、何でしょうか?」


「ここは一体何処なんですか?

 サバゲー中にいきなり連れて来られてきましたが、ここはサバゲーフィールドの近くなんですか?

 あと、何で私はここに連れて来られたのでしょうか?

 そろそろ、理由を教えてもらいたいのですが?」


(……あれ? 何で二人して目配せしたの?)



 二柱の神様は一気に表情を硬くした。







 ◇






 毎週日曜の午後18時30分から放送されている国民的アニメ。

 あの時が止まっているとしか思えない7人家族が揃って食事をする居間を忠実に再現したと思われる民家。


 その居間に鎮座している円形のちゃぶ台を囲んでいる2はしらと1人の間には言いようのない緊張が走っていた。


 いや、正確には緊張した様子なのは2柱だけでもう1柱は落ちつかない様子であると言ったほうがよいだろう。そんな状況下で口を開いたのは2柱のうちの1柱、長く美しい銀髪をひっつめた方である。



「先ほどわしはお主に世界の調査をお願いしたいと言ったのを憶えておるか?」


「ああ、はい。

 そういえば、何かそんなことを言われいたような記憶が……」


「当初、お主はわしが世界の調査と言った時、この家のリフォームと勘違いしておったがそのようなことなら最初からお主をここに連れてくるようなことはせん。 ここのリフォームなど神の力を使わなくても自動的に修復される機能が備わっておるからの」


「へ~。 凄いですね、神様の力って」


「うむ。 まあ、そんなことは横に置いといてな。

 世界の調査と言うのは文字通り世界の調査なのじゃ。

 詳しく言うとわしが管理を任されている幾つかの星のうちの一つについて調査をお願いしたいのじゃ」


「あの~、その前に一ついいですか?」


「なんじゃ?」


「ここまで話が進んでいて何なんですが、今一つあなた方が神様であると信じられないのですが……もしよければ、神様である証拠とか見せてもらうこととか出来ませんか?」


「……まだ疑っておるのかお主は」


「すいません。

 話ばかりで具体的な物証を見てないものですから、どうにも信じられなくて……」


「……ふう、よかろう。

 では、その証拠とやらを見せてやろう。

 そのかわり、見た後でそれでもまだ疑うというのは無しじゃからな?」


「はい、わかりました」


「よし、その言葉忘れるでないぞ。

 それでは御神、わしとお前でこやつにわしらが神であるという証拠をとくと見せてやろうぞ?」


「は、はい!」


「それでは始めようかの。

 御神、お前はこやつの右手を握るのじゃ、わしは左手を掴む」



 と言うが早いか、イーシアさんは俺の左側に立ち手を掴む。

 御神さんも同じように俺の右に来て手を握ったが、どうやら今から神様であることの証拠を見せてくれるみたいだ。が、俺はそんなことより美女2柱に手を握られて内心ドキマギしっぱなしだ。


 イーシアさんの風邪をひいて温かくなった手と御神さんのひんやりした手の感触とともに、何とも言えないイイ匂いが2柱から感じられて、頭がボォーっとしてきた。



「何をボーっとしておるのじゃ。

 目をつむって、両方の手に意識を集中せんか」


「ええっ!? 集中したらムラムラしてきてしまうじゃないですか!!」


「アホ! なにを考えておるのじゃ!?

 今からわしと御神でお主にわしらの力と意識を流すから集中して感じ取るのじゃ!

 わしらが神という証拠を見たいのじゃろう!

 ゲホ! ゲホ! ゲホ! ゲホ! ウゲェッホ!」


「そうですよ、孝司たかしさん。

 ちゃんと手に意識を集中してください」


「は、はいぃぃ……」


(ううっ……左右からステレオで注意されたしまったよう)


「よいか、力を抜いて手に意識を集中させるのじゃ。

 手から何かが入ってくるのを感じ取れるか?」


「はい、ちょっと待ってください。 集中しますから……」


 俺はそういって言われたように目を閉じると体の力を抜いて、手に意識を集中させる。すると、手を伝わって何かが体の中に流れ込んできているような感じが最初は弱く、そして段々と強くなってきた。

 

 

「なにか感じるか?」


「はい。 なにか……なにか、温かいものが流れ込んできます」


「よし、そのまま手を握っておれ。

 力を強くするから気を強く持っておるのじゃぞ?」


「はい……」



 すると左右の手から流れ込んでくる温かい何かがどんどん熱く早くなってきた。

 そして……



「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああ!!!!!?????」



 大声で叫びながら俺は畳に倒れ伏した。






 ◇






「………………………………ハッ!?」


「気が付いたかの?」


「あ、起きられたんですね。 良かったです」


 一体、何があったんだろうか?

 というか……俺はなんで畳の上に寝ているんだ?

 


(あ、お決まりの台詞を言わないと)


「知らない天井だ……」


「何を言っとるのだ、お主は?」


「いえいえ、何も。 ……いっつ」


「頭が痛むようじゃな? お主、2時間も寝ておったのじゃぞ」


「寝てたって? あいたたたたたたっ!

 それって、寝てたと言うより気絶していたの間違いでは?」


「まあ、そうとも言うの。

 それはそうと、御神に礼を言っておくのじゃぞ。

 お主が倒れている間、甲斐甲斐かいがいしく介抱かいほうしてくれたのは御神じゃからな」

 

「え、そうなんですか?」


(ほほお、それは男として嬉しいなぁ)



 人間を超える神々しい超絶美人に介抱されるなんて生まれて初めてだ。

 しかし、よく考えたら俺はもう結婚できないかもしれない気がする。

 それぞれタイプが違えど、背筋がゾクっとするほどの美女がすぐ傍にいる上に手まで握り、介抱されれば人間の女性には戻ることなど難しいだろう。

 まさにOh My Godes.だ。



(ただし、1柱はジャージに丹前たんぜんだけどね……)



 それはそうと、とりあえずお礼は言っておかないといけないだろう。



「御神さん、私みたいな野郎の面倒を見ていただいてありがとうございます」


「いえ。

 元はと言えば私達が力を送り過ぎたのが原因なんですから、気にしないでください」


「それはそうと、お主はわしらが神であるという証拠を見ることが出来たかえ?」


「ええ、それはもう。

 お陰様で、とんでもないものを見させてもらいましたよ」


「ほう? そんなにとんでもないものを見たか?」


「ええ……」


 そう、俺が2時間ものあいだ気絶というか寝ているというか、その間に夢とも現実ともつかない光景を見たのだ。


 一体、何を見たか?

 人類の誕生から今日こんにちまでの歴史を見たのだ。


 それも、どこぞの猫型ロボットがでてくる某アニメの日本誕生のような日本限定の歴史ではなく世界中の、それもこの神様達がていたと思われる視点で、だ。

 しかもフルカラーである。


 白黒モノクロではなく、フルカラー。

 昭和時代のブラウン管のような総天然色でもなければ、古い映像にデジタルで色付けしたものでもなければ、2K・4Kでもない肉眼で見るフルカラーだ。


 ツタンカーメンや織田信長、ナポレオンにペリーにヒトラーなど教科書に必ず記載される歴史上の有名な人物から、縄文時代にローマ帝国、桜田門外の変、明治維新、世界大恐慌に2つの世界大戦、キューバ危機にケネディ暗殺や地下鉄サリン事件、9.11テロなど歴史の転換点になる大きな出来事をものすごい速さで、しかし長い時間を掛けて観ていたような気がする。


 多分、この感覚は誰にもわからない。

 過去を覗き見るというより、そこに居たような感覚なのだ。

 まるで、自分がその時その時の登場人物になったかのようだった。



「本当に凄いものを見ましたよ。 あれは全部……」


「全部、本当にあった出来事じゃ。

 産業革命までは、わしが観てきたもの。

 それ以降は全部、御神が観てきたものじゃ」


「本当に貴女方は神様だったんですね……」


「じゃから、最初から言っておったじゃろう?

 お主の聞き分けが悪かっただけじゃ」


「ええ、それについては謝ります。 疑って本当にすみませんでした」



 俺は2柱に対して、素直に謝罪した。

 今まで妖怪だ仙人だと疑っていた自分が恥ずかしい。

 『穴があったら入りたい』とはまさにこのことだ。



「では、わしらがお主にお願いしたいことも聞いてくれるな?」


「ええ、聞かせていただきます」



 正直、俺は腹をくくった。

 あんな凄い体験をさせてもらったし、相手は神だ。

 ただの人間が神から逃がれられるわけがない。

 俺はこの2柱のてのひらの中にいるのだ、ここまで来たら覚悟を決めるしか道は残っていないかった。



「それでは、改めてお主にお願いしたい。

 内容は簡単じゃ、わしがインフルエンザに罹ってしまったのは最初にあったときに伝えたが、そのインフルエンザの所為せいでわしの担当している世界の管理が難しくなっての……お主にはわしが管理している幾つかの星の内、1つを調査してもらいたいのじゃ」


「それは分かりましたが、具体的にはどのような調査を行うのですか?」


「調査については、御神の方から説明させよう」


「あ、はい。 

 そのお、元々は私がイーシア先輩にインフルエンザをうつしたのがいけなかったのですが、その所為で先輩の力が弱くなって世界に変調をきたし始めたのです」


「その変調と言うのは?」


「世界が崩壊し始めているのです。

 それぞれ生物が存在する星ごとで症状が違うのですが、例としては異常気象や生態系の異常に不用意な戦争の頻発、魔力の不安定化、原因不明の疫病の蔓延などです。

 規模や度合どあいなどは、それぞれの星で違うのですがこのまま放っておけば確実のその星は滅亡します」

 

「と言うことは、私が調査する星というのも……」


「はい。

 何かしらの崩壊の兆しがないか調査してもらいたいのです。

 ただ、孝司さんに調査を行ってもらう予定の星はだその兆しが見えてないのです」


「は? どういうことですか、それは」


「言った通りの意味です。

 崩壊の兆しは未だないのですが、今までのデータから見るに遅かれ早かれ崩壊の兆しが訪れると思うので、その予兆をいち早く発見して私たちに報告して欲しいのです」


「ま、早い話がわしの管理する星に降りてぶらぶらしながら予兆を察して欲しいという訳じゃ」


「いやいや!

 ぶらぶらしながらって言いますけど、星ですよね?

 そんな人間にとって、巨大かつだだっ広い所を自分一人で調査するんですか!?」


(マジで?

 神様なら散歩感覚でサクッと終わらせちゃうだろうけど、こちとら人間ですよ?)



 まさか、自分達と同じ姿をしている人間ならば、なんとかなるだろうとか思っていたりしないだろうか?

 正直言って無理である。

 特に海とか海のように超巨大な大河とかは、船や航空機でないと渡ることは出来ない。


 何処かの剣士のようにオカリナを吹いたら、優しい鳥さんが迎えに来てくれるとかそんな特技や秘技は俺にはない。そんなことを考えていると、御神さんが説明を付け加えてくれた。



「あ、大丈夫ですよ。

 いくら我々でもそんな無茶はさせません。

 調査にあたってもらう人達は複数いますので、一人で星の行かせようなどとさせませんから」


「そうなんですか? よかったあ!」


(ホッ、なんだびっくりした。 まあそりゃあそうだよね)



 でも、一人でないとしたらいったい何人で調査するんだろう?



(ちょっと聞いてみようかな?)



「因みに教えていただける範囲で結構なんですが、一人で降りないとしたらいったい何人くらいの規模で降下するんですか?」


「あ、ちょっと説明の仕方が悪かったですね。

 調査は基本的に一人で行ってもらうのですが、調査対象の星に孝司さんを含めて数人が降下してもらうことになります。 基本、大きな大陸に複数人で島嶼部とうしょぶなど比較的小さいポイントにはそれぞれ一人ずつ降りてもらいます。 孝司さんを入れて大体、10~20人前後の日本の方に降りてもらう予定です」


「結構多いですね。

 それだけの数の日本人が居なくなれば大騒ぎになりませんか?」


「あ、その点は大丈夫です。 

 孝司さんは生身のままですがそのほかの方々は、不幸な出来事ですでにお亡くなりになられた方々の魂です。

所謂いわゆる、異世界転生という形で先輩の管理する星に降りてもらうことになります」

 

「そうじゃな、じゃから魂の状態で転生する日本人はわしの顔は知らん。

 彼らが知っているのは御神の存在だけじゃ。

 もちろん、孝司、お主のことも彼らは知らん」



(あ、今俺の名前初めて読んでくれた、ちょっと感動。 しかし……)



 でも、ちょっとだけ引っ掛かる。

 何で俺だけ生きたまま降下させられるのだろう?



(なんか気になるなあ)


「あの~ちょっと疑問に思ったのですが、何故私だけが生きたままなんですか?」


「あ、それは……」


「それは、わしのせいじゃ。

 本当はお主も死んでからわしの管理する星に降りるはずだったんじゃが、インフルエンザでボーっとしておったわしが勘違いしてお前に会ってしまったことで、お主が死ぬ運命から外れてしまったのじゃ」


「はあ!? 俺が死ぬ!? なぜ!?」


「そのお、本当はですね、孝司さんはえっとサバイバルゲームですっけ?

 そのイベントの帰りに車に乗って高速道路を使って帰宅するときに逆走してきた車で……」


「もしかして、その逆走してきた車と正面衝突で死ぬはずだったと?」


「いえ、その逆走してきた車をうまくやり過ごしてほっとしたのもつかの間、さらにもう一台逆走してきた車と衝突して亡くなる予定でした」



 ……ぬぅあんてこったい。



(ってことはあれか、このイーシアさんと言う神様は俺の恩人ならぬ命の恩じんってことなのか?)


「イーシアさん」


「なんじゃ?」


「私の命を救っていただきありがとうございました」


「気にするでない。

 せっかく拾った命じゃ、わしに感謝しとるというのであれば、その分これから行う調査に励んでもらえればわしとしてはありがたいのう」


「はい」


「それでは、気を取り直して説明を続けますね。

 先ほど説明した亡くなられた方々の異世界転生ですが、彼ら彼女らはもうすでに転生して生活を開始しています。

 しかし、彼らは世界の崩壊のことや予兆については知らされていません」


「え? では、どうやって彼らは崩壊の予兆を調査するんですか?」


「調査自体はお主が担当するのじゃが、彼らは要するにハンマーなのじゃ」


「ハ……ハンマー?」


「そうじゃ、ハンマーじゃ。 

 孝司、お主は壁の中の異常を地球ではどうやって調べるか知っておるか?」


「えっと、Ⅹ線画像検査装置で調べたり……」


「それよりもっと原始的な方法でじゃ」


「打音検査という検査方法で専用のハンマーで壁を叩いたり……って、まさか……」


「そう、その通りじゃ。 彼らにはそのハンマーになってもらい、お主は彼らが壁をハンマーで叩いて異音が出たところをさらに詳しく調べて、わしらに報告する役目を負ってもらう。

 もし異常があればわしが直接、神の力を持って補修・修理する。

 それくらいのことが出来るくらいの力は戻って来ておる」


「でもそこまで上手く行きますかね?

 だって彼らは自分が転生した先の世界が崩壊するかもしれないなんて知らされていないんでしょう?」


「そこは気にせんで良い。

 彼らは多かれ少なかれ転生するときに御神から様々な力を授けられとるし、前世地球で過ごした記憶や知識、経験はそのままじゃ。

 降下場所はそれぞれかたよりが無いようにしたが、生まれる家庭や民族・種族はバラバラじゃからな。

 絶対に自分の経験や知識、特技、御神から貰った力を用いて自分の生活環境を向上させたりそれこそだ見ぬ異世界を見てまわろうと旅行や冒険を画策しようとするはずじゃ。

 そんなことになれば異世界転生者のつね、必ず何かの騒動なり事件に巻き込まれる。

 仮に本人たちが大人しくしていても、周囲の者達が放って置かないであろう」


「と言うことは、その転生者達が起こす騒動の現場に行けば……」


「そう。 これはわしだけではなく、他の神々からフィードバックされたデータでもあるのじゃが、地球に関わらず、異世界に何らかの力を持って転生した者がいた場合、大なり小なり必ず騒動が起こる。

 そして、その騒動によってその星を管理していた当の神自身が気付かなかったバグや変調が浮き彫りになる。

 本来ならそういったバグの修正と調査はわしがするべきところじゃが、生憎あいにくとインフルエンザに罹っておるせいで、細かい力が使えんゆえ調査のみをお主にお願いしたいと言うことになったのじゃ。 まあ、お主が生身で行くことになったのは予想外じゃったがの」


「そうですね。

 私がうっかり先輩にインフルエンザをうつしたばっかりに……」


「まったくじゃ」



 本当にまったくな話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る