《(断章2)手紙を書く人》
第47日 終末暦6531年 4月16日(土)(推定)
拝啓
すっかり朽ちている頃合いかと存じます。わたしにおかれましては、お変わりある日々をお過ごしのこととお慶び申し上げます。
この手紙をわたしが読んでいるということは、私が少女の日記に滑り込ませたこれに気づいたということですね。ひとまず、安心しました。
この度は少しばかりお願いしたいことがございまして、こうして筆を取らせていただきました。近頃の私は黒猫と共にあります。どうやら別のわたしが彼と少女に迷惑をかけたようで、その成り行きで私は久しぶりに彼に会うことになったのです。
彼の目的は「少女を取り戻すこと」です。
聡明なわたしならこれくらい書けばご理解いただけているかもしれませんが、万が一わたしが本当に壊れていたときのために、もう少しだけ補足を致しましょう。
彼は私もわたしもどうでも良くて、彼女さえ取り戻せれば良いとのこと。正直申し上げて、私も彼の意見には同意せざるを得ません。私もわたしのことはどうでも良いのです。
今はこうして丁寧に事の次第を書かせていただいてはいますが、これは単純に私の「手紙を書くときはどうしても丁寧になってしまう」という生来の性格に起因するものなのです。本当は、わたしを劇薬で苦しませて殺したり、カラスの餌にして殺したり、頭蓋骨粉砕機で頭を潰して殺したり、キリン虫にすり潰させて殺したりなんかしてみたい気持ちでいるのです。わたしが消えるなら、私は死んだって良いとさえ思うのです。
けれど、黒猫はそんな私を叱り飛ばしました。耳がもげそうになるほどの大声で叫んだのです。
「自分を捨てるな」と。
耳が痛い言葉でした。しかし、彼の言葉でわたしを本気で取り戻そうと思えるようになったのです。
それまで私は「わたしが他人に迷惑をかけるようなら、回収しとこう」くらいの気持ちでサイハテ中に散らばっていたわたしを集めていました。しかし、今回は本気です。
ですから、私がわたしにお願いしたいのは次の点です。
一つは、黒猫に少女を返すこと。少女はわたしではありません。わたしが少女なわけでもありません。彼女は彼女ですから、ちゃんと彼に彼女自身を返してあげてください。
もう一つは、わたしが私になること。わたしは大きくなりすぎましたね。これは私のせいです。他でもない私のせいです。私はここにいますから、どうか帰って来て下さい。私のところに、わたしの場所に、どうか帰って来て下さい。もうとっくに門限は過ぎています。
そして、帰ってきたらどうか私を殺して下さい。わたしも私と同じくらい、私を殺したいでしょうから。お互い殺し合いましょう。
とは申しましても、私はわたしが帰って来るのを黙って待つつもりはありません。黒猫の目的のこともありますから、私は自らわたしのところに伺うことになるかと思います。
ですから、前もってわたしにこのように申し上げておこうかと思います。
明日、私はわたしをいただきに参上致します。
ではまた明日。
敬具
終末暦6531年 4月16日(土)
憎むべき程の愛を込めて
私より
わたしへ
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