終末少女の日記

笹倉

1、終末暦6531年 3月

《(1)終末の町》

第1日 終末暦6531年 3月1日(火)

 終末暦6531年 3月1日(火) くもり  天ぷらそば(注:トマト天ぷら)


 今日で私がこのアパートに越してきてから、ちょうど一か月経った。その記念に、大家さんから日記(なんと赤い革のカバーで、黒い留め具がついている!)をもらったのでこうして今日から書いてみることにする。


 まだ一か月、されどもう一か月。

 実際のところ、このサイハテという名前の町での生活に慣れたとは到底言い難い。けれど、ここでの生活がとても好きだと心から言える。これからも私はここでゆっくりと時を過ごしたいと思うのだ。

 さて、喜ばしいことに、この記念すべき日に隣の202号室に住人が増えた。お昼頃に、ご丁寧に引っ越しそばを持って現れたのは”ロバパカ”と名乗る男性だった。カシワギという町から越してきたとのこと。

 仕立ての良いスーツに派手な赤と白の水玉柄のネクタイがよく似合っていた。面長のような馬面のような顔面は、右半分が白黒のストライプでもう半分が茶色い艶やかな毛並みだった。右から見た横顔が何かに似ている気がするが、何だったかは思い出せない。雑誌で見た有名人だったか。はたまた、近所で見かけるニューハーフ美人だったか。

 そばを差し出すその蹄もなかなか良く手入れをしているようだった。


「そばアレルギーなようでしたら、こっちのカレーヌードル用の麺をお渡ししますが、いかがでしょうか」


 ロバパカさんはかなり丁寧な口調でそう言い、お辞儀をした。背の低い私の頭の上にロバパカさんの鼻先が乗って、頭のてっぺんが少し湿っぽくなった。

 幸い、私はそばアレルギーではないし、そばは好きなのでありがたく頂戴した。


 ざるいっぱいに盛られたそばを抱え上げて、私がキッチンに入るとそこにトキノ(注:イカサマ師ではなく、同居人の方)がいた。


「お前は良くても俺はそばは食べられないぞ」


とトキノはいつもの低い声で言いながら、床をバリバリ掻いていた。このときは失念していたのだが、彼はそばが嫌いなのだった。もし次引っ越しそばをもらう機会があったときのために忘れないようにしなくては。


 今夜の夕食は、アパートの向かいのメザキさんの店でトマト天ぷらを買って、そばと一緒に食べた。美味しかった。トキノがそばを食べなかったので、もう一日分くらいの量はありそうだ。どんなそば料理にするか考えておこう。


 ロバパカさんのおかげで、良い休日になった。それに、私も、自分が越してきたときのことを思い出して少し懐かしく思った。近いうちに過去のことをこの日記に書き留めておくのも悪くないかもしれない。

 明日からはまた仕事があるので、頑張りたいと思う。



※3月2日追記…お隣さんの名前を勘違いしてしまっていたらしい。カシワギというのは、町の名前ではなく彼の名前だそうだ。じゃあ、ロバパカとは何のことなのだろう?

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