乙女の気持ちはフクザツです。

宮爪 モカ

第1話入学式

「え~、皆さんは、これから6年間我が校の学生として運動に勉学に励んでもらうわけですが、そんな君たちni――

なるほど、簡単に要約して見せよう。これから6年間の学生生活を十分に楽しみ、運動を頑張り、勉強も頑張って第一志望の大学に行きなさい。ということですね?

「新入生起立。」と言われてから時計を見てみればはやもう20分ではないかと思い、少々疲れて生きた足をグーパーグーパーし、心の中で私は呟いた。

こんな簡単に要約されてしまうのであれば3分あれば十分だろう。

だが、先生も大変である。生徒たちを不良にしないように、立派な人間に育てなければいけない。

その意識付けとして入学式に「校長講和」というものがあるのだろうが、それではほとんどの生徒の意識は向上しないことをしらないのだろうか。

1年生にして、こんな捻くれた生徒をもって私の担任になる先生と学年主任の先生は大変だろうなとか思いながらじっと上履きのつま先部分を見ていた。

不意に手に生暖かい感触がある。危ないじゃないか声が出る寸前だったぞ。

確かに手を後ろで組んでいた私も悪い。だがそこに指を入れて遊ぶ勇気があるお前がすごいよ、ありさ。

そもそもがおかしいのだ。入学式だからてっきり名前の順に並ぶのが妥当であろう。

私は秋保雫。「あ」から始まるんだから一番前のはずであって。間違えても後ろに立っているありさとは前後になるはずがないのだ。だって彼女は湊ありさで「み」じゃん。

初日早々「入学式始まるから適当に並んでー」、って先生あなたはバカなんですか。そうでしょうね、ブレザーのボタンを掛け違えて教室に入ってきた挙句、ほかのクラスはもう出たのにギリギリになって教室に入ってきて第一声が「入学式へ向かいます。時間がないので適当に。」

こりゃ「普通」の人がいるのか心配になりながら考えていれば後ろに組んでいた手を引かれた。何事かと入学式に意識を向けてみたらもうみんな座ってるじゃないか。深く考えすぎて周りが見えなくなるのはよくあることだったがまさかここまでとは思いもしなかった。

「雫ちゃん、顔真っ赤で茹でダコみたいだよ。」なんて笑いながらの小さな声が後ろから聞こえるが無視だ、無視。


茹でダコになってからはもう早かった。気づいたら教室にきて席に座ってたし。羞恥心って便利だな。今度ありさにも教えてやるか。

「今日からこのクラスの担任になりました。日立芽依です。それでこっちが副担任の………私が説明するより自分で説明してえもらったほうがいい…かな?お願いしma「えー、副担任の日向充希です。名前だけ見れば女っぽいとか言われますが男です。確かに髭とかは生えてないけど…よろしくお願いします。」

担任がひたちめい先生、副担任がひゅうがみつき先生。日立に日向か。地図で結んだらなんか大きな神社が直線状にあるんだっけ。

名前的にも運命的だからお互い結婚指輪もつけてないことから独身なんだろうし若いんだから付き合っちゃえ。そして少子高齢社会に貢献してくれることを大いに期待する。


そもそもいいのか…担任副担任が若くて。普通は若い先生を育成するためにベテラン+新人みたいな感じじゃないんですか校長!


「えーと、では自己紹介していってもらおうかな!じゃあ出席番号1番の…」


出た!お得意の初回学級活動自己紹介をするがクラス全員分回らず、じゃあ次の学級活動で続きの人はしてもらいましょう!ってなるが次の学級活動までにクラス内では親睦が深め合っていたりグループでうるさかったりして、クラスメートのこと知っちゃってる人が多数生まれているにもかかわらず、前回に出席番号初めのほうの子やってくれたからとやる羽目になる時間だ!

しかも私が当然の出席番号1番だし…


「秋保雫さん!お願いします!そのあとは出席番号順にやってもらうね!」


先生何それ笑顔可愛い。しかも手をパン!ってやりながら首を傾げてニコって笑うのすごい可愛いですよもう今すぐ日向先生と結婚しましょううん、そのほうがいい。立ち上がるか…


「秋保雫、12歳です。好きな科目は数学で、苦手な科目は英語です。料理をするのが得意で、クッキーは家族に好評です。あと本が大好きでいろんな小説を読んでます。よろしくお願いします。」


よっしゃ噛まなかった私えらい!このクラスは40人だからあと39人分を聞かなきゃいけないのか…

1人1分だとして39分…1授業当たり50分だから間に合っちゃうじゃん…なんだ一時間で自己紹介終わるのか…

とか考えてるともう7人目に差し掛かるところだった。

え?みんなはやくなーい。もしかして1人30秒ぐらい?そうしたら19.5分…余裕で終わっちゃうよ!

残りは席から立って話している人のほうへ体を向け、座ったと同時に拍手する係をしていた。時給もらってもいいんじゃない?これ。

作業を繰り返していればやってきました、湊ありさちゃん。おーっと、ありさちゃんはどんな事いうのかなー?


「初めまして。湊ありさです。1番の雫ちゃんとは同じ学校で同じクラスでした!勉強は好きです!仲良くして下さい。よろしくお願いします。」


うわ、すごいよこの子。仲良くしてくださいとまで言ったよ。だからあなたはお友達が多いのね。さりげなく私が使われちゃったけどまあいいか。


「初日ってこんなもんだよねー」

「配られた教科書に名前書いたり新年度の抱負書いたり大体そんなもんだね。まあ進級初日と進学初日ってあんまり変わらないもんだ。」


あの、ありささん?あなたいいんですか?早速クラスメートのみんなから、一緒に帰ろー、と誘われていたじゃあありませんか。

そういえば、電車通学が始まったものの、家が向かいの私たちは帰り道が全く一緒なのは学校が同じである限り宿命のようなものだった。

一緒に通えば一緒に遊びに行くし。ただ、部活は違うけど。


うっ…

満員電車ってこんなものなのか…てっきり私はみんな座ってみんな吊革につかまっていっぱいいっぱいだよーふえー><という状況を描いていたのだが、現実は大きく違った。

登校時が今思えば天国だった…今日は入学式だから送っていくからねー。とありさのお母さんにお世話になったのだ。なんてことだ…私はこれから6年間、この電車で通わなければいけないのかと思うと頭痛がしてならなった。


「こ、混んでるねー…」

「そうだね、今日は少し早めに学校終わったけどみんな同じような感じで混んでるのかな…」


その日は早かった。入学式で校長がこんな話をしたとか、教科書の量が小学校に比べてすごく多くなったとか。冊数的にも。あとはお父さんと帰宅時間があんまり変わらなくなったとか。明日からの中学生活に胸をときめかせながら眠りについた。

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