むかしばなし

白日朝日

むかしばなし

 ぼくにはきらいな女の子がいた。

 その子はぼくの持ち物をたくさんうばっていった。

 お母さんと、ごはんのあとのあまいプリンと、それからふとんの半分と。

 だから、ぼくはその子がきらいだった。

 ぼくのあとから生まれたその子がきらいだった。

「ねぇ、お兄ちゃん」

 その子は言う。

 ぼくはなにも言わない。

 ふとんの中じゃ、なかよくしたこともない。

 お父さんにおこられるのがいやだからその子と話すけれど、だれもいないところじゃぼくは「むくち」だ。

「ねぇ、お兄ちゃんはわたしのこときらい?」

「……きらい」

 半分のふとんは、少しだけさむい。

 ぼくはふとんの中でたからものの青い石をにぎりしめてた。

「ふとんの分だけきらい」

 ぼくが言うと、その子は泣きはじめた。

 すなおに答えただけなのに、どうしたらいいのかわからない。

 だからぼくは――


 ぼくにはきらいな女の子がいた。

「ねぇ、お兄ちゃん」

 その子はぼくのうしろをついて来る。

 公園の道をついてくる。

 ぼくはその子にふり向かない。けれど、その子ははなれない。

「ねぇ、お兄ちゃん見て。きれいな貝がら」

 その子は何か言って。

 ぼくは耳をふさいでいて。

 歩くうち、その子がだれかにぶつかった。

 ぶつかった相手は、ぼくと同じくらいの男の子。

 男の子はおこったみたいにその子をはたいた。

 ぼくはなぜだかカッとなって、男の子とケンカをしてしまった。

 はじめて、人をたたいた。

 しばらくたたきあうと、男の子はかえっていった。

 おでこがいたい。

 あと、ひざっこぞうもいたい。

 やっぱり口もいたくて、とにかく色んなところがいたかった。

 たからものの青い石はどっかにいって。

 泣きそうだったけど、ぼくはなんだか少しだけまんぞくだった。

 その子は泣いていた。

「お兄ちゃんごめんなさい」

 ぼくはなにも言わなかった。

 この子はなにをしても泣いている気がする。


 家にかえるとお母さんにひどくしかられた。

 そのあいだ、その子はずっと泣いていた。

 おかあさんに「てあて」してもらった。

 しょうどくえきがしみて泣きそうだったけどこらえた。

「ねぇ、お兄ちゃん。青い石は?」

 いつも手に持ってるそれがないことに気づいて、その子はといかけた。

「なくした」

「ごめんなさい。お兄ちゃん」

 その子は泣きながら家を出ていった。

 お父さんはぼくをほめてくれた。おとなというのはよくわからない。

 夕方になると、その子はかえってきた。

 泥だらけになってた。

 お気に入りのブラウスもくつしたも茶色になって、かみのけに小さな枝までのっけてた。

 その子は、えがおだった。

「ねぇ、お兄ちゃん! 見つけたよ」

 そうしてその子は、小さな手をひらいて、ぼくに青い石をわたした。

「いらないよ」

 そう答えると、その子は泣きそうになった。

「お兄ちゃんはね。たからもの、一つのほうがいいから」

 ぼくは「いもうと」に石をあげた。

 いもうとは泣きそうなかおをして。

 ぼくはそういう時にあたまをなでてやればいいんだなとわかった。


 ふとんの中。

 いもうとはおずおずとぼくにだきついてきた。

「ねぇ、お兄ちゃんは――」

 いもうとがなにをきこうとしたのか分かった。

「あったかいのは好き」

 だきかえすと、その子はふとんひとつなんかよりよっぽどあたたかかった。

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むかしばなし 白日朝日 @halciondaze

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