伝えたい想い

星成和貴

第1話

「田中隆志君、ずっと前から好きでした!」

 休日に街中をぶらついているとそんな声が後ろから聞こえた。その声はどこか懐かしく思え、また、その呼ばれた名前、田中隆志というのが自分の名前でもあったから振り返った。

 そこにいたのはおそらくは中学校の制服(スカートが長ければ中学、短ければ高校とその程度の認識しかないから、高校かもしれない)を着た少女だった。少女は目が合った瞬間、俯いた。しかし、それでも分かるほど少女の顔は真っ赤に染まっていた。

 ただ、俺はこの状況を理解できなかった。何故なら、俺はこの少女を知らない。そもそも、今年で三十になる俺に、こんな年頃の少女の知り合いがいるはずもない。

「あ、あの……」

 何かを言いたそうに少女は口を開いた。が、その続きがなかなか出てこない。

 俺はその間に頭を巡らせる。

 まず、その声。最初は懐かしさを覚えた。しかし、改めて聞いたその声はまったく聞き覚えがなかった。感じた懐かしさは中学時代のものだった。つまり、目の前の少女とは関係がない。

 次に、少女の年頃から考えてみる。こんな年の子と出会うと考えられるのはバイト先。大学卒業後、内定も取れずにフリーターとして今も生活をしている。そのバイト先に来るお客さんか、と考えるが、そうだとしても俺は覚えていない。いや、もしそうだとしても、田中、という名字は分かったとしても、隆志、という名前までは分からないはずだ。つまり、これもない。

 ならば、それ以外で出会っているのだろうか。外見をよく見てみる。背中の中頃までのまっすぐな黒髪。顔は、はっきりとは確認できない。しかし、先ほど、少し見た感じを思い出してみるが、何度思い出しても記憶にはない。

 ならば、いったい誰なんだ?

 俺が声をかけようと一歩前に出ると、少女は突然走り去ってしまった。その背中を俺はただ呆然と見送るしかできなかった。

 しばらく立ち尽くしていると、周囲の喧騒が耳に入ってきた。その声の中には不名誉とも取れる内容もあった。周囲を見渡すと、奇異、好奇心、嫌悪、羨望、様々な感情の視線がこちらに向けられていた。俺はその視線に耐えられず、その場を逃げるように去った。



 それから一週間、少女は俺の前に姿を現すことはなく、それまでと変わらない平穏な日常が過ぎていった。まるで、この告白がなかったかのように。

 そして、俺はなぜだかあの少女にまた会える、不思議とそんな気がしていた。

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