第181話 事故3

 ジャイ子に会いに行きたくて、次の日、父と交代する母と共に病院へ行きました。

 ジャイ子はあまり病院食を食べようとしないらしいので、好きな焼き海苔とミカンゼリーを持参しました。

 病院に着きましたが、恥骨がまだ痛くて前を向いて歩けず、カニのように横歩きで病室まで移動しました。

 ジャイ子のために病院からDVD機器と「アナと雪の女王」のDVDを貸していただけたようです。それから、ずっと鑑賞していると父からメールが来ていました。

 病室が近づいてきました。救急病院の小児病棟ですので、回転が早く、病室ではジャイ子がもう一番の古参だということ。事故かアナフィラキシーショックの子ばかりのようです。

 ドキドキしてきました。カーテンで隣と仕切られたベッドに近づきます。

 事故以来の再会です。

 ジャイ子、喜んでくれるかな。おかあさんだよ。

 カーテンを開けました。

 ジャイ子!


 ベッドの上に、ジャイ子が座っていました。片腕には三角巾。同じくベッド上にDVD機器が置いてあり、ジャイ子は画面のエルサに見入っています。


「△△ちゃん!」


 呼びかけました。

 ジャイ子が振り返りました。


 ……一瞬のち、私と目を合わせたジャイ子はまた画面へと視線を戻しました。


 あれ?


「△△ちゃん!」


 抱きしめようと手を伸ばす私をジャイ子は振り払いました。

 観てんのじゃ、今いいとこなんじゃ、邪魔すんな。

 とでもいうように。


 えええええ……!

 おかあさん……エルサに負けた!――


 ……ショックでした。

 感動の親子の再会を思い描いていたのに。


 まあ、しょうがないかもしれません。


「ずっとこの状態やねん」


と苦笑する父。終わると再び最初からの繰り返し。


 その後もアナ雪をガン見して、私が動画撮影しようとスマホを近づけると、手で振り払い声を出して怒るジャイ子。

 うう。

 ……悲しいな。


 姉の送ってきた画像の痛々しい顔の傷は、もう癒えかけていました。

 子供というのは再生能力が本当に高いのです。

 じゅるじゅるになってかさぶたが張ったほっぺたは、もう皮が張ってキレイなピンク色になっていました。

 先生が昨日、かさぶたを剥いでくれたそう。


 ああ! 良かった。 こんなにまで治って!

 車の下敷きになった光景を思い出すと、涙がにじんできます。


 その時、整形外科の先生が病室に来てくださいました。ジャイ子の症状を説明してくださいました。

 子供は骨が柔らかいので、大人のようにポキッと折れず、若木骨折となるのだということ。(若い柔らかい木を折り曲げても、また元に戻るという感じです)

 固まりかけている今が肝心な時なので、できるだけ腕を上に上げさせないようにと。だから、三角巾が少しでもズレたらすぐに報告してくださいと。

 しかし子供であるので、腕の動きを制限するようにいってもできるわけがありません。しょっちゅう、三角巾を結び直していました。

 骨が損傷を受けた位置は成長に影響がないところだと思いますが、片方の腕と成長度合いをよく見てくださいと言われました。もし異常があったら診察に来るようにと。少しですが、伸ばす手術というのもあるそうです。


 脳神経内科の先生にもお話を伺いました。

 脳に空気がたまる気脳症は髄液が鼻から水道の蛇口のように漏れ出してくるなら怖いところですが、そんなこともなく段々と空気のスペースは小さくなっています、と。

 実はこの先生にジャイ子のかさぶたを剥がしてもらったので、ジャイ子はこの先生が大キライ。ちょっと痛かったのでしょうね。

 先生の姿が見えるなり


「あっち行ってよよお! バイバイ! バイバイ!」


 と、ジャイ子は必死に手を振り。


「……じいちゃん、助けてよよお! 抱っこよよお!」


 と大騒ぎです。

 えらい嫌われました、と先生は苦笑。看護師さんの話では、先生は普段のキャラクターをかなぐり捨てて全力の愛想笑いと子供向けあやし口調で話しかけてくださったそうなのですが。


 入院中、CTやMRIの検査もジャイ子は大騒ぎしたようです。CTでは身体を固定されるのは怖いでしょうね。MRIは前もって飲んでいた睡眠薬がなかなか効かず寝なかったので、予定時間をオーバーし、また後日になりました。(常にものすごく混んでいる)

 


 またジャイ子は父と母がトイレに行くために少しでも離れようものなら大声をあげて呼んだそうです。


「おーい、じいちゃーん(ばあちゃーん)、おーい!」


 長男にも負けず声がものすごく大きいので、50メートル離れたトイレまで病室のジャイ子の声は聞こえたと申します。ちょっとした公害。


 ひたすら「アナと雪の女王」を観て、私には構ってくれないジャイ子ちゃんでしたが、元気に回復しているようでホッといたしました。

 それにしても、狭いベッドの上でずっと生活を強いられる日々を、よく我慢したと思うのですよ。

 えらかったね、ジャイ子ちゃん。







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