第114話 姉貴がオレを愛しすぎる件について

 オレの名前はK。

 この世に生を受けて以来、オンナに困ったことがない男だ。


 何故かオンナというオンナはオレが一声かければ、すぐにその身体を許す。

 オレをその腕に抱き、笑顔を向ける。

 胸元をはだけさせ、待ちきれないとばかりに、オレの顔に乳房を押し付けてくるオンナもいる。

 

 ハハ、勘弁してくれよ。オレの身体は一つなんだぜ? オレを目の前にすると、オンナたちは欲望が抑えきれないようだな。


 よう、お前たち。オレがうらやましいか?

 でも、こんなオレだからこそ悩みはあるんだぜ。


 例えば。

 カンチガイオンナにまとわりつかれたり……なんてな。

 実は今一人いて、オレはそのオンナとの付き合いに嫌気がさしている。


 ……ああ、また今日も……来やがった。


「Kちゃーん!」


 全く性懲りもなくしつこいオンナだぜ。

 朝っぱらからドタドタと音を立てて、奴はオレの元へ走ってくる。


「カワイイ。Kちゃん、カワイイー」


 おいおい、舌ったらずな喋り方で、男の気を引こうってのか?

 残念だが、オレはお前の身体には全くそそられない。

 くびれのない限りなくダルマ体型に太り気味に近いつるぺたな胸健康優良児ではな!

 加えてなんだ。オレ以上にムッチリした手脚しやがって。そんな身体でオレの相手が出来ると思っているのか?


「Kちゃーん」


 奴は眉毛のつながった丸顔でオレを見下ろした。

 髪型はクレラップレディーを真似たクラシカルヘアーだ。

 保育所の先生に「前髪どっかいっちゃったの?」て、突っ込まれたらしいな。個性派を通り越して、周りのみんなから失笑されてるのをオレは知ってるぞ。


 う……。

 く、臭え! 顔を近づけるんじゃねえ!

 てめえ、朝食に納豆を食べたな?

 ベタベタの手と頬っぺたをオレ様の頬っぺたになすりつけるんじゃねえ!


「やめろ! コラ! △△!」


 ……オレは、その精悍さが滲み出る声にホッとした。


 兄(アニ)ィ!

 助かったぜ!

 兄ィなら、来てくれると思ってたぜ!


 黄色い帽子に、背負った黄色いカバーのスクエアバッグフィットちゃん。ブレザーの半ズボンに白ソックスが眩しすぎるぜ、兄ィ!

 全く、いつ見てもクールなオレの兄貴だぜ。


 兄ィは、恐い顔でオンナをオレから引き離した。


「お前は早く保育所行け!」


 オレにまとわりつこうとするオンナをビシッとたしなめる兄ィ。シビれるぜ。


 残念だが、それから兄ィは急いだように家を出た。

 兄ィはいつも家に居て、オレのそばに居てくれる訳ではない。兄ィは兄ィで毎日出かける所義務教育があるのだ。闘い続ける給食友達サッカー企業戦士大好き少年のようで憧れるぜ、兄ィ!


 兄イが行ってしまったあとも、カンチガイオンナは諦めずにオレのもとへ戻り、再び粘つく手のひらをくっつけてきた。


「Kちゃん。泣かないヨ、泣かない」


 泣きたくもなるぜ、コンチクショー!

 いて、いて、いて。オレの首を引っ張るんじゃねえ!

 オレ様はまだ首が据わってないんだよ!


「アカン! △△!」


 上空から、アルト迫力おばさんが聞こえ、オレは脱力した。


 オレの二号さんセカンドだ。


 セカンドはオレの身体をカンチガイオンナから引き離し、その肉感あふれる腕で抱え、豊満な胸に抱き上げた。


 ふう。助かったぜ。セカンド……


「行ってきまーちゅ!」


 やがて彼方からあのカンチガイオンナの声が聞こえて、オレは安堵した。


 よし、あのオンナは保育所病気のゆりかごに行った。これでしばらくオレは安全だ。


 ――さあ、これからがやっと、オレとオレを愛するオンナたちとのお楽しみの時間だ。


 ……説明しよう。

 オレには今、三人のオンナがいる。


 今、オレを抱いているのはセカンドのオンナだ。

 セカンドは三人のオンナの中で一番プレイがうまい。

 ツボを心得たオレ好みのプレイは嘆息もので、ハハ、全くオレを飽きさせないスゴイオンナさ。

 彼女はカンチガイオンナや兄ィでさえも上手くさばく才能を持っている。家事もバンバンこなすし、なんでもござれだ。

 そういう意味では一番デキる母親以上のオンナと言っていいだろう。

 お、でもこれからセカンドはどうやら洗濯物を干すようだな。

 忙しいセカンドは次のオンナにオレを譲り渡した。


 サードだ。

 ではこれからオレは、サードの膝の上の揺れをじんわりと楽しむことにしようか。


 彼女はファーストやセカンドのピンチヒッターとして、たまにオレの相手をするオンナだ。



 なにをかくそう、このサードは。


 今年で米寿を迎える。




 ……ふ、オレ様の渋すぎる趣向のあまり、驚きで声も出ないか?


 ひれ伏すがいい。

 真の色男というのは、ストライクゾーンに限りがないのだ!

 源典侍カワイイ熟女と戯れた、かの有名な光源氏のようにな。


 まあ、さすがにオレもサードにはハードプレイ立ち抱っこは期待しないさ。それはあまりにもこくだからな。

 だから彼女とはいつもソフトプレイ座り抱っこで楽しんでいる。


 ……ああ、それにしても。

 オレは頭上から降ってくるサードの声に耳をぼんやりと傾けた。

 彼女がオレのために歌う歌ってのは本当に癖になるな。

 ファーストやセカンドが歌うかくれんぼと実は同じだということに最近ようやっと気付いたぜ。

 耳が聞こえないからといっても、よくここまで別の曲のように調子っ外れに歌えるもんだ。


 ……お。

 カンチガイオンナを保育所ウイルスの坩堝に送り届けたオレのファースト運命のオンナがやっと帰ってきたようだな。


 ヘイ、待ってたぜ。


 オレの……スイートハニー唯一無二の乳


 オレが誘う声にファースト背徳の聖女はあわててオレの元へ走り寄り、オレに身を寄せた。

 オレを優しく抱き、恥じらいながらも肌を見せ、その愛すべき清らかな果実神々しい程の貧乳をオレだけの前に晒す。

 オレの頭を包み、オレの口にコケティッシュなマザーズミルクの丸み蛇口を含ませる。


 オレたちはかつてのように一体となる。

 オレはお前の中に流れ込み、お前はオレの中に流れ込む。

 魂の共有だ。

 オレたちには言葉なんていらない。

 身体で、魂で語り合うからだ。

 誰にも邪魔のできない、オレたちだけの崇高な愛の儀式。


 オレの微笑みを見て、お前は満足げに微笑み返し……。

 お互いの愛を確認したあと、オレは至福の微睡(まどろ)みに落ちる。


 ああ、オレのファースト。

 業の深いオンナ。


 彼女はオレという男がいながら三か月に一度、間男謎の船乗りを家に引き入れる罪深きオンナだ。

 オレはそれを黙認している。

 広い心でその行為を受け止めてやっている。


 ふ、仕方がないさ。彼女はまだ若いんだ。他の男が欲しくなるときもあるだろう。

 だがそれにしてもオレという究極に若い男ピチピチ美乳児がいながら、他に男枯れかけた中年を求めるなんてな。

 ハハ、全く欲深なオンナだぜ。…………


「Kちゃーん!」


 ハッ!

 オレは目を見開き両腕を突き上げたモロー反射した

 しまった、カンチガイオンナが帰ってきたか。

 いつの間にか寝入っていたオレは、近づいてくる騒々しい足音に恐怖する。


「△△もいっしょに寝る!」


 ぐああああ!

 狭いだろうがよ!

 オレの段ボールに座布団オリジナルベビーベッドの聖域にお前ごときが割り込んでくるんじゃねえ!


 容赦なくオレの隣りに横たわったオンナは、あろうことか今度は自分の上着をめくりあげ、その胸板を目前にさらした。


「はい、△△のオチチ」


 ふ、ふざけるな!

 こ、このオレ様にお前のようなつるぺたに吸い付けというのか? く、屈辱にも程があるぜ!


 だがオンナはそれだけでは終わらなかった。オレ様の顔にまな板を押し付けてきた。


「Kちゃん、オチチだよさあ呑めやおいちいおいちいさあさあさあさあ


 ファースト! 助けてくれええ!

  このカンチガイオンナをオレの前から追っ払ってくれえええ!


 オレの悲鳴を聞きつけたファーストは、あわてて駆け寄ってオレを抱き上げた。

 すると


「アカン! △△のママよお!」


 なんと、カンチガイオンナはファーストの脚に抱きついたではないか。


「Kちゃん、抱っこアカン! まあま、△△抱っこしてよよお!」


 なんだと?!

 まさかこのオンナ、そのケ百合もあったのか?


 ぬかったぜ。

 オレに執着するだけじゃ飽き足らずオレのファーストにも固執してようとは。


 オレはこのオンナの愛欲の対象ポポちゃん人形でもありながら、嫉妬の対象ライバルでもあったのか?

 くそ、なんて複雑で赤ちゃん返り面倒くさい大爆発中オンナなんだ!


「△△、おっきい赤ちゃんよお! 抱っこしてよよお!」


 カンチガイオンナはバタバタと足をバタつかせて、床を転がりだした。


 う、うるせえ……。


 めんどくせええええ!

 しちめんどくせええええええええ!


「じいちゃあん、抱っこよよおお!」


 お。

 こいつめ、ついに最終兵器育ジイを呼んだか。


「ああああん、じいちゃあん!」


 カンチガイオンナは呼び出したナイスシニア父親代わりに抱き上げられて去っていった。


 ふう、ようやく一難去ったぜ。……



 それから、オレは恐怖の水行おふろを終え、その時一日の終わりが来るのを今か今かと待った。


 兄ィの目が明後日の方向を向眠気でとろんとき、前後不覚になるのを。……


 20時を過ぎると理想的なバタンQ子供の就寝し、翌朝5時には年寄りのように目覚めてひたすら仮面ライダーのDVDを観ている兄貴。

 さすがオレの兄ィだぜ。今時の他の奴ら小学生とは一味も二味も違う。

 兄ィの様子がスタンバイ就寝モードに入ったのを見て、ファーストはオレを抱き上げた。


「さあ、兄ちゃんと一緒にネンネしに行くよ」


 オーライ。ファースト。


 ああ……始まるぜ。

 オレたちの夜がよ。

 二人だけのめくるめく甘い夜がな。



 暗闇の中、オレの誘う声にお前はアンニュイ眠くて死にそうな顔で、応える。

 オレの乞うまま乳房を出し、オレにその身体を委必死に眠気とねる戦う

 オレはお前の温もりに埋もれながら、ほとばしる愛液マザーズミルクを貪いつくす。


 それは、夜毎三時間おきに繰り返される、二人の濃厚な愛の交歓式……!


 お前の懐でオレは息もできないほどの愛に包まれて、何度も満たされては眠りに落ちるのさ……。


 ああ、幸せだ。

 これ以上の幸福があるだろうか。


 オレは生涯、これ程愛せるオンナを、もう見つけることが出来ないだろう……。


 ファースト。


 オレの唯一のオンナおかあさん……。


 オレはお前を一生……ーー



「Kちゃあん!」


 ハッ!

 オレは目を見開き両腕を突き上げるモロー反射する

 も、もう朝か……。

 部屋に差し込む朝日にようやく気付いて、眉をひそめる。


 カンチガイオンナがオレのもとへやって来るドタバタ音が聞こえる。


「Kちゃあん! 起きてよよお!」


 ……くそ。

 また来やがったか。


 全く、朝っぱらからいつもうるせえなあ、本当に。



 あいつお姉ちゃんはよお……。



 オレは小さくため息をついて、観念した。








 




 ーーそしてまた。

オレの長くて早い一日が始まろうとしている。








※三カ月になります次男をモデルに書いたお話です。家族総出の育児の協力には本当に感謝しております。

カンチガイオンナ(ジャイ子)の前髪を切ったのは、私の母(セカンド)です。






















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