第50話 忘年会

忘年会シーズンですね。


 陸と同じで海でももちろん、忘年会はありますよ。

 新年会も、歓送迎会も。

 ただ、場所は船の中で行うだけというだけです。


 そう。

 陸の人のようにお店を予約するなんてことはなく、すべて自分たちで行うのです。

 私の乗っていた船はフェリーですので、その中の会議室を使い、会場としていました。

 忘年会の準備、片づけ、全部、自分たちで!


 特に私は調理員。

 そうです。余計な仕事が増えるだけじゃねえか!

 ああ、めんどくさ、と思いながらつまみのフライドポテトとか枝豆とかから揚げとかチーズとかフルーツを用意しておりました。

 船から忘年会費用は出ますので、私たちが払うお金はありません。それはいいんですけどね。


 大体、開始は十時から。

 それぞれの部署の仕事が終わって、みんながお風呂に入ったあとで始まります。

 みなさん、Tシャツとジャージ姿で集合。


 パーサーの挨拶で始まります。


 船のカラオケが使えますから歌い放題。

 パーサーが十八番の「ガッチャマン」を熱唱して、一気に盛り上がります。

 おゆるしが出るときはとなりのレストランに行って、自分で生ビールついできてもいいよ、というのもたまにありました。(嬉しい)


 も・ち・ろ・ん。

 基本、オールナイトですよ。当たり前じゃないですか。

 定年間近の方々だって普通にオールされてたことを思い出しますと、今になって本当にすごいなあ、と思うのです。


 船乗りはタフじゃないとやっていけねえ!!


 当然、次の日は通常通り皆さん勤務ですよ。(私は六時半出勤)

 で、わたしたち下っ端はアサイチで昨夜のその片付けから仕事は始まるのです。

 いやー、キツイ。これが下船までまだまだ日数があるとなると、ウンザリします。

 下船まで休日はありませんからね。ぶっとおしで働かなければなりませんから。ペース配分が乱れちゃうと本当に苦しいのです。


 主人の乗ってる貨物船も似たようなものでしょうね。

 いったんはお開きになっても、そのあと上司の部屋で延々と二次会とか。

 下の人間は断れないのでキツイと主人は申しておりました。

 船に住んでいるわけで家に帰るわけじゃないのです。

 終わったとしてもその後、風呂場やトイレでばったり上司に会って、よっしゃ今から部屋に来い、再開だ、なんて言われちゃうのですよ。


 これがね、陸上とは違ってて戸惑いましたところで。

 陸の仕事で初忘年会に行ったとき。


 え? 二時間で終わりなんですか? と拍子抜けしました。

 これっぽっちでいいの? と。


 オールはないけど、三時間以上はまああるだろうと思い込んで子供を連れて行こうと、保育所に子供を迎えに行ってから途中参加しましたら。

 みなさん、ビンゴを始めるのを待っててくださったので真っ青になりました。

 そして、ビンゴ終わってすぐ解散。あせりました。

 なんだ、これなら少し延長保育にして終わってから子供を迎えにいけたじゃないか! と。

 陸は、違いますねー。あっさりなんですね。

 まあ、やる気がある人はそれから二次会とかなんでしょうけど。オールはないでしょうね。学生でもあるまいに。


 ここで余談を。

 海の人間が結婚式、二次会を挙げた際、招待客の中で最後までしつこく残っていたのは同僚の海の人間しかいなかったとのことです。なんだか恥ずかしかった、とその中の一人であった自分も海の人間であるA先輩がそう話されていました。

 陸の人はさっさと引き際が分かるんですね。海の人はとことん居座っちゃいますからね。



 さて、現在では忘年会なんて縁のない生活をしている私。


 船時代のオール忘年会を思い出しては、少し懐かしく感じちゃったりするのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る