第45話 電車内のお兄さん

二年前に、風疹が流行りましたよね。

 その時ちょうど、二人目の子、長女を妊娠中(しかも初期)でしたのでビクビクしておりました。

 とはいっても、その二年前(今から四年前)に私は風疹にかかっておりましたので、抗体はばっちりあったのですが。

 それでも怖い。

 何故なら、四年前でも抗体はあり過ぎるくらいあったはずなのに、私は風疹にかかってしまったからです。


 四年前、身体に発疹が出た私は病院へ行きました。風疹の疑いがあると診断され、長男の母子手帳を持ってきて見せてください、とドクターに言われまして。(長男妊娠時の風疹抗体検査の結果を確認するためですね)

 一度家に取りに帰って、先生に見せますと、ああ、めちゃくちゃ抗体があるので、風疹のハズはない。良くあるんですけど、風疹モドキですね、と言われました。


 しかし、血液検査の結果は、ばっちり風疹だったのです。

 先生も、こんなに抗体があれば風疹になるはずがないのになあ、と首を捻ってらっしゃいましたけど、こればっかりは分からないと思います。

 その時は、かなり疲労してましたんで、抵抗力が非常に落ちていたのでしょう。

 めちゃくちゃ抗体があったとしても、かかるときゃかかるのです!

 だから皆さんもワクチンを打ったからといって、慢心されない方が良いかと。

気をつけてくださいね。

 普段の体調管理が一番! ですね。


 ですので、二年前の冬、私はまた風疹にかかる可能性を考えて、怯えておりました。

 通勤電車の中が怖くて、マスクは必ず着用しておりました。

 その時、職場の新宿まで京浜東北線から、銀座線、丸の内線へと乗り換えるのが主なルートでした。

 首都圏の混み具合は、想像を絶しますね。

 悪阻もひどく、電車の中は色んな匂いがして非常に辛い。

 なかなか座れず、クラクラしておりました。

 そんな時に出会った、ある男性のお話をいたします。


 ーー運良く座れた、ある日の私。(丸の内線だったと思います)

 ボンヤリと前の座席の人を見ておりました。

 すると、私の真ん前に座っていた四十過ぎと思われるサラリーマンのお兄さんが。

 鞄から、何かを取り出しました。


 それは……ヒビスコール!


 手指消毒用のアレですね。

 病院や施設の入り口によく置いてある、あの容器のままです。だから、かなり大きい。


 何するのかと思って見ていますと、お兄さんは容器を持ち上げました。

 そのまま、容器を逆さまにし、首の後ろへと持っていきました。


 え?

 私はびっくりしました。


 ノズルの先を首に当て、お兄さんは自らのうなじにシュッ、シュッ、シュッ。(かなりたっぷりの量ですよ)


 えええ?


 私はうろたえて、周囲の人に目を配りました。

 が、やはり朝の通勤電車。

 皆さんお疲れで、全員が目を閉じてらっしゃいます。

 お兄さんの行動に気付いているのは、この私だけ!


 たっぷりうなじにかけたヒビスコールを、ハンカチで拭くお兄さん。

 目を見張っていた私にお兄さんは気付き、目が合って、ニヤッと私に笑いかけました。


 ……そのまま何事もなかったように容器を鞄に戻し、次の駅で降りていかれました。



 職場に着いた私は早速、興奮してみんなに報告しました。


 ーーアレは、なんなんですかね? 首の後ろに怪我してたとか? 消毒してたんですかね?


 同期のお姉さん(九歳上)が言いました。


 ーー違うよ、それ、アレじゃない? 加齢臭!


 加齢臭?


 同期のお姉さんが教えてくれた話によると、加齢臭は首の後ろ側、うなじから漂ってくるそうですね。


成る程。加齢臭対策ですか。


 しかしそうだとしたら、な、なんと、ダイナミックなエチケットタイムを目撃してしまったのでしょうか。

 といいますか、あのお兄さん、いつもあの容器を持ち歩いていらっしゃるの?


 割と衝撃的でしたので、この季節になるとあのお兄さんを思い出してしまう私です。……



 あ、皆さん、風邪、インフルエンザには気をつけましょうね。

 手洗い、うがいの季節です、よ。


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