第20話 寝かせてくれない

眠れません。

たった今までアイツらがこの部屋にいたからです。

アイツらは私の身体を好きなように刺していった挙句、注入していきました。

おかげで刺された場所が疼いて眠れません。


……太もも、手の指の間、足の甲、足の裏と!


秋の蚊って、本当に腹が立ちますよね!

ええい、我慢できない!

痒い! 特に足の裏!


彼ら……じゃない、彼女ら(妊娠してる蚊しか刺さないというのは本当でしょうか?)は、秋になると子孫を残すために必死のパッチです。もう、手当たり次第。何カ所も。

子供のために良質の栄養を取ろうとする彼女たちの気持ちは分かりますが。


彼女たちがあの痒くなる成分を注入さえしなければ、私はいくら刺されたって構わないです。ええ。少し位の血なら、分け与えましょう。くれてやりますよ。

問題は、あの痒さ!

あの痒さに、寝ているとき無意識に掻きむしったりして、刺された跡がひどくなることがありますよね。若い時ならすぐ治ったのに、今ではなかなか跡が消えません。


話は変わりますが、首都圏のおねえさんたちの脚はキレイですよね。やっぱり都会の女性は見た目に気を使い、脚の手入れにも気を抜かないんだろうと思っていました。

違うんですよね!

横浜に住んでみて分かりました。

あそこに住んでると、蚊が少ないんです。刺されないだけだということなんですよね。

横浜に住んでいた時なんて、一ヶ月に2〜3回刺されるのがせいぜい。

今住んでる実家の田舎だと、一日に2〜3回! やってられません。

そりゃあ、首都圏のおねえさんたちの脚はキレイだわ。


あー、痒い。痒いです。我慢、我慢。

この三日間、寝室に彼女たちは住みつき、私と息子、娘を何回も刺しやがりました。本日、就寝前に仇をとってやりました。娘を餌食にしようと、フラフラ狙いをさだめていた彼女を返り討ちにしてやりましたぜ!

三日間、私たちの血を吸いためていた彼女を潰すと、出てきたのは固まり気味の赤黒い血。やっぱり、蚊のお腹のなかでも血は固まるのでしょうか。

あー、これで枕を高くして眠れると思ったら……不覚!

何と刺客は一匹ではなかったのです!

二番手の彼女は、私が先程申した場所を襲いました。

復讐に燃えた私は、電気をつけて必死で彼女を捜索しましたね。

年齢のせいか、モスキート音があんまり聞こえなくなった私は、目だけが頼り……と! 今、耳元でモスキート音が!

何と、三番手!?


……大丈夫です。無事です。

今、肩に止まった彼女を絶命させました。

うわ、これは誰の血?息子? 娘?

くっそお。一体、刺客は何匹いるのでしょうか?


二番手の彼女は、部屋の隅々まで目を凝らし、カレンダー裏の壁にひそんでいた彼女を見つけてカレンダーごと潰しました。

倒したのは三匹。これで、どうか終わりますよう。……




ーー私が中学生の頃、二ヶ月間部屋に住みついた一匹の蚊と格闘したことがありました。八月から十月までその彼女は生き延びたんですよ!

毎日、蚊取線香を大量に炊いても、彼女には効かず、私が目眩を起こすようになって蚊取線香は中止しました。

彼女には耐性があったとしか思えませんね。

夜中、フラフラと彼女がどこからともなく現れては寝ている私の顔周りを刺していく日々は、屈辱的でありました。

最終決戦の日のことを覚えています。

必死に部屋を捜索した結果、ハンガーにかけてある衣服の間の彼女を発見。

こちらに投降した彼女を、直ちに極刑にしてやりました。

驚きました。

あんなに大きな蚊を日本で見たのは、後にも先にもあのときだけ!

ロシアで見た蚊に、近いものがあったのではないでしょうか。


私は思います。

子を産むことをやめ、人の血の味を覚えてしまったあの彼女は、蚊ではない何モノかに変化する途中だったに違いありません。

人を喰って猫が猫又になるように、やっぱり人の血肉には何か魔力があるように思います。

あのまま、彼女が血を吸い続けていたなら、妖怪のようなモノに変貌を遂げていたと思います。

なんてオソロシイ……。


怖いですね。


……あ、でも今、一番怖い彼女たちはデング熱の彼女たちか!

首都圏に住まわれてる方、気をつけてくださいね!






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