第十二話『全ては連環の輪の中』
第一幕『アジト』
北の大陸と南の諸島国家コスタペンニーネの間には、東から西へと流れる大きな潮流がある。また大陸の間を流れ、中央の大きな流れに大小様々な潮が交わる一帯には、小さな無人島が点在している。それなりに大きな島が点在する一帯は潮の流れが複雑になり、商船などはその一帯を避けて航行するのが常識だ。
だがそう言った場所を逆手に取って、海賊たちは隠れ家を作り拠点にしたりする。所謂海賊のアジトは世界中の諸島郡に点在している。例えば五大海賊ともなればその規模はかなりの大きさになると噂になっている。大よその位置は分かっても、その詳細な位置までは知られておらず、もし分かったとしても辿り着くまでには相当な航行技術や船舶が必要とされる。海軍などがその拠点を潰す作戦を打ったとしても、何隻もの戦艦と人材、多額の費用を投じなければならない一大作戦になるため、早々にそんな予算を組める国は少ない。
故に、海賊になりその拠点へと立ち入りが許されるのは、本当にその海賊の一味として認められた証拠となる。海賊として名乗るようになって早一年。僕、メーヴォ=クラーガは初めてヴィカーリオ海賊団の拠点へと案内されようとしている。
ゴーンブールの南東、ゴーンブールの東から流れ込む潮流と、中央の海流が交わる海域。小さな島々が点在している為、それなりの船舶と航行技術を持った者たちでなければ近寄らない海域に、死弾の拠点はあった。
『あるじ様、何と言う景色でしょうか』
『……ああ、本当だ』
「見えてきたな。アレが俺たちのアジトだぜ」
「本当にアレがアジトなのか?何処からあの島に上陸するんだ?」
示された光景に僕は柄にもなくラースを質問攻めにしてしまった。左耳の上に陣取っている鉄鳥も興奮気味に揺れている。
「まあ待てって。島の裏側に行けば分かるよ」
ニッカリといつもの笑顔を見せるラースに、僕はソワソワと落ち着かない気持ちを持て余した。
目の前にあるのは大海原に一本の杭を刺した様に悠然と聳える断崖絶壁の孤島。周囲に小島はなく、何故そこにそれだけの島が残ったのか不思議になる程、その島はぽつんと海の真っ只中にあった。此処数日の航路は確かに海流が読み難くて苦労したが、だからこそこの島は見つけにくいのかも知れないと納得も出来た。
エリザベートのマストの二倍はあろうかと言う高さの崖は、長年風雨に晒されて取っ掛かりのない垂直さを見せて島の周囲を囲んでいる。所々崖は反り返って天板を浮かべたようになっている箇所もある。港を造れそうな立地があるとは思えず、ゆっくりと距離をとって島の周りを周回した先で、僕はまた感嘆に声を上げた。
「何だあれ」
「アレがアジトへの入り口さ」
崖の壁に、ぴったり船が一隻通れるほどの巨大な亀裂が口を開けていた。
「よぉし風力部隊!微速前進、風を一定に保て!」
船の後方で円陣を作る風力部隊の四人が、一定の風を帆に送り始める。舵を少しでも傾けたら船体が石壁に激突しそうな、ギリギリの幅でエリザベート号は亀裂の中へと進んで行った。ラースの舵取りの技術には時々驚かされる。
「ようこそ!ヴィカーリオ海賊団のアジトへ!」
両腕を広げてラースは僕に向き直った。ラースと、その後ろに広がる光景に、僕は驚愕と苦笑でしか返事が出来なかった。
『なんと言う事でしょう、あるじ様!』
「……冗談みたいだな」
「夢だと思うなら、頬でも抓ってみるこったな!」
再び舵を取ったラースが船首を向けた先に、亀裂から繋がる空洞と、そこに建造されてた港が広がっていた。
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