第六幕『小さな仲間』
それを遠巻きに眺めつつ、小竜の姿のお頭とニコラスさんがコソコソお話していました。
「正直に言うと、こうして子供になった上に記憶がなくなってしまうと、ウチの船では手に余るのでな。子供の扱いが出来そうな船員のいる、金獅子か死弾の二択だった」
「大旦那のトコの副船長さんも結構子供好きそうだけど?」
「アレはアレで面倒事を嫌うのでな」
「極悪海賊とはまさにアンタの事だな」
「悪くない誉め言葉だ」
それは多分誉めてないですニコラスさん。
「これが報酬だ」
言ってお頭にニコラスさんが羊皮紙を差し出しますが、お頭はこの通りなので、ぼくが受け取りました。
「貴殿の船に追い風を」
言ってニコラスさんは船を降りて行きました。
「大旦那もお元気で!強すぎる横風にはお気を付けて!海の供物の加護を」
精一杯の嫌みでニコラスさんを見送ったお頭が、竜の体を持て余すように甲板にどっしりと座り込みました。が、尻尾が邪魔な上に人間の骨格と違うドラゴンの姿では座る事が出来ず、体を丸めて伏せてしまいました。
「で、それは何処の海域だって?」
ちらりとドラゴンの瞳がコチラを見て問います。
「おそらくゴーンブール西の離島群です。珊瑚の島が続く座礁注意海域ですね」
ふむーっと鼻息で返事をしたお頭が、ぐっと首をあげて周囲の船員に告げます。
「よぉし、お前ら!勇敢な新たな仲間と共に、明朝出航だ!それまでに出航の準備を怠るんじゃねぇぞ!」
その声に男たちは地鳴りの様に声を揃えました。ようやく落ち着いたメーヴォさんが、マルトの腕の中で物珍しそうに船員たちを見ています。鉄鳥さんはすっかり定位置の左耳の上へ。程なくマルトの回りにはメーヴォさんが指揮していたクラーガ隊の面々が集まって、すっかり可愛らしくなってしまったリーダーをちやほやし始めていた。
「何故、クラーガ隊なんです?」
「君のお父さんの元お弟子さんたちなんだよ」
嘘も方便ですね、マルト……。
クラーガ隊がワイワイと服を調達に行ってくると言い残して船を降りて行きます。それを見送って状況を把握したメーヴォさんが、取りあえず羽織ったブカブカのシャツのまま、寝そべるドラゴンのお頭の元に走って行きました。
「あ、あの、船長!お世話になります!」
ぺこっと頭を下げたメーヴォさんがあまりにも以前の姿と違う、しかし子供らしい素直さに、その場にいた全員がほっこり和みました。
「これがあのメーヴォだなんて、信じられない……」
お頭泣いてます。気をしっかり持って下さい。さてさて、今回の航海も一波乱ありそうです。
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