第十四幕『終幕』
偽金獅子と同じくらい巨躯の男が、片腕で大斧の柄を掴んで止めていた。
「ディッ……ディランド、様」
「女海賊さん、遅くなったな。ようやく体が動くようになって来たぜ」
コイツらの使った薬なら、恐らく以前僕が飲まされた物と同じだろうが、この短時間で効果が切れるとか、ディオニージ船長の体はどうなってるんだ。これが鬼人族と言うやつか。
「さぁて、金獅子さんよ。このディランド様を怒らせたその報いはきっちり払ってもらうが、覚悟は出来てるか?」
本物の威圧はやはり違う。圧倒的な力を持つ者の存在感が小さき者を喰い尽くさんばかりに迫る。魔法で隠したはずの額の角が見えるようだ。偽金獅子がひきつった顔で無言の謝罪と慈悲を請うが、ニコリと笑ったディオニージはそれを許さなかった。バキン、と大斧の柄が握り潰される音がホールに響く。
「ダ、メ」
語尾にハートが付いたようなにこやかな拒否の言葉と共に、ディオニージの左フックが偽物の腹にめり込んだ。偽物の体が良く破裂四散しなかったと人体の不思議に驚くレベルで、巨体が宙を舞ってホール端まで吹き飛んでいった。
「よし、えー、エルクを助けてずらかるぞ」
ぱんぱんと手を払いながら、ディオニージが何事もなかったようにホールを出ていく。
他の客人たちが絶賛と畏怖の混ざった複雑な眼差しを向ける中、どうせ動けない連中だし、僕自身は変装しているワケだし、と気持ちが大きくなった。
「さぁて、みなさんも命が助かったわけですし、それなりの謝礼をして頂きましょうかしら!」
笑顔で振り返り、動けない貴族たちが身につけているアクセサリーの類を片っ端から取り外して回った。
「命の代金ですもの、これくらい安いですよね」
にっこり笑って見せれば、大概の人間がひきつった笑いで返してくるからチョロいもんだ。
「おぉーい……私の愛しのパーヴォぉ……」
「女海賊さんよ、旦那は返してもらったぜ」
ホールにヨロヨロしたラースの声と、ディオニージの声が響く。入り口にはディオニージに担がれたラースの姿が見えた。そろそろ潮時だ。
「それでは皆さん、ごきげんよう」
ホールで未だ動けず転がるクリストフ提督とその客人に優雅に一礼して、女海賊パセーロ=ローゼスの華麗な活躍は幕を閉じた。
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