第八幕『ふたつめの夢のおわり』

 海底を流れる潮の音しかしない。魚すらいない、深い深い冷たい海の底。船も、仲間も、共に往こうと決めた船長も、みんなこの海に沈んだ。手足の感覚がない。僕の息は細く細く、小さな気泡だけを海面に届けている。


 全て無くなった。大海原を行く帆船も、甲板で楽しく騒ぐ仲間も、静かに付き従ってくれた使い魔も、命を拾ってくれた男も、全てが海に沈んだ。僕は何も遺す事が出来なかった。けれどもう手遅れだ。悔しい。こんなにも悔しい。溢れる涙が海水に溶けて、そこだけ熱い。


 なんて、なんて馬鹿げた最期だ。


『メーヴォさん!』


 僕の名を呼ぶ人など、もうこの世にはいない。だって両親も幼なじみも知人も、みんな僕がこの手で殺して来た。


『隊長!』


 みんな沈んでしまった。


『あるじ様!あるじ様、これは悪い夢でございます!起きて、起きてくださいまし!』


 悪い夢なら、ずっと見続けてきた。技術は平和のために、文明の発達のために、みんなの為に使うものなのだと説き続けた両親の言葉は、毎日見る悪夢だ。


『メーヴォ!起きろ馬鹿!』


 ラース……?


 どぼん、と水音がする。水面に大きな泡の塊が見える。深い森の木漏れ日が揺らめく。さっき一緒に沈んだはずの男が、水面から必死に潜水してくる。


『お前がいなかったら、誰が俺の銃の整備をするってんだ!やっと手に入れた鍵だぞお前は。勝手に、死ぬんじゃねぇよメーヴォ!』


 胸が苦しい。水圧がかかるような圧迫感に、胸が押し潰される。僕を呼ぶ声がする。呼吸を忘れかけた肺に押し込まれる空気の圧迫感で、苦しい。


 もがく様に水の中を降りて来るラースが手を伸ばす。


 ……ああ、助けてくれ。僕は、まだ死にたくない!ラース!

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