第五幕『仕立て屋にて』

 大きな海老のガーリックオイル焼きを平らげて酒場を後にし、ラースに連れて来られたのは仕立て屋だった。海賊だろうが国軍だろうが、金を出せば一張羅を仕立ててくれるがめつい主人の店は、海賊とも商人とも付かない男たちで賑わっていた。


「お前のそのシャツとズボンじゃ格好がつかねぇからな。新人海賊に俺様が一丁服を買ってやるぜ」


 着の身着のままで投獄されてそのままだったシャツとズボンは、十日間の大掃除の間に更に汚れて、今や囚人服の方が立派な有様だ。


「好きな服を選ぶと良いぜ」

「……なら、コレと似たようなシャツとズボン……あと、ブーツが欲しいな」

「コートとかもどうだ?お、この帽子なんか似合いそうだな」


 大きくて派手な飾り羽根のついた帽子なんぞを手にしている辺り、遊ばれることは間違いなさそうだ。さっさと決めてしまうに限る。

 キャスケットに似た青い帽子と、肩に革を張って補強してあるマントのようなコート。そして高いヒールのロングブーツ。


「え、これ履くの?」

「背が低いのを舐められたくないんでね」

「美人が履けば様になるんだけどなぁ」

「僕が美人じゃないって?」

「はっ、いやいや!お前も相当な美人の部類だぜ?……ぶっ、わっははは!」


 腹を抱えて大笑いするラースを他所に、足が吊りそうだな、と店主に揶揄されたが、慣れている、と一言返して履いて見せれば、ほう、と店主は声を上げた。


「小柄でよく馬鹿にされたからな。成人してからずっとヒールで生活していた」


 カッと高らかに踵が鳴るそれに満足して笑みが漏れる。全身を新たにコーディネートして、姿見の前に立つ。


「フゥー!カッコイイー!」


 俺の方がカッコいいけど!と釘を刺しながらも褒めて来る辺りはちゃっかりとしている。海賊と言うよりは航海士や学者と言った風貌になったが、コレはこれで良い。


「勘定はコレでいいか?」


 ラースがポイっと店主に何かを投げる。それが深い色に輝く青の宝石であると見て取れた。中々太っ腹な支払いをする。

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