深き心の闇に光指す

「おまたせ~。」


「おまたせ致しましたわ!」


同時に現れる。


シェンくん、選ぶ時間か?

真っ赤なチャイナに金刺繍は竜。

派手だな、をい。


対するシュンカちゃんは、エンジ色からパステルオレンジにチェンジしたものに、胸当てと何かでっかい物騒なもの。

あ、あれってあれだ。"円月輪"ってやつ。

刃物を丸く繋げて、投げて攻撃するやつ。

……可愛い顔して、えげつない武器だな。


てか、この見た目女性(二人は確実に女性)が格ゲーにいたら、目立つな。

赤に青にパステルオレンジとか。

しかも、美女(?)揃いだ。


あれ?シェンくんの"梢子棍"ってやつかな?

ざっくり言うと、"フレイル"に似た中国独特の?武器。

詳しくはわからないけど、正直、竜刺繍してんだから、"青龍偃月刀"みたいなので合わせりゃいーのに。


ハクロさんのは、よくある大刀だね。

シェンくん、扱えるのかな?

気になってハクロさんを見つめる。


「…皇太子は、男性部門の決勝戦に割り込み、最終決戦中のクガイとセイセツを打ち倒しました。

性格は兎も角、実力は確かです。」


よく気がついたなぁ。

にしても、やらかしてんな。


「まぁ、いいや。いくよ!」




ボクらはハクロさんたちが見つけた場所へ向かった。

途中、シェンくんの希望により、クガイさんを説得して同行してもらう。

何が起こるかわからない、慎重に行こう。


目的地まで、簡単だった。

国を出ると、出くわしたキョンシーさえもこちらを避けて国内へ。

聞いてはいたが、こうもはっきり視界に入っていないと、ブラウン管越しのイメージだ。


ボクがいるからか、皆気を使ってくれて、速度を緩めてくれてるみたい。

更に話し掛けてくれるが、生返事ばかり。

申し訳ないね、ちょっと緊張してる。

多分、ただのネゴシエーションではないからかな。


「…悪い、何かボクにも扱える武器はないかな?」


信じてない訳じゃない。

寧ろ、自分が守られてるだけじゃ嫌だから。


「じゃぁ、はい。」


軽いクナイのような物を数個渡される。


「近ければそうそう外さないでしょ?

頭で計算したら、補正も掛かるんじゃない?」


シェンくん、本当にボクの話、しっかり聞いてくれてるなぁ。

確かに角度や速度を体力や腕力で分断したら、綺麗に命中するかも。

マサチカんときの大砲みたいな即席怯ませ作戦。

当てなくていいんだから?





やっと目的地が見えてきた。

瘴気さえなかったら、視界に捉えられたはずだ。

瘴気とは言っても、見えない。

不思議な感覚がある程度。

けど、国外の距離感がつかないレベル。

やっぱり、魔王は強大な存在なのか。


ウェルグランドからウェルガーデンまでは明るくて気にならなかったけど、影響の濃いトイ・ウェルで目の当たりしてから、犇々と感じ始めてる。


遠近法がおかしくなってるからな。

魔王と対峙した時にどうなるのか、ちょっと怖い。

歩いている間に、"キョンシー"は見た。

認識しているものとはちょっと違っていて、ぴょんぴょんと真っ直ぐ移動しているわけじゃない。

生気のない顔をしていて、視界に何も捉えていないような、無機質な顔をしていた。

彼らとは話し合いは無理だろう。

ただウェルタウンに向かうだけでぞっとしてしまう。


皆は毎度のことで慣れてるかもしれないけど、ボクは初めて見るから、寒気がした。

外に出るまでは、"キョンシー"のいない場所を選んでくれたから、出くわさなかったし。

彼らを操る術者はどんなだろうと、汗が滲む手を握りしめた。


「…カリン。大丈夫、俺がついてる。」


優しく手を上から握ってくれた。

……吊り橋効果は期待しないでくれよ。

でも、ちょっと安心した。




アジトの目の前に立つ面々。

意外と入り口はでかい。

中から、"キョンシー"が出てくるが、気に求めずに移動される。

こっちはビックリするけど。


「…入るよ。」


皆、頷いてくれた。

"キョンシー"を無視して、中に入る。

中は薄暗い。所々、小さな松明が掲げられ、行き先を示してくれる。

一本道で、逃げも隠れも出来ない。



暫く歩くと、道より明るい光が奥に見えた。

ハクロさんが行っていたのは、あそこだね。

……今まで"大胆不敵"な行動で解決きたんだ。

がっかりはさせないよ。

ニヤリと笑い、皆の前に出る。

皆を静止させ、一人奥に踏み込んだ。



……ブツブツと呪文が空間に反響して響いている。

ここからは、足音で気がつかれるだろう。

ボクの視界の先には、ローブを着た人が後ろを向いている。

目の前のでかい魔方陣みたいなものが光って、その上にいる人が一人、また一人と起き上がって、ボクやシェンくんたちのすぐ隣を通りすぎて行く。


完全にホラーだよ、これ。

なまじか崩れてないから、バイオハ◯ードにならずに済んでいるくらい。


皆を信じて前に踏み出す。

これは自分との戦いでもある。

自分の世界じゃ、頼りなんてされないから。

周りと違うだけで孤立してしまう。

ボクは孤立を恐れないで、有言実行してきた。

ことのほか、思い通りに行く。

夢の中だってこんなに上手くいかない。

……でも、いつも前だけ見ていたいから、今も後ろは振り向かない。


「…やぁ、こんにちは。」


時間が止まった世界。

挨拶の時間も空に左右される。


…ローブを着た人が、呪文を止め、ゆっくり振り向いた。


『…誰?』


少しは予測していた。だからといって、驚きは隠せない。

何故なら、………その人は、"知水魔人"の少年だったから。

安易な憶測だった。

魔術に一番長けているのは、マリウスくんやフェリーシアさんの一族ではないかと。


随分と綺麗な顔が窶れていた。

国があの状態だから、精神も相当ヤバいだろう。

でも、ボクは知ってるんだ。

だって、彼も一緒だったから。

…瞳が絶望と同時に哀しそうなんだ。


「ボクは華凛。君は?」


『…ミリアル。』


会話する気があるのは有難い。

でも、警戒は怠ってはいけない。


「君は、トイ・ウェルの人だね?」


『…うん、そうだよ。』


「国にはマリウスくんがいるよね?」


『…?!王子…生きているはずが…ない!』


知らないの?


『おまえは何をしに来た!俺を邪魔するなら許さない!

王子も王女も、皆死んでしまった!

こんな生き残っている国が憎い!

ウェルタウンを根絶やしにして、ウェルグランドやウェルガーデンも、ウェルゴールドも同じ目に合わせてやるんだ!』


彼の乾いた笑いが空間を震わせる。


『邪魔するなら、おまえも殺してやる!』


杖を振り上げ、"キョンシー"が一人、ゆらりと立ち上がった。

……ミリアルくんの身長はボクと変わらない。

だから、"キョンシー"の的はでかい。

インドアなボクでもイケる!

シェンくんに渡されたクナイみたいな武器を後ろに構えて、頭の中で高速計算を始めた。


……見えた!

勢い良く、それを数本、片手で投げる。

それはギリギリ、ミリアルくんを通り越し、"キョンシー"を壁に縫い付けた。

……計算外だけど、軽さが勢いと威力を増してくれたらしい。本当に物理利くなぁ。




『な、何で…!俺の"人形"は強いはずなんだ!』


「話を聞きやがれ!!」


びっくりして、ミリアルくんは固まる。


「マリウスくんも、フェリーシアさんも生きてるんだってば!

フェリーシアさんはウェルガーデンにいる!

マリウスくんは今もトイ・ウェルにいる!

ボクは会ってきたんだから!」


ミリアルくんがたじろく。


『お、王子…と…王女が…生きて…いる?』


無意識に杖を落とした。

響き渡る音にすら、ミリアルくんは気がつかない。


…本当に知水魔人は、頭が良すぎるから、囚われやすいな。

茫然としているミリアルくんをぎゅって抱き締めた。


「マリウスくんも、さ?あのままの国にいて、辛かったんだよ?

君が帰るだけでも、お互いに嬉しいんじゃないかな?

ぎすぎすしてなかったら、フェリーシアさんも帰って来れるし。

何なら、フェリーシアさんみたいに別の国に身を寄せたらいいんじゃないかな?」


ミリアルくんが、ぶるぶる震えている。


『…さい。』


「ん?」


『ごめんなさい、ごめんなさい!うぁぁぁぁぁ!!』


ああ、この子。マリウスくんより、子どもなんだな。

ただただ怖かったんだね。


「大丈夫大丈夫。ボクらは君と話し合いにきたんだから。

仲間になってほしくてさ。」


『…ボクら?仲間?』


なき張らした目で、可愛く首を傾げる。


「皆、おいで。武器はそこに置いて。」


シェンくんたちが現れたら、怯えてボクにしがみつくミリアルくん。


『あ、あの人たち、なに?』


「君が話を聞いてくれなかったら、強行手段で、周りの"キョンシー"を倒して、誘拐する手筈だったんだ。」


『ゆ、誘拐…。』


「いえ、誘拐なんて聞いてません。

ですが、間違ってはいないでしょう。」


「ミリアルだっけ?うちの国を恨まないでよ?

あんたにも事情があるんだし、仕方なかったんだから、許しちゃうわよ。」


「主上、威厳が感じられません。」


「私の出番なかったですわ!カリン様に勇姿を見せたかったのに!」


自由だな、おまえら。緊張感ないし。


『…こんな人たちを敵に回そうとしてたんだ。

ごめんなさい。俺で協力出来るなら、何でもします。…償います。』


…マリウスくんより、素直でよかった。

正直、緊迫感返せって言いたいけど、可愛いから無罪じゃ。


「はー…これで、無事に和平成立だね。

晴れて帰れるかなぁ。」


「え?!カリン様帰っちゃ嫌ですわ!」


「あたしももっと一緒に居たい!」


何だよ、この絵面。

抱きつくなよ、おまえら。

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