第73話「提言」
私を強引に連れていくジェーンさん。階段をたくさん上り、着いた先は屋上だった。ここは10階が屋上となっている。そこでようやく解放してくれた。というか、私が手を振り払った。
「ちょ、ジェーンさん、強引すぎ! 」
「し、失礼しました。話を聞いてて、居ても立っても居られず……申し訳ございません」
私が強く手を振りほどくと、慌てて謝罪するジェーンさん。その顔は少し赤く、未だ興奮が抜けていないようだ。屋上はとても静かで風の音が聞こえるだけ。私達以外は誰もいないらしい。満月が浮かぶ静寂の夜である、私達の声が邪魔をしなければ。
「っていうか、どうしてルーさんの部屋に?」
「セントールは耳と鼻がとても良いのです。メイ様の居場所はすぐわかります。リュート君が寂しがっているのでお部屋に戻ってください……とお伝えしに来た所、お二人の会話が聞こえてきました」
「なるほどね。でも、話をしている途中に割って入って、強引に連れ出すのはどうかと思うんだけど」
「そのことに関しては深く謝ります。ですが、メイ様、ルーさんはあなたを私兵として扱おうとしています。四英雄の武器を持つ者たちを自分の国の戦力とし、その力を利用して戦争を起こし、世界を支配する気です」
「ちょっと、ジェーンさん、まだそうと決まったわけじゃないでしょう。そもそも私はまだ結論を出してないよ。話は聞くつもりだけどさ」
「メイ様、女王は若く、政治経験が少ないとは申し上げましたが、話術は長けています。王族とはそもそもずる賢い者たちの集まりなのです。幼い頃から、そういう教育を受けているのです。ずる賢く、人心を把握できなければ、他国と交渉などできません。女王はルーさんを利用しつつ、言葉巧みにあなたを誘惑し、用が済んだら戦争犯罪人として処刑する可能性があります。もしくは四英雄の武器を盗む可能性も……」
「だから、決めつけは良くないって!」
「可能性の話ではありますが、有り得ない事ではありません。私はメイ様よりナイトゼナに長く居ます。セントール族ではありますが、ナイトゼナ城で働いてましたので、人間の友人もそれなりにいます。人間社会の事もよく存じています。ルーさんはメイ様がナイトゼナの情勢に明るくない事を利用して駒として使うつもりなんです」
こっちの話に全然耳を貸さないわね。
さて、どうすべきかと黙っているとジェーンさんは続ける。
「女王も最初は友好的に接して来るでしょう。リュート君のことに関しても関心を見せるでしょう。ですが、どの国もドラゴンをお金に換金できる物としてしか見ていません。ドラゴンの舌は万病の薬になり、骨は丈夫な鎧や魔術道具の素材として使え、いいお金になります。どの部位も捨てる場所がないのはご存じでしょう? リュート君の事もお金にしか見えないでしょう」
「……あのさぁ、いくら何でもそれは偏見よ。全部、可能性の話で確証が無いわ」
「ええ、間違っている可能性もあります。実際はそんな人ではないかもしれません。でも、もしそういう人だった時はどうするんですか? 言われるがままに殺し続けて、気づいた時には遅かった。それでは済まないのですよ」
「わかってる。でも、一人殺しているのも、大勢殺すのも同じ。私はもうとっくに人殺しなのよ!!」
そう、人殺しだ。
シェリル、ミリィを含め、悪党を大勢殺してきた。
生きていく為とはいえ、私は対話をせず、究極の理不尽である殺人を行ってきた。悪は法の下で裁きを受けさせるよりも、殺した方が早いという単純な都合で。たとえ滅びを求めるセグンダディオの力だとしても、この罪は一生涯消えることがないだろう。そして、今でも心の底では殺しを求めている自分がいる。
「悪人だろうが、善人だろうが、人殺しに違いはないわ。一人殺した時点でそいつは真っ当な人生は送れないの。たとえ、どんな理由があったとしても、世間が理解してくれたとしても、私の罪は決して許されない。いつか裁きを受け、地獄に落ちる。でも、それでも構わないわ。私はリュートを育てて、安心して住める世界にしたいの。竜も人間も、どんな種族もみんな仲良く住める世界にしたい」
「メイ様、そのような崇高なお気持ちがあるのでしたら、尚更、慎重にいかないといけません。どの国も絶対な四英雄の武器を、力を手に入れて世界を支配したいのです。ですが、あなたは素直すぎて、人を信じすぎてしまう所が欠点です。巧みな話術を回避できるほど人生経験がある訳でもなく、ましてそれらを回避できるほど話術が上手な訳でもありません」
「そりゃあ、たかが16、17の小娘ですもの。頭だって良くないし……取柄なんか何もないよ」
「いいえ、メイ様。先ほど申した欠点は逆を言えば、長所でもあるのです。あなたは素直で人を信じることができる。だからこそ、ここまで皆様は付いてきたのだと思います。シェリル達も口には出しませんが、あなたへの罪悪感があるからこそ、今回の支援を申し出た。ただの罪悪感ではなく、そんな性格のあなただからこそ。二人も内心は反省しているのでしょう……私はこう思うのです、メイ様。あなたこそ、王にふさわしい人間だと」
「あのさ、何度も言うけど、私はただの小娘だよ?」
「いいえ、あなたはセグンダディオに選ばれた勇者です。新たなナイトゼナの王はあなたしかいません。どこかの国の駒として生きるのではなく、ナイトゼナ王国を再興し、民衆を導く運命にあるお方です」
「いやいやいや、私、全然頭良くないのに王様とか無理だって!!! さすがに話が飛躍しすぎだよ」
「理沙ちゃんから少し聞きましたが、メイ様の国の政治は全て話し合いで決めるそうですね。そのやり方ならたとえ明るい分野ではなくとも、専門家がいれば良き助言を得られます。多くの民衆は平和を望み、戦いを嫌います。ですが、国や家族の為、必要とあらば武器を取ることもあります。信頼できる王様の為なら尚更」
「……だとしても、私が王様とか、そんなの」
「よくお考えください。リュート君にとって、ナイトゼナの民にとって何が必要なのかを。誰しもがリーダーを求めています。そのリーダーを務めるのはメイ様だけだと私は思っています」
夜分遅くに失礼しましたとジェーンさんは一言頭を下げ、去っていった。
私が、王様なんて……全然想像がつかないんだけど。
一度、理沙たちに話してみよう。
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