第47話「死の商人 前編」


盗賊達は巨木を斬り倒した私に恐れを抱いていた。

男達の馬鹿笑いは霧のように消える。

森はしんと静まり返った。

いや、元の静寂に戻ったというべきか。

明らかに彼らは私を恐れている。

しかし、彼らに比べると私は一回り二回りも小さい。

そんな女に恐れを抱くなど死んでも口にできないだろう。

彼らは声量を上げ、口汚い言葉で罵ってきた。

馬鹿にした態度を取り、挑発してくる。

多分、私を怒らせ、自暴自棄にさせたいのだ。

だが、実際は自分たちが恐れるのを防ぐ為の自衛措置だ。

それがわかっているから、私は腹が立たなかった。

耳を澄ませずともよくわかる。

自然豊かな森に機械や車のような音は存在しない。

まして、異世界ナイトゼナにはそんなもの存在すらしない。

私の耳はどんな小さな音も逃さない自信がある。

彼らは野太い掛け声を出して気合を入れていた。

その声はどこか部活動中の男子学生を思い出す。

けれど、それは学生達に対して失礼だ。

その声は純粋なものではなく、汚くて醜いものだから。




「ぶ、ブッ殺してやる!!行くぞ、野郎どもおおおおおおおおお!!」




男達が襲い掛かってくる。

二人、三人と数は増えてきた。

弱い連中はすぐに群れを作りたがる。

でも、足の速さはバラバラだ。

おまけにこちら側とは距離がある。

完全に近づく前に奴らの動きをよく見る。

トレースして、足の速さを計算し、未来位置を考える。

目を瞑り、集中力を高め、耳に聞こえる音のみに集中する。

そして、タイミングを合わせ、セグンダディオを振るう。




「うぐああああああああああああああああああああ!!!!」




利き腕を斬られた男が喚く。

激痛にのたうち回る男。

気持ちの悪い悲鳴のような雄叫びが響く。

五月蝿いので、その首を掻っ攫う。

その光景に呆然とした残りも胴体に永遠の別れを告げた。

強制的な別れに悲しむ暇もなく地獄に落ちる男達。

ただ、これでも生ぬるいかもしれない。

彼らが殺してきた人達に比べれば。

きっと、過去に殺した誰かも同じ苦しみを経験したはずだ。

どういう経緯で何人殺したかは勿論、知らない。

ただ、私には殺すことしかできない。

慰めにも追悼にもならないが、きっと無念は晴らせるだろう。




続いて別の男達が三人がかりで襲い掛かってくる。

恐怖に怯えた顔をしつつも、目は血走っていた。

痛いぐらいに殺意が感じられる。

それはもはや知恵のある人間ではなく、愚かな獣のそれだ。

嫌悪感があるにも関わらず、この世界では既に慣れてしまった醜い顔。

本当は慣れるほど見たくも無かったが、この時ばかりは慣れていてよかったと思う。





「オラオララオラ!!!」




男達はナイフで突き、払うを繰り返してくる。

三人がかりの動きだが、実に単調だ。

目線を見ればどこを狙うか読めてしまう。

まず、眼前の一人の首を切り落とす。

首を斬るのは実は非常に難しいと聞いたことがある。

普通の剣や刀まして素人の腕では到底できるはずもない。

だが、セグンダディオだと簡単にできてしまう。

恐ろしい切れ味の良さと言えるだろう。

壊れたマネキンが血溜まりの海に広がる。

血しぶきが私にかかっても気にしない。




「うおおおお、死ねええええええええええええ!!!」




「野郎、ぶっ殺してやる!!」




別の男が前と後ろから飛びかかり、襲い掛かってきた。

それぞれ、毒入りナイフを手にしている。

前の男の攻撃を背中を曲げて回避する。

昔、映画で似たようなポーズが流行ったのを思い出した。

けど、後ろの男もナイフを振りかざしてくる。

私はセグンダディオを宙に投げた。

前屈みに前転して、セグンダディオを蹴り飛ばす。

刃は男の顔面を貫き、そのまま死んだ。

潰されてぐちゃぐちゃになった顔は醜く、すぐに顔を背けた。

あとは死体から奪ったセグンダディオで戦う。




「野郎じゃなくて、女よ!」




「く、くそがぁあああぁぁ!!」




男は懐からナイフをもう一本出し、襲いかかってきた。

けど、動きがチープなので避けれることは造作もない。

男の両手首を一気に切り裂いた。

すると、赤い血が噴水のように溢れ出た。




「うがあああああああああああ!!!」




男は悲鳴を上げ、強烈な痛覚に苦しんだ。

立つこともできないのか、激しい痛みに地面に座り込んでしまう。

チャンスとばかりに手首から離れたナイフを奪い、腹と股間に突き刺した。

腹……特にへその部分は鍛えることができない。

股間などは言うまでもない。

私にセクハラな目を向けた罰ということね。




「う、ぐ、ぎ、ぐぎゃああああ。う、うぐ、おえええええええええええええええええええええええええええ!!!!」





たちまち身体に毒が周り、男が吐瀉物を撒き散らした。

そのままゲェゲェ吐き続ける。

手が切断されたせいで、喉に手を突っ込むこともできない。

涙と血に塗れ、私に救いを求めようと懇願しようとする。

だが、うまく言語化できず、しどろもどろだ。

その姿は男にとっては屈辱だろう。

けど、私には滑稽だった。

男は散々吐き続けたが、しばらくして事切れた。

最後に私を恨めしく睨みながら。

けど、彼の目には蔑んだ瞳が映ったはずだ。

ほくそ笑む私を彼はどう思ったのだろか。

それは男にしかわからない。

まあ、わかりたくもないのだけれど。

さて、ある程度殺しまわったが、取り逃がしたのが何人かいる。

そいつらは私相手だと分が悪いのを悟り、ノノ達に向けて駆け出していた。




妖精の業火エンジェル・ヘルファイア!」




凄まじい火力の炎が男を焼きつくしていく。

その有様はまさに人間バーベキューだ。

倍速再生をしているが如く、男の身体を焼いていく。

男は悲鳴を上げようとしたが、くぐもった声しか出ない。

結局、断末魔の叫びもなく、消し炭となってしまった。

ノノは同じように向かってきた男達を魔法で一掃する。

セレナさんは彼女の後ろに隠れ、様子を伺っているようだ。




「メイ、こっちは任せて。あなたは前を向いて戦って!」




「わかったわ。ノノ、気をつけてね」




「了解。メイこそ気をつけてね!」





これで後ろを心配する必要は無くなった。

そこから先は私の独壇場だ。

男達が山のように襲いかかってくるが関係ない。

黙って逃げてもジェットに殺されるのは目に見えている。

私を殺そうとしても殺される。

二重の板挟みを苦行に思いながらも仕方なく駆け出す男達。

足並みが揃わない時点で奴らの敗北は確定している。

殺して、殺して、殺して、殺していく。

腕を削ぎ、足を削ぎ、首を狩り、顔面を砕く。

胴体を真っ二つにしてアジの開きにする。

男達の汚い悲鳴と絶望のオーケストラが響く。

客が逃げ帰るような阿鼻叫喚の断末魔が轟いた。

血と汚物に塗れ、私の身体は赤く染まっていた。

一種独特な臭いが辺りに漂う。

例えるなら、雨の日の鉄棒の臭いだ。

胸がムカムカして気分が悪くなる。

でも、動く姿はあと一人だけだ。

睨み合う視線が重なる。




「へへへ……おもしれぇ。金で雇ったゴロツキ共だったが、こうもあっさりか。それなりに殺しの経験もあったんだがな。ま、想定の範囲内だ。ザコには似合いの死に場所だな。けっ」




ジェットは男の死体に唾を吐きかけ、足蹴りした。

死体はゴロゴロと転がり、仲間の死体にぶつかる。

濁った瞳が私を視姦した気がした。




「しかし、面白い。お前は50人を斬ったが、セグンダディオは血に濡れていない。刃はまるで新品のように輝いている。勿論、切れ味も落ちていないだろう」




何人斬ったかを数えているとは、男のくせに随分と細かい。

しかし、彼らはジェットにとっては小間使い以下の存在なのだろう。

ジェットは自らを死の商人と自称していた。

ならば情報には五月蝿いはずだ。彼がセグンダディオの事を知っていても不思議はない。恐らく、私の噂も知っているはずだ。

いや、そもそも知らない方がおかしい。

シェリルやミリィの話は国中で大きな話題になっている。

把握してて当然だ。




「さて、この死体はお前に殺された48人目だ。腕も足も斬り落とされ、真っ二つにされている。この腕を見ると、とても綺麗に斬れているのがわかるな。無理やり斬ったならこうはいかない。人間の身体は骨があり相当硬いが、剣で身体を真っ二つに斬り裂くのは理論上可能だ。だが、それは使い手が熟練者だからこそできる技。お前のような子供ができる技ではない。だが、お前はそれをいともたやすく実行できた。さすが四英雄の武器……規格外すぎる力だ。これはいい商売になりそうだぜ」




下卑た笑い声を上げるジェット。

私は切っ先を奴に向けつつ、構える。

ザコを殺したところで意味がない。

セレナさんを狙うコイツを倒さなければいけない。

でないと、何も解決しない。




「悪いけど、セグンダディオは渡さないよ」




「へっ、威勢のいい嬢ちゃんだ。だが、そうでないと面白くねぇ。だが、セグンダディオもババアも手に入れて最後に笑うのはこの俺、ジェット様だ。というか、おかしく思わなかったのか?」




「何が?」




「このガナフィ島には人っ子一人いない。なのに、なんで呻き声がするなんて噂が広がったと思う?」




言われてみれば確かにそうだ。

ガナフィ島で会ったのはセレナさんと道化師だけだ。

この辺には村もないし、噂の発端はどこから来たというのだろうか?




「全部、お前を誘い込む為の罠だよ嬢ちゃん。俺が情報操作で噂を広げたのさ。裏ギルドに入ったのもその為だ。案の定、ファングは食いついてきた。ババアがいるのは初期の段階から知っていたが、それだけじゃここまでしねぇ。全部、最初からお前が目的なんだよ。七瀬メイちゃんよぉ」




「……気安く名前を呼ばないで。あんたも周りの連中と同じにしてあげる」




ジェットがメイちゃんと呼ぶと寒気がした。

気持ち悪く、生理的に嫌いだ。

肉片の塊が目の端々に映る。

こいつもあいつらと同じようにしてやりたい衝動に狩られる。




「お前みたいな子供には勿体無いオモチャだ。そういものはふさわしい者が持つべきだ。それを寄越しな。そうすればババアや妖精は助けてやろう。こいつらの事も無かったことにしてやる」




「あんたは剣を手に入れて何がしたいの?」




「金にするのさ。だが、ただ売るんじゃない。現代の技術でどこまで複製できるかわからんが、その実験協力をするんだ。それだけで何百万ガルドにもなるぜ」




ジェットはゲラゲラ笑いながら続ける。

もう金は手に入ったも同然と言わんばかりに饒舌だ。

取らぬ狸の皮算用ということわざを教えてやりたい。




「そして、その技術を使い、武器として仕立てる。超強力な武器ができるだろう。素人が扱っても強大な力を誇る剣。そんな武器、国が放っておくはずがない。国家予算を投じて爆買いしてくるぜ。それだけで何十億……いや、何百億といくだろうな。そして、強い武器を手に入れた国はやがて戦争を起こすだろう。戦争ってのはな、相手が持つ自分に無いもの。それを横取りして独占する為に起こすんだ」




「要するに争いの種を金にするって事?」




「ま、そういうことだ。平和な時代じゃ武器は売れん。争いのある時代だからこそ、武器は売れる。それは子供にも理解できるだろう?だが、待つのは時間の無駄だ。争いを俺が引き起こし、永久に金を稼ぐ仕組みを作る。それが筋書きだ」




もし、この男にセグンダディオを渡せばどうなるか?

きっと大勢の人が苦しむことになるだろう。

戦争が起きれば真っ先に被害を受けるのは罪無き人々だ。

大勢の人が殺され、酷い目に遭うだろう。

親や子が亡くなり、大勢の人々が死んでいく。

それは想像に難くない。

だけど、この世界は私のいる世界じゃない。

最悪、この世界の人々がどうなっても私には関係ない。

元の世界に戻れるのなら、ナイトゼナがどうなろうと知ったことじゃない。





セグンダディオもすんなり渡していたかもしれない。

そもそも殺し合いなんかしたくもない。

それでも殺しをしている今の自分に矛盾を感じる時もある。

頭の中がぐちゃぐちゃで落ち込んで、八つ当たりしてまった時もある。

けど、今はもう一人じゃない。

理沙やミカちゃんがいる。

梨音さん、サラさん、ギルドの人達……。

色々な人達が私を支え、励ましてくれた。

そんな人達が悲しむ姿を私は見たくない。

そして、セレナさん。

彼女は旦那さんを通じて、人間を愛してくれた。

その世界が争いに包まれることを彼女は決して望まないはずだ。





「ジェット、確かに私は子供かもしれない。でも、セグンダディオの契約者は私よ。絶対に渡さない。何がなんでも全力であなたを止める」




「交渉決裂だな。まあいい……そうでないと面白くねぇ!!」




ジェットは懐から何かを取り出した。

それは茶色い棒のようなものだ。

にしてはさほど太くない。




「魔力注入!!」




奴がそう言うと棒に電気が走る。

青白く、蛇のように細長いものができた。

見た感じ、鞭のようだ。

それを地面に叩きつけ、風を切る音が耳に走る。

雑草が根こそぎ灰になっていた。





「俺様のお気に入り武器、蛇払剣だじゃばらいけん。これで貴様をズタズタに斬り裂いてやる!!」








鞭の相手と戦うのは始めてだ。

まず相手がどう動くのか、わざと懐に飛び込んでみる。




「おらああああああああ!!!」




ジェットは器用に鞭を振り回してきた。

しかし、その素早さは尋常ではない。

鞭の先端が目に入らない。

あまりにも速い。

慌ててカンで避けると、身代わりとなった木々が音を立てて伐採されていく。

普通、鞭で木は切れない。

どういう魔法か原理かはわからない。

だが、近づけばこちらが危険だ。

かといって遠距離で戦うのは難しい。

方法の一つとして魔力で剣の巨大化がある。

巨大化までのタイムラグは数秒もないし、当てれば一撃だ。

だが、命中できるかどうかはわからない。

巨大化が持続できる時間がわからない。

そもそも、私にどれだけの魔力があるかわからない。

ないない尽くしもいいところだ。

もし、魔力が枯渇した所を狙わればお終いだ。

周りの連中と同じように血溜まりの海へご招待。

そんなご招待、まっぴら御免だ。




”契約者よ、以前、屋敷で戦ったことを覚えているか?

あの妖精と初めて出会った時のことだ”




(ノノと初めて会った時ね。覚えているけど、それが何?)




頭の中で会話が続く。

この会話はジェットには聞こえない。

私とセグンダディオだけにしか聞こえない秘密の会話だ。




”あの時、魔導封剣で犬の炎を複製した。

それは今でも使えるはずだ。それを使うのだ。

一度記憶した物は契約者が忘れない限り、再現できる”




(成る程。了解!)




セグンダディオを天高く掲げる。

イメージを頭に描くと剣は瞬く間に燃える。

それを思いっきりジェット目掛けて打ち込む。




「だああああああああああああああああああ!!!!」





炎は瞬く間に燃え広がり、森を焼いていく。

森林バーベキューとでもいうほど、火は広がる。

なんとなく、倒したという実感が持てなかった。

多分、辛うじて避けたんだろう。

でも、大火傷を負ったのは間違いない。





「よし、これで後はとどめをさせば……」




「そう簡単に行くか!!」




鞭は私の所まで伸びてきた。

しまったと気づいた時はもう遅い。

避ける暇もなく、それは私の胴を掴む。

もがいても鞭は剥がれない。

まるで接着剤でくっつけたかのようだ。




「オラオララオラァァァァァ!!!」




そのままジェットは鞭を振り回した。

私は木にぶつけられ、地面にぶつけられていく。

顔面や頭に強烈なダメージが与えられていく。

おまけに鞭がきつく絞られ、背中が悲鳴を上げる。

痛い、痛い、痛い!!

このままじゃ背骨が折れてしまう!!

わかってはいても動けない以上、どうすることもできない。

おまけにセグンダディオも落としてしまった。




「ひゃははははははは!!!!!!」




何度も頭を木々や地面にぶつけられ、下手をすると意識を失いそうになる。

調子に乗ったジェットは何度も何度もそれを繰り返した。

でも、私は悲鳴を上げずにぐっと耐えた。

悲鳴を出すのも体力を使うからだ。

今は体力を温存させるのが最優先だ。

そうは思っても容赦なく襲いかかるダメージに何度も昇天させれそうになる。

いっそ、痛みと絶望に負けて死ねたらどれだけ楽だろうか。

しかし、そんなものに負けるわけにはいかないのだ。




「へっ……手こずらせやがって。これで懲りただろう?」




どれだけ時間が経っただろうか。

正確な分数がわからない。

それでもかなり長く続いたと思う。

ジェットが鞭を離して拘束が解かれる。

だが、私はもう立つこともできなかった。

頭が重く、痛く、てフラフラする。

目の焦点が合わないし、ぬるっとした温かいものが滴り落ちる。

背中がキツく、寝返りすらできそうもない。

そんな私の頭を奴が踏みつける。




「ぐっ……」




「へ、まだそんな目ができるのか。憎しみと怒りに満ちた目だな。お前さんのセグンダディオは俺がもらった。あとは妖精とババアを殺せば終わりだ。セグンダディオさえ手に入れば、ババアなんぞ用済みだ。おっと、妖精はすぐ殺しちゃもったいねぇな。犯してから殺るのもアリだろ。これで俺は生涯金持ちとして歴史に名を刻み、子々孫々幸せになっていくだろう。ハハハハハハハハハ!!!」




汚い笑い声が耳に響く。

今は耐えるしか無い。

言葉を発することも体力に響く。

痛みが全身を走り、骨が悲鳴を上げ、頭が思考能力を失っていく。

それでも諦めないという一心が心にある。

みんなの笑顔が浮かんできた。

私の名前を呼ぶみんなの声が聞こえてくる。

があるから諦めないんだ。

諦めるわけにはいかないんだ……。




「冥土の土産にお前を犯してやるよ。男を知らないまま死ぬのは悲しいだろう?ロリは専門外だが犯せないわけじゃねぇ。へへへ、待ってろよ……」




ジェットは服を脱ぎだした。

ズボンを先に脱ぎ、下半身だけ露出する。

随分、気の早い男だと嘆息する。

だけど、これがチャンスだ!




「はああああああああ!!」




渾身の力を込めて投げた。

全力投球で残った体力を全て注いだ。

結果、それは奴の腹へと刺さった。




「ぬ……ぐおおおおおおおお!!!」




それは私が盗賊から奪った毒入りナイフだ。

奪ったのを服の内ポケットに入れていたのだ。

ジェットはゲェゲェと吐瀉物を撒き散らし、もがき苦しむ。

放って老いても死ぬが、これだけではまだ浅い。




「契約者の元へ戻れ、セグンダディオ!!」




セグンダディオは呼びかければ戻ってくる。

これは最初にミリィと戦った時、経験済みだ。

私はそれを手に取り駆け出そうとした。

けれど、意識が朦朧となる。

瞼に力が入らなくて、手に力が入らない。

そのまま目の前が暗くなった。

地面の感触が肌に当たる。

頭の中の糸がプツリと切れた気がした。


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