第42話「闇と光」


ゴブリン達は次々と死に絶えていく。

普通、1対多数での戦いでは数が多いほうが有利だ。

けど、前線に出ている私・理沙・サラさんの三人でゴブリンは激減した。

圧倒的な数だったゴブリンは既に目で確認できるほどの数しかいない。

私達に距離の近いゴブリンは既に士気を無くし、怯えている。

遠い距離にいる何匹かは我先にと逃げだしていた。

ゴブリンだって命は惜しいのだろう。

全滅させるのは時間の問題だ。

けど、それでは仕事をした事にならない。




「サラさん、どうやって黒幕を探します?」




威嚇をしつつ、どうするべきか訊く。

ゴブリンは勝手に行動しているわけではない。

こいつらを操る黒幕がどこかにいるはずだ。

そいつを捕まえないことには同じことが繰り返される。

ゴブリン達を尋問して聞き出そうか?

だが、奴らは知能が低い。

それは彼らの片言の言葉から理解できる。

恐らく、会話は成立しない。




「大丈夫、向こうから来るわ。ほら、出てきな」




「……」


 


何もない地面から陰が唐突に現れる。

その影から誰かが這い出てきた。

それはまだ若い女性だ。

私達は彼女に見覚えがあった。




「あの人は確か、お店にいた……」




お店でゴハンを食べていた時、店内で男共と騒いでいた女だ。

サラさんは彼女を知っているらしく、名前で呼んでいた。

確か、サリアとかいう名前だったかな。

なんで、彼女がこんなところに?

だが、彼女に気を取られている隙にゴブリン達は今こそ好機と一目散に逃げ出した。

そして、とうとうゴブリン達は全て消え失せた。

女は「やれやれ」とため息をついた。




「まったく、ゴブリン共は使えないわね。雑魚すぎて話になんない」




「男引っ掛けて金貰ってるような奴が何でこんな所にいるの?家帰ってパパに謝ったら?サリア」




サラさんはオブラートに包まず、ストレートに言う。

怒気のある声にサリアと呼ばれた女は舌打ちする。

ナイフを抜き出し、こちらを威嚇する。

けれど、その得物は果物ナイフというお粗末な物。

ずっと持っている物だろうか、黒くサビている。

これでは威嚇にもならないが。

そうとは知らず、こちらを睨みつける。

だが、足腰は震え、後退りしつつある。

完全に怯えているのは誰が見ても明らかだ。




「こ、こここれは仕事なの。ゴブリン操って鉱山を襲えって言うね。良い金貰ったからね。だ、大体、親父はめかけが孕んだ私なんかに興味ないさ。貴族のボンボンと政略結婚されそうになったから、家を出たんだし」




「そんな事情は知らない。さて、あんたの人生で最も大切な選択肢が2つある。

1つ目はここで武器を捨てて、事情を説明し、投降すること。2つ目はゴブリン達と同じように火葬されること。どっちかを選んで」




「え、偉そうに」




悪態をつくジーナにサラさんは重剣グラムハザードを手にする。

まだ鞘から出さず、グリップを握っただけだ。

だが、サリア「ひっ」と短く悲鳴を上げる。




「投降すれば命だけは助かるよ。まあ、青年団に突き出すから10年は臭いメシを食わないといけないだろうけど、死ぬよりはマシでしょ。それが嫌なら火葬かな。火葬が嫌なら溺死、撲殺、銃殺、絞殺色々あるよ。。好きなのを選びな」




サラさんは物騒な台詞を平気で言う。

本心は別だろうけど、ジーナには効果てきめんのようだ。

なにせゴブリン達を火葬した場所がここだ。

自らも灰にされると知った彼女はとうとうへたり込んだ。

汗を噴き出し、口は震え、手足が震えている。

これが演技ならアカデミー賞ものだ。




「た、たた、頼まれたのよ!!」




「誰に?」




「カ、カンガセイロって男に……うっ!!」




と、そこまで言いかけたときだった。

サリアは急に苦しみだし、頭を抱えた。

そのまま吐き出し、胃の中のものをぶちまける。

何か言葉にしようとしたが、言葉にならない。

まるで見えない何かが彼女の首を締めているかのようだ。

しかし、こちらには何が原因で彼女が苦しんでいるのか、わからない。



「そ、そんな、あ……ぐ……いい男と……やり直そうとしたのに……。

うぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」




サリアは断末魔の悲鳴をあげ、そのまま倒れてしまう。そして、糸が切れた人形のように動かなくなった。




「な、何が起きたの?」




「多分、誰かが呪殺したッス。禁断の言葉カオス・ワードという呪殺魔法の一種。ある言葉を唱えるだけで対象を殺すことができるという。でも、こんな短時間でできるなんて。普通、効果が出るまで半日はかかるッス」




「まぁ、俺は天才だからな」




野太い男の声が聞こえた。

それと共に指を鳴らす音が聞こえる。

すると、雲が次第に集合していく。

群れを為した雲はやがてひとつになり、青空を覆う。

太陽も月も覆った雲はそのまま雨を大地へ降らせた。

雨は私達を濡らし、地面を泥濘させる。




「へへへ、ゴブリン共を殺れる連中がいるとはな」




どこからともなく現れたのは、汚い身なりをした男だ。

如何にも山賊という出で立ち。

にしては魔導書を握りしめるという山賊には似合わない武器を持っている。

周りには部下もいるらしく、いつの間にか囲まれていた。




「誰!?」




「カンガセイロっつーもんだよ、お嬢さん」




全員、戦闘態勢になる。

集中し、距離を詰める。

辺りにも何人かの気配がする。

さあ、ここからが面白い所だ。

頑張らなくっちゃ。




「つー事はあんたが黒幕だね。なんでゴブリンを使ってシエル石を奪うの?」




サラさんの質問にカンガセイロは「けっ」と唾を吐く。




「莫大な富を得るのが一つ。そして、もう一つは復讐だ。七瀬メイへのな!」




カンガセイロは私に指を差し向ける。

血走った目はまっすぐに私を貫く。

この瞳はシェリルの瞳と同じだ。

強く固い意思のある瞳をしている。

ある意味、生命力に溢れた瞳だ。

相手を睨みつけるのはケンカの常套手段だ。

普通の女子高生ならその瞳にすくんで動けなくなるだろう。

でも、私には通じない。




「私を殺す?」




「おうよ。俺はよ、テメーが殺したシェリル様の元部下だ。一番の子分だ。んで、ここにいる奴らは俺と同じく彼女を慕う者達さ。テメーらがここに来るのはわかっていた。まあ半信半疑だからよ、あの女を使って試させてもらった。お前らがメシ食ってる時に騒いだのも芝居だよ」




あの騒ぎは仕組まれたことだったのか。

多分、サラさんじゃなくて私の力を試したかったんだろうけど。

なので、ゴブリンを使える彼女で私達をテストしたということね。




「で、用済みだから消したということ?」




私の尋ねにカンガセイロはむしろ自慢げに胸を叩く。




「おうよ。さっきも言ったが、俺はシェリル様・ミリィ様一の子分だ。色々な事を教わった。呪殺は初めてだが、効果は充分だ。いい実験材料だったぜ」




かっかっかと笑うカンガセイロ。

奴にとっては単なる自慢話なのだろう。

使うだけ使って用済みになったから殺す。

人を虫けらみたいにしか思っていない最低な男だ。

だが、男たちと寝て金を得てきたサリアの人生を私はよく思わない。

同情する気もないが、このままでは彼女はあまりにも可哀想だ。

せめてもの情けだ、仇だけは取ってあげよう。

セグンダディオを握る手に自然と力が入る。




「ったく、お前の才能探すためにどれだけ金使ったと思ってんだ、このクソ女が!ゴブリン使いは稀な才能だからよ、探すのに大枚叩いたんだぞ?それがこのザマかよ、ああ!?」




サリアの死体に軽く蹴りを入れるカンガセイロ。

「とっとと運べ」との声に部下たちが素早く遺体を担架で運び、その場から離れた。

ゴキブリの死体を見るような目で去りゆく死体を眺めるカンガセイロ。

怒りが沸々と私の中で込み上げてくる。




「まあいい、これで少しは金になるだろう。知ってるか、人間の死体は価値がある。高度な魔法具を生成するのに必要なのさ。だから裏ルートで死体を提供してやるんだ。普段は真面目な魔道士達が大枚叩いて接触してくるんだぜ?物にもよるが、50万ガルドは固いね」




「人体を使った魔法具の生成は国家魔導法で禁止されるっッス!」




「そんなもん、俺たちにゃ関係ねぇ。。お前は幾らだろうな、七瀬メイ?」





奴は本気だ。

それは瞳でわかる。

いつでも怒りを爆発させることができる鋭い眼光。

今すぐにでも殺してやりたいという殺気。

まっすぐ過ぎるその視線は本気そのものだ。

これが恋の視線なら嬉しいかもしれない。

だが、今の私達には不快感しかなかった。




「盗賊風情がデカイ口を叩くねぇ。私らはちっとばかし、高くつくよ」




サラさんの矛先がカンガセイロに向けられる。

部下たちも殺気を濃厚にして臨戦態勢へ移行する。




「ああ?オレは七瀬メイに用があるんだ。関係ない奴はすっこんでろ!それともお前も金にしてやろうか?そうだな、死体になる前に女衒ぜげんで死ぬまで働いてももらおうか。お前さんの身体なら20年は楽できそうだな」




ぎゃははははと部下と共に笑い飛ばすカンガセイロ。

女衒ってのはよく知らないけど、ニュアンスで大体わかる。

風俗とかそういう所の事を言っているのだろう。

怒りと生理的嫌悪感でストレスが一気に溜まっていく。




「そんなつもりは毛頭ないよ。とにかく、この子達の保護者は私だ。

用があるなら私を通して貰わないと困るねぇ」




サラさんの返答に唾を吐いて答えるカンガセイロ。




「上等だ。誰にケンカ売ったのかわからせてやる。七瀬メイをやる前にまずはテメェから血祭りだ。お前ら、残りを足止めしろ。いいか、女子供だからって油断すんじゃねえぞ!!」




「兄貴、すぐ殺すにはもったいねぇぜ。ヤッちまっていいっすか?」




「そこのチビは俺んだ。他は好きにしろ!」




「兄貴のロリコン」




「幼女趣味」




「変態」




「うっせえ!!」




男たちはぎゃははははと笑っている。

嫌なことだけど、こいつらのやる気がみるみる上昇している気がする。

雨も降っているのにバカな連中は気にも留めない。

なんか男子校でありそうなノリだけど、女の私からするとドン引きでしかない。

それは理沙やサラさん達も同じようだ。

みんな、苦虫を噛み潰したような顔をしている。




「へへへ、すぐには殺さねぇ。手と足をもぎ取ってから、何度も中出ししてやる。オレの子種も部下の子種も全部な。誰のが命中するか、楽しみだぜ。へへへ……」




舌なめずりしてその状況を妄想するカンガセイロ。

ゲスい顔っていうのはこういう顔を言うのだろう。

ああ、もう気持ち悪いったらありゃしない。

生理的嫌悪感がますます高まっていく。

どう料理すべきか、私は思考を巡らせていたが。




「メイ、ザコは理沙たちに任せなさい」




「え?」




私は駆け出そうとした足を慌てて止めた。

理沙たちでも充分戦えるのはわかるが。

それじゃあ、私はどうすればいいんだろう。




「あんたは私の戦い方をよく見ていなさい」




「は、はい」




「ゴチャゴチャうるせー!!全力でやってやるぞ、ゴラアアアアアアアアアアアア!!!!蒼炎球ブルーファイア―ボール




カンガセイロは口から炎の球を吐きだした。

球はサッカーボールほどの大きさで蒼い炎珠だ。

それがドッチボールで相手を狙うが如く、サラさんに襲いかかる。

スピードも素早く、とても目で追えない!

けれど、サラさんは華麗に回避する。




「まだまだぁ!!!」




カンガセイロは連発でボールを吐き出し、人間ボール製造機とでも呼べそうな位、何発も何発も撃ってくる。けれど、サラさんはその度に回避を続け、決めポーズまでする余裕っぷり。この人の胴体視力って……。




20分ほど、そのラリーが続いたが、一瞬だけボールの発射間隔が遅くなった。サラさんはそれを見逃さなかった。一瞬でカンガセイロの懐に入り、強烈なボディーブローを入れた。




「うぐおおおおお!!!」




吐瀉物を吐き出すカンガセイロ。

反動で宙に浮くが、奴の頭をサラさんがかかと落とし。

強制的に地面とキスすることとなる。

最後に足で奴の頭をサッカーボールよろしく蹴り飛ばす。

カンガセイロはそのまま吹っ飛び、砂に埋もれた。

恐らく、3メートルは跳んだに違いない。

だが、心配する部下の声は聞こえない。

皆、理沙達が始末したようだ。




「や、やるな、この野郎」




「女だっつーの」




「うっせい、見りゃわかるわ!」




サラさんとカンガセイロは互いに笑みを浮かべた。

それは友人同士が冗談を飛ばして笑い合うものとは違う。

二人は立場も思想信条も違うが、場数を踏んだ強者同士。

何か思うところがあるのかもしれない。

といっても本心は二人にしかわからないけど。




「なかなか、いいボディブローだ。だが、雨のせいで身体が冷えてきた。

お前の身体を燃やして暖を取らせてもらうぜ……」




「フン、死んでもお断りだね。そんな贅沢はさせないよ」




「許可なんかいらねぇ。強制的にだ!!」




魔導書を天に掲げるカンガセイロ。

その時、強烈な閃光が放たれた。

直後、凄まじい音が耳に響く。

思わず目と耳を閉じた。

ここは耐え忍ぶしかない。

数秒経ってから、若干の耳鳴りを感じつつも視界を開ける。

光は既に無かったが、すぐにわかった。

雷がカンガセイロに落ちたということを。

魔導書は既に黒焦げで燃え尽きている。

けれど、奴は燃え尽きていない。

それどころか身体はピンピンしている。

雨はいつしか止み、曇り空だけが広がっている。




「こいつでお前らを蜂の巣にしてやるよ……」




「なっ!?」




理沙が慌てて私を攫う。

数秒前まで私がいた場所は一瞬で黒く焼け焦げていた。

もし、あと少し遅かったら焼け焦げていたのは私だった。

理沙は私を連れてサラさん達から距離を取ることに。

二人の会話が聞こえないほどの距離になり、表情も見えにくい。

というか、一体何が起きたの?

イマイチ把握できない。




「メイ、大丈夫ッスか!?」




「う、うん。ねえ、一体何があったの?」




「恐らく、雷電体質ライトニング・チャージッス」




カンガセイロをよく見ると、青い光が見える。

光は常に弾け、奴の周囲に漂っているのが遠目でも見えた。

あれはまさか、プラズマという奴だろうか。




「俺様は雷に愛された男だ。戦いながら特大の雷が落ちるのを待っていたのさ。

雷を充電すればそれを元に戦える。どれだけ放出するかにもよるが……2週間は充分戦える。まあ、ご覧の通り充電する時間がかかりすぎるんで、戦闘には不向きだ。本来は溜め込んでおいて不意打ちに使うものさ。威力は堪らなくすごいぜ、これで村ごと滅ぼしたこともあるからな。何も知らずに死んでいく連中を見るのは滑稽だったなぁ……」




カンガセイロはこちらにまで聞こえるようにわざと大声で言っている。

よほど自慢したくて仕方ないのだろう。少々、早口だ。

雷の技は奴にとって最大最強の武器のようだ。




「お前ら全員、雷で焼き殺してやるよ」




「燃やしたら死体回収できなくなるんじゃない?つか、ヤレないでしょうが」




「じゃあ訂正だ。メイ以外は全員雷で焼き殺してやる。んで、メイは仲間の死に悲しみながら俺とたっぷり遊ぶんだ。神が与えし、生命の神秘という遊びをな。ぎゃはははははははは!!」




悪態をつくカンガセイロにサラさんは剣を向ける。

こちらから彼女は背中しか見えない。

けど、凄まじい怒気がオーラとなっているのを感じる。




「悪は自然の理から背く行為よ。誰かを殺し、他人の物を奪い、社会を不安に突き落とす。真っ当に生きず、自分の私利私欲の為に生きる。そういう生き方……アタシは大嫌い!!」

 



サラさんの言葉に「かっかっか」と笑い飛ばすカンガセイロ。

余裕の表情を浮かべ、ニヤリと不気味に笑みを浮かべている。




「嫌いで結構。正義だの悪だの俺にはどうでもいい。金とメシと女が手に入ればそれでいいんだ。さあ、おしゃべりはここまでだ。死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」




カンガセイロは咆哮した。

口から雷撃を飛ばした。

それはサラさんの場所へと向かう。

サラさんはグラム・ハザードを手に駆け出す。

ぬかるんだ地面は想像以上に歩き難い。

走るなど至難の業に違いない。

だが、サラさんはそれをものともしない。

流石、ベテランのトップランカーだ。

恐らく、雨の中で戦闘も豊富にあるのだろう。

すぐに距離を詰めていく。

だけど、雷の速さは当然人間の歩行などより圧倒的に速い。

雷はサラさんに命中してしまう。




「サラさん!!」




私は構わず叫んだ。

けれど、サラさんは無傷だ。

雷撃は何故か消滅していた。

ど、どういうこと?




「な、なんだと!?」




動揺は奴も同じだ。

だが、サラさんは動揺などしていない。

唯一の攻撃方法がなくなり、距離を取られたカンガセイロ。

逃げようと足を踏み出すもぬかるんだ地面に足を取られ、滑ってしまう。

それはまさにサラさんにとって千載一遇のチャンスだった。

それを逃さず、重剣・グラムハザードが奴の腕を叩き落す。




「う、うぐおおおおおおおおおおお!!!」




片腕を落とし、もう片方の腕も叩き落とす。

辺りに野太い悲鳴が轟く。

マネキンの腕よりも毛深く、気持ち悪いゴツゴツした腕だ。

気持ち悪くて、思わず私も理沙も目を背けた。

奴の悲痛な叫びにサラさんは気にも留めない。

必死に逃げようと手で地面を掴むが、砂を掴んだ所で上手く進める訳がない。

羽のないトンボのようにもがくこともできないカンガセイロ。

サラさんは容赦なく足を斬り落とした。

再び悲鳴が上がり、毛深い両足が地面に放りだされる。

とうとうカンガセイロは腕も足も無くなってしまった。

それは壊れた玩具のように惨めな姿だ。




「ぐっ……」




支える手と足が無い以上、動くことはできない。

奴の頭をサッカーボールのように踏みつけるサラさん。

その首先にグラムハザードの先端を突きつけた。




「殺しはしない。アンタには牢屋で死んでもらうよ。これまでの人生を後悔しながら、存分に苦しんでもらう。それがサリアやあんたが今まで殺した人たちへの鎮魂となるわ」




「この野郎……なんで雷が効かねぇんだ?」




「金属にはね、雷を地面に逃がす効果があるの。だから雷を強制的に地面に逃したのさ。雷を上手く当てた私の勝ちね。あと、私は女だってっの!」




「がば!!」




奴の頭に蹴りをかますサラさん。

耳に悪い音が私達の所まで響く。

カンガセイロはそのまま気絶した。

泡を吹き、白目を剥いている。

これで脅威は去った。

一旦集合することに。




「サラさん、殺さないんですか?」




「殺す意味がないからね。あと、確か懸賞金かけられていたはずよ。見覚えあるし。生きたままギルドに引き渡せば相当の額を入手できるはずよ。今日は奢るから、みんなでパーとやりましょう!」




「お、いいっスね!」




「……」




さっそく食いつく理沙。

相変わらず食い意地が張っているなぁ。

ノノもミカちゃんも嬉しそうにしている。

でも、私は別の感情が芽生えていた。




「……足りない」




「メ、メイ、どうしたの?」




「……殺し足りない。こんなんじゃつまんないわ。サラさん、そいつは殺しましょう。生かす価値なんてないじゃないですか。っていうか、ただのゴブリンだの、盗賊だの……歯ごたえがない。無さ過ぎる。足りない、足りない、殺し足りない!私はもっと殺したい!!」




「メ、メイ、一体、どうしたのよ!」




そんな私にミカちゃんは引いていた。

けど、ぎゅっと私の手を握る。




「あんたは悪人を殺す為に戦ってるわけじゃないでしょ?元の世界に戻るために戦ってるんでしょう?戦闘なんて嫌だって言ってたじゃない。殺し合いなんてしたくないって。一体、どうしちゃったのよ!」




「あはは。な、なんでかな。自分でも何言ってるかわかんないや。

あ、頭、おかしくなったのかな?あははは」




一体私はどうしたのだろうか。

ミカちゃんの言うとおり、殺し合いなんかしたくない。

戦闘なんて嫌だし、命のやり取りなんてもっての外。

けど、身体が、頭が、本能が、私に直接訴える。

もっと戦って戦って、敵を、悪人を、殺せ、殺せと。





ミカちゃんは今にも泣きそうにしており、私をぎゅっと抱きしめた。

そのまま何か優しい言葉を言うけど、私には聞こえていなかった。

戦闘がしたい。

もっと強い奴と戦いたい。

殺し合いがしたい。

傷ついて、傷つけられて。

そんな生の感触を味わいたい。

そんな気持ちでいっぱいだった。




「メイ、今日はお疲れ様。街につくまで馬車で休んでいいわよ。

着いたら起こしてあげるわ」




「え、で、でも別に疲れては……っていうか、そいつを殺しましょうよ!!」




「いいから。とにかく横になってな。これは命令だよ」




「は、はい」




有無を言わさない強い口調で言われてしまう。

反論したい気持ちが強かったが、私はぐっと抑えた。

そして、言われた通り、馬車で横になることにした。

ゴブリン如きはザコだったし、今日、活躍したのはサラさんだ。

私は結局、ほとんど何もしていないに等しい。

本当に疲れてなんかいないんだけど。

だが、馬車に入ると何故か急に睡魔が襲ってきた。

瞼を開くための力が残っていなかった。

私はそのまま深い眠りに落ちた。

それはまるで沼の底に沈むような感覚だった。




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