第41話「チョコラテは置いていけ」
宿屋からしばらく歩いた所にあるお店がある。
「ホワイトブルー」という飲食店だ。
昼間は定食屋、夜は酒場を営んでいる。
値段は手頃で味も定評があるそうだ。
店に入り、皆とカウンター席で一息つく。
客は若い男性2人と女性が1人いるぐらい。
くたくたのTシャツを着込み、耳には穴を開け、ピアスをしている。
胸元や腕・足にタトゥーをしていて一発でろくでも無い連中だとわかる。
彼らは隅の席で何かの話をしながらバカみたいに盛り上がっている。
あんまり目を合わせないようにしないと。
建物は少しくたびれており、壁や床は年季が入っている。
ただ、掃除だけは隅々まで念入りにしているらしく、埃一つ落ちていない。
こういう所はマスターさんの几帳面さが伺える。
そんな彼は50代くらいの老紳士だ。
バーテンダーの服を着込み、グラスを磨いている。
筋骨隆々で随分ガタイがよく、お髭が似合うダンディなおじさまである。
彼らはこちらに気がつくと、「いらっしゃい」と優しく声をかけてくれた。
「おや、サラじゃないか。久しぶりだな」
「おひさー。相変わらずカッコイイね、マスター」
「ありがとよ。にしても久しぶりだな」
「そだねー。どれくらいぶりだっけ?ここ来んの」
「んー、大体2ヶ月ってところだな。最後は梨音と飲みに来てたな。
ヤケ酒だったな、アイツは」
「あはは、梨音もストレス溜まってるのよ。商売ばっかで恋人もいないしね。
そりゃストレスも溜まるわよ。あ、そだ。マスター、これツケの奴。よろしく」
「おう、拝見するぜ」
そう言ってサラさんは金貨袋をマスターさんに渡した。
マスターさんは静かに金貨を数えるが、やがてうんうんと頷く。
「ああ、ちょうどだ。ありがとな。んで、そちらはギルドの後輩さんかい?」
「そなの。仕事前でさ。ガッツの出る奴を人数分ちょうだい」
「あいよ。ちょいと待っててくれ」
そう言ってマスターは厨房に戻り、料理を作り始める。
フライパンを手にして具材を炒めたり、せっせと動く。
ここではカウンターのすぐ側が厨房となっている。
日本ではよく見かける光景だが、ナイトゼナでは少々珍しい。
「サラさん、ここで食事をしてから行くんですよね?」
「そだよ。まずは食べて体力をつけ……」
「キャハハハハ!!それ、マジウケるんですけどー!!」
と、耳に痛い声が割り込んできた。
声の主は先程の若い男女……もとい、ごろつき客だ。
何やら盛り上がってるらしく、バカ笑いしている。
男たちも割りと大きめの声だが、野太いだけでまだ聞き流せる。
だが、女性の声は甲高くてとても耳に響く。
何を話しているのか知らないが、もう少し静かにしてくれないだろうか。
「……っ」
マスターは注意したいようだが、生憎、料理中で手が離せない。
理沙が立ち上がり、ギロリと奴らに殺意を込めた視線を送る。
が、奴らは全く気づいていない。
完全に自分たちの世界にハマっている。
「り、理沙。抑えて」
しかし、理沙に私の声は届いていない。
実は理沙はマナー違反者に物凄く嫌悪感を抱いている。
彼女は「人生で命の次に大事なのは食事だ」と豪語している。
だからこそ、食事の雰囲気を乱す者を許さない。
以前、一緒にご飯行った時も似たような連中がいた。
彼女はそれを真正面から指摘し、激怒した客と店の中で大喧嘩。
あの時は殴り合いになるわで流血沙汰になり、店内は大パニックだったな。
理沙は頭に血が上っていて、私が止めても聞かなかった。
当然、警察沙汰になるわ、救急車も来るわの大騒ぎに。
あの時、人生で初めて事情聴取されたよ。
後々、親や先生にまで散々叱られたが理沙は主張を曲げなかった。
「メシの時に五月蝿くしている奴を注意して何が悪い!」というのが彼女の弁。
もしかして、ここでも同じような事が起きてしまうのでは。
「理沙っぺ、ちょい待ち。私に任せな」
「でも!」
「その怒りの気持ちはゴブリンにぶつけな。無駄にエネルギーを使わないの。そもそもガキ相手に本気になっちゃダメよ」
サラさんはゆっくり奴らのテーブルに近づく。
そこで連中はようやく他に客がいることに気づいた。
まったく、周りが見えていないにも程がある。
呆れるほどに周りが見えていない。
「あ、なんだテメー?」
「うっさいんだよ、あんた達。静かに食うか、どっか他所で食べな。特にそこの女の声が嫌だね。耳に響くったらありゃしない。これじゃ落ち着いてメシも食えないわ」
「この野郎。ケンカ売ってんのか、ああん?」
「言葉わかんないの?騒ぐなら他所でやれって言ってんの!」
語気を強め、テーブルをバンと叩くサラさん。
男達は立ち上がり、懐からナイフを取り出した。
舌なめずりして苛立ちの視線を送るがサラさんは微動だにしない。
流石に慣れているらしい。
「オレらにケンカ売ったのが間違いだな。ブッ殺してやる」
「はいはい、どーせそういう展開よね。ま、腹ごなしにはちょうどいいか。
んじゃ、外行きましょう。店ん中じゃ迷惑だ。みんな見学しにおいで」
という訳で全員で外に出ることにした。
マスターさんは慣れているのか、料理を黙々と作り続けていた。
通りを歩く人はまばらだった。
というか、ピアスをし、タトゥーを身体中に刻んだ男女三人がナイフを片手に女性一人を襲う。そんな光景、すぐに目を避けて去っていくだろう。
男も女も殺気を漲らせ、やる気マンマンの模様。
サラさんはいつもどおりの飄々とした表情だ。
「あ、そだ。ハンデをつけてあげる。私は剣を使わない。メイ、預かってて」
「あ、はい。って重!!」
「アタシも持つッス」
理沙と一緒になってようやく持てるほどの大剣。
サラさん、いつもこんな剣を使っているの?
実は力持ちなんだろうか?
あのマスターみたいに筋骨隆々ではなさそうだけど。
当の本人は軽く準備運動をして手袋を嵌める。
「けっ、ふざけやがって。んじゃ、俺も拳で行くぞ、オラアアアア!!」
男の一人がナイフを捨て、拳で襲い掛かってきた。
サラさんはそのまま微動だにしない。
拳をかわすものの、相手は距離を詰めて掴みかかってきた。
サラさんはそこで行動を起こす。
まず、腰を落として右手を引き、股間へ右背刀を打ち当てる。
金的を食らった男は顔面蒼白必死。
そのまま右足を踏み込み、頭を相手の腕の差し入れる。
相手はもがくが金的されているので、それは赤子の抵抗に等しい。
そして、両肩に載せて抱え投げる。
「うああああああああああああ!!!」
家の壁に頭をぶつけた男は耳に悪い音を響かせ、沈んだ。
白目で泡を吹き、首が変な方向に曲がっている。
死んではいないけど、後遺症は残りそう。
「や、野郎!!ブッ殺してやらあああああ!!」
仲間の敗北に動揺しながらも、襲い掛かってくるもう一人の男。
彼は先程の奴と違い、ナイフを手にている。
サラさんはそれを上手く回避し、肘で脇に一撃を食らわせ、手首と腕を掴む。
そこを支点にして相手を地面に倒し、そのまま腕を脇の部分へ。
ナイフを持つ手というのは揉み合いになっても、そうそう外れることはないという。
だが、今回はそれがアダとなり、男が握りしめたナイフが脇に深々と刺さった。
「ぎゃああああああああああああああ!!!いてぇ、いてぇぇぇぇ!!!」
「うっさいなぁ、男でしょ。そんぐらいでグダグダ言わないの」
その男の顔を足で踏み潰し、黙らせるサラさん。
男は地面とキスをし、夢の世界へと旅立った。
数年前に亡くなったお婆ちゃんがおいでおいでしている。
そんな光景が見えているのか、顔は幸せそうだった。
しかし、殺しこそしてないが、ものの数分で大の男二人を倒すなんて。
流石、ファングのトップランカー。恐るべし。
「さて、アンタはどうするの?」
「あ、あんた、確かサラね。ファングの。オヤジに言いつけてやるわ。
私の父はね、リチャードって言ってこの街では有名な貴族の……」
ナイフで脅しているものの、手が震えている。
実力的には敵わないと感じたのだろう。
威嚇しているものの、当のサラさんには全く通じていない。
恐らく本人もわかっているだろうが、それでも虚勢を張っている。
言い慣れているのか、脅し文句はまるで覚えている台詞のように饒舌だ。
そのままミュージカルの舞台女優にでもなればいいのにとすら思う。
でも、正直言って子犬が鳴いているのと何ら変わらない状態だ。
負け犬の遠吠えと言うやつだね。
「言いたきゃ、言えば?こっちは痛くも痒くもないよ。大体、勘当されてる奴が何言ってるんだか。身体売って生活してるんでしょ、サリア。いい加減、そんな生活は卒業しな」
「う、うるさい!お、覚えときな」
女はそう吐き捨てると、一度も振り返らずに去って行った。
「まったく、仕方が無い奴ね」
「サラさん、こいつらはどうするんです?」
「ほっとけばいいわ。どーせ、街の青年団が警備隊の詰め所に叩き出してくれるでしょ。あー、お腹すいた。そろそろできてる頃ね、みんなで食べましょ」
静かになった酒場兼喫茶で私達はゆっくりごはんを食べることにした。
気力充実なのはいいけど、サラさんって本当に強いんだなぁ。
さっきは素手だったけど、剣をもったらどんなに強いんだろう?
女だてらにファングの正メンバーだし、どれくらい強いのか?
私は食事よりもそっちの方が気になって仕方なかった。
食事を終えた私達はお代を払って外へ。
マスターがチンピラを追い払ってくれたお礼にと少し安くしてくれた。
ご厚意に甘え、お腹もいっぱいで満足、満足である。
うーんとのびをする。
「なかなか美味かったッス」
「うん。結構美味しかったね」
「私的にはもうちょい薄味の方がいいんだけど」
と、理沙、私、ミカちゃんが食事の感想を言い合う。
こういう何気ない時がとても幸せだなと感じる。
そんな中、ノノは天を仰ぎ見ていた。
「どしたの、ノノ?」
「なんでもないわ。ただ、雨が降るかなって」
雲を見つめてみるが、空は晴れそのものだ。
所々雲があるけど、それらは固まっておらず孤立している。
空気も澄んでいて、雨がすぐ振りそうな気配は感じない。
「うーん、すぐ降りそうには見えないけど」
「今はね。ただ、数時間後に降ってくるかもしれない」
「ノノがそう言うなら信憑性は高そうッス。傘も準備しておかないと」
「それなら、もう用意してるぞ」
と、声をかけてきたのは梨音さんだ。
二カッと笑みを浮かべている。
袋を背負い、その中には傘意外にも様々な物が入っているらしくパンパン。
傍から見ると夜逃げでもするのかなと思ってしまう。
「梨音、なんで来たの?あんたが来ても足手まといにしかならないわ」
「サラ、そんなことは百も承知だ。あたしは根っからの商売人で戦闘はからっきしだしな。この通り腕力もない。だが、今回ばかりはアタシの儲けにも関わってくる。人に頼るのが悪いわけじゃないが、最後の最後は自分でやらないとな。それと」
と、梨音さんは少ししゃがみ、私の頭を撫でる。
みんな、私をなでなでしてくるのはなんで?
別に嫌な気はしないけど。
「このチビすけがどんな風に強いか見ておかないとな。シェリルだのミリィ倒しただの噂は聞いているが、所詮、噂だ。アタシは直に見ものしか信じねぇ。それに仕事を頼むのは今回だけじゃねぇ。そん時に頼む相手がどれだけの力量かを考える必要がある。今回のゴブリン討伐はそれにうってつけだ。そういうわけだ、サラ。ついてっても文句ねぇな?」
「ち、ちびすけ……」
グジグジと髪をくしゃくしゃにする梨音さん。
もうちょっと優しく撫でて欲しいのですが。
せっかく朝シャンして髪を櫛で綺麗にしたのにー。
「アンタを護る余裕は無いわよ。それでもいい?」
「構わん。町の入口に馬車が止めてあるから、それに乗って鉱山まで行くぞ。2時間あれば着く。その馬車には結界が作動するように仕掛けてあるし、いざとなれば自力で逃げるさ。ま、それは最終手段だがな」
梨音さんは頑として聞かないようだ。
どうやら一歩も引く気はないらしい。
それだけ彼女は商売熱心なのが伝わってくる。
自分の生計がかかっているのだから本気になるのは当然だ。
そんな様子を見てサラさんはため息をついた。
「わかった、そこまで言うならもう止めないわ。みんな、街の入り口まで行きましょう」
「はい」
街の入り口へと向かう私達。
10分もかからずに着いた。
そこには馬車があり、馬が二頭いる。
そこには見知った顔があった。
「ロランさん、ミオさん!」
「久しぶりだな、メイ。大会以来だな」
「やっほー、メイ」
私はすぐさまロランさんの胸に飛び込んだ。
はははと笑いつつ、私を優しく抱きしめてくれる。
ミオさんも頭を撫でてくれる。
「お久しぶりです。元気そうでよかった」
「そっちこそ元気そうで良かった。あ、梨音殿。馬車の準備は完璧です。馬たちも元気ですし、体調は万全でしょう」
「おう、ご苦労さん。ほら、謝礼だ」
金貨袋を渡され、ロランさん達は受け取る。
きっちり数えるが、ものの数秒で数え終わる。
ロランさん、数えるの早いのね。
「確かに。では我々は街の警備に向かいます」
「ロランさん、警備の仕事をしてるんですか?」
「ああ。これも修行の一貫だと茜殿に言われてね。君たちはこれから仕事だろう?
頑張ってこいよ」
「アタシらはしばらく宿屋にいるから。メイと一緒のところね」
「そうなんですか。あの、お姉ちゃんも一緒ですか?」
ロランさんは首を横に振る。
「いや、茜殿とは別行動だ。我々はその間、実力をつける為に治安維持の仕事をすることになってな。ギルドに所属した訳じゃないが、今はどこも人手不足だ。我々の修行にはちょうどいいのさ。そっちも頑張ってな」
「バイバイ~」
「ええ、また」
別れを惜しみつつ、馬車に乗り込む。
サラさんが手綱を引き、器用に馬たちを操る。
少々揺れるが、乗り心地は割りと快適だ。
さて、しばらく休憩、休憩。
「おい、メイ。歌を歌え」
「はい?」
梨音さんの言葉に私は首を傾げた。
なんで歌を歌うの?
「モンスター共は歌を嫌う。いい歌だと近づいてこないそうだ。まあ、気休めに過ぎんが、しばらく暇だしな。ほら、何か歌え。流行りの曲でも何でも良い」
「うーん、じゃあ、私の好きな歌を」
「よっ、待ってましたッス!」
「理沙、あんたオヤジじゃないんだから」
理沙へ突っ込むミカちゃんに私は笑ってしまう。
んじゃ、歌うとしましょ。
「愛してる~あなたはそう言った~。でも~その言葉は嘘でしょ?なんで、どうして?なんで、どうして?昨日、見たんだ。喫茶店で。初めてデートをした喫茶店であなた、女といたでしょ?姉妹がいない、あなたが他の女と。理由を話して。どうして、あなたは。私を裏切ることを~」
あれ、なんかズーンと空気が重いような
え、なんでこれ名曲なのに。
なんで雰囲気悪いのかな?
「クリスナイフの曲は止めておくッス。あの人達、ビジュアルバンドだから悲惨な曲ばっかッス」
「あー、選手交代。次は理沙だ」
「はいッス。んじゃ、ピエールとカトリーヌを!」
ポカンと殴られる理沙。
わかるだけにちょっと赤面な私。
わからないノノとミカは頭に疑問符を浮かべてる。
わからないほうが幸せなこともあると思う。
「アホか!もっとマトモなのにしろ!変な空気になるだろーが!ってか世代じゃねーのによく知ってるな!!」
「んん~~じゃ、金太の大冒険とか。あとはTAKE FIVE 、IKANAIDE、タッチャッタとか」
「どれも下ネタソングだろうが。却下、却下!!」
「IKANAIDEはデュエット曲ッス。ぜひ、メイと歌いたいッス」
「ぜったい嫌だかんね。恥ずか死ぬよ、そんなの」
以前、カラオケで理沙はノリノリで歌ってたけど。
ああ、思い出すだけで赤面してしまう!
っていうか、女の子がそんな歌を熱唱しちゃダメでしょ人として!
理沙がしきりに誘ってくるが勿論、返事はノーだ。
知らない人は検索で調べると出てくるよ。
「どんな歌か聴きたいような、聴きたくないような」
「んー、仕方ないッスね。んじゃ、てんとう虫のサンバとか。これは結婚式の定番ッス。メイとはいずれ結婚するんですし、練習しましょう」
「古くない?今はButterflyでしょ。カエラちゃんの」
結婚するんですし、という下りは無視。
日本の曲事情を知らないミカとノノちゃんは首を傾げている。
「もういい!なんでも良いから、誰かマトモな歌を歌え!!」
それからしばらくして。
馬車は途中、馬を休ませたりしながら、無事に目的地のシルド鉱山についた。
馬を木に繋ぎ止め、みんなで鉱山に入る。
「で、シルド石を取るんですか?」
「いんや。今の時期は悪石しかできない。もう少し時間をかけないとな。シルド石はちゃんと収穫時期があって、まだ半年くらい先だな。だが、メシとエロい事にしか興味がないゴブリンはそこまで知らん。今頃、こっちの出方を伺ってるだろうよ」
「え、エロい事って」
「メイ、初めてはぜひアタシとするッス」
「頭湧いてるの理沙?つか、そういう事はミカちゃんとしたいなー」
と言ってミカちゃんに抱きつく私。
みるみるとりんごのように顔が真っ赤になっていく。
洞窟内は暗いけど、それでもハッキリわかるほど真っ赤。
「な、ななななな何言ってんのよメイ。わわわ、私達は女の子同士でしょうが!」
「いやいや、アタシ達の世界では女の子同士の恋愛は合法ッス。ある国では同性同士の結婚も許されたッス」
「そ、そうなの!?」
「ま、ごく一部だけどね。日本ではまだまだ男女同士の恋愛・結婚が普通よ」
アメリカでは一部の州が同性同士の結婚が可能となった。
けれど、日本ではまだまだその考えは浸透していない。
まだまだ男と女という考え方が根強い。
「そ、そうなのね。よかったわ。女同士の恋愛が当たり前かと思った」
「いやいや、着実に変わってきているっス。百合と呼ばれるっス。そもそも起源はサフォーがある学校を開いて女生徒を指導した事が~」
「私はミカちゃん大好きだよ。落ち込んでた私を励ましてくれたし。この世界で初めての友達だし」
「あ、ありがと。わ、私だってメイが初めての友達よ」
「メイと日本で同じ学校の同じクラスで友達なのはアタシが最初ッス」
「ボール女、そろそろ本気で話し合う必要がありそうね」
「どっちがメイを好きか、そろそろ決着をつけるべきッス」
「はいはい、そこまで。外、ヤバイのが多くいるわよ。どうするメイ?」
サラさんの言葉に私は頷く。
「私、理沙、サラさんで戦いましょう」
「了解ッス」
「ええ」
理沙、サラさんが頷く。
続いてミカちゃんに視線を合わせる。
「ミカちゃん・ノノは梨音さんの護衛。もし危なくなったら馬車ごと逃げてね」
「わかったわ」
「了解よ、メイ」
ミカちゃんとノノが頷く。
外へ足を踏み出すと青色の海が広がっていた。
いや、正確には青色の身体をしたゴブリン共が無数にいる。
純粋な青色ではなく、黒や灰色を混ぜた汚い青色だ。
鋭い歯と頭に角を生やし、手と足の爪は刃物のように鋭い。
手には棍棒を持ち、こちらにやってくる。
数え切れないけど、万を超える数はいると考えて間違いない。
しかもそのどれもが「ニンゲン、ニンゲン」「コロセ、コロセ」「メス、メス」「メシ、メシ」とオウムの如く同じ言葉を言い続けている。
「るっさいっての!重剣グラム・ハザードよ。我が力となれ!」
何もない空間から剣を取り出すサラさん。
それは180センチは超えるであろう大剣だ。
刃の部分も広く、分厚くて重厚そうだ。
あんなので殴られたら塵も残らないだろう。
サラさんはそれを軽々と片手で持ち上げ、天に掲げる。
あんな重そうなのを軽々と持てるわね。
まあ、私が言っても説得力ないけど。
「炎よ、眼前を塞ぐ愚かな者達に裁きの鉄槌を。超重・火龍一閃!!」
剣を炎に灯し、大きく振り落とす。
炎は巨大な鳥へと姿を変え、羽ばたく。
鳥は自由自在にゴブリンの海を飛び回っていく。
それは地獄の業火のように紅い炎だった。
範囲が広く、業火は数百体ほど飲み込み、焼き尽くしていった。
無残にも焼かれていくゴブリン達。
多くが苦しむ暇もないまま、一瞬で消し炭になっていく。
逃れようとした者もすぐに炎に飲み込まれていく。
その後はまるで空襲でもあったかのように焼けただれていた。
「グエエエエ!!コウナリャ、ヨワソウナ奴カラダ!!」
「誰が弱いってのよ!!」
襲いかかるゴブリンの頭をセグンダディオで貫く。
それをゴブリンの群れに投げ、ボーリングのピンのように敵が巻き込まれる。
そのままそこへ飛び込み、巻き込まれた敵達を切り刻んでいく。
身体じゃダメだ、反撃してくる可能性がある。
一撃で行動不能にするために、頭を斬る。
続けて、頭を斬る、頭を斬る!!
「オリャアアアアアアアア!!!」
跳躍して棍棒で叩きつけようとする敵が一人。
すらりと交わして蹴りで金的させる。
さっきのサラさんの真似である。
悶え苦しむ奴の頭を真っ二つに斬り裂く。
その頭の後ろで私を襲うとしていた奴の顔面に剣を突き刺す。
緑色の血が私を醜く汚していくが気にしない。
一匹一匹着実に殺していく。
「
理沙は斧で地割れを引き起こした。
地割れでできた地面の穴はとてつもなく広く、そして深い。
それはゴブリンたちには地獄の底へ続く黄泉路の道となる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
彼らは生きたまま、無限地獄へと落ちていった。
阿鼻叫喚し、絶望し、悲鳴を上げ、醜い顔を歪めながら、悲鳴を上げる。
その姿は無様で惨めで、とても滑稽だ。
憎悪に顔を歪めるゴブリン達が堪らなく気持ち悪い。
にも関わらず、どこか優越感を感じていた。
私は昆虫とか虫が大の苦手だ。
カブトムシも嫌いだし、ハチやアリだって嫌いだ。
特に足の動きが気持ち悪いし、カブトムシの幼虫も気持ち悪い。
昆虫図鑑を見ると真っ先に気持ち悪いという感情になる。
ゴブリン達に対する感情はそれとよく似ている。
だが、何故だろうか。
無限地獄に落ちる彼らは多くが恐怖に顔を歪めている。
だが、その中でも好戦的な物は最後の抵抗とばかりにこちらを睨みつける。
その顔を覚えておくという、悔し紛れの最後の抵抗だ。
その瞳がまっすぐ私を捉えた時、心が満たされる。
どうして、そんな瞳に心地よくなるのだろうか。
嫌いな虫を足で踏み潰す時のような変な喜びが心を支配する。
「メ、メイ。大丈夫ッスか?」
「私は別に普通だけど」
「今、怖い顔をしていたわ。こっちが引くくらいね。ゴブリン達の死に様をじっと見ていたけど、何かあったの?」
「う、ううん。別に何もないよ。何も」
何もないはずだ。
何もないはず。
でも、わからない。
殺し合いが嫌いな私がどうして戦闘でこんなに高揚してるのか?
緊張感とは違う、この感覚と感情は何なのか?
私にはわからなかった。
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