第21話「ニルヴァーナ騎士候補生・大試験大会 その②」



レストラン「カルベローナ」内。ここはニルヴァーナにある有名なレストランだ。全国に多数店舗があり、高級な佇まいを見せる。けれど、値段はそれなりに安い。まあ、普通のレストランに比べたら、少し高いけど、お財布にはそこまで響かない。味も美味しいので、たまに食べに行くなら良いだろうという人気店である。(理沙情報)



ちなみに2階のテラス席という良い場所で私達とアイン王子は食事をしている。彼のお陰で順番が優遇され、手続きは思っていたよりも早く終わったのだ。その後、特に予定もなかったので、彼に誘われて食事をすることにした。男の人にはいい思い出がないが、せっかくの好意は受けておいたほうがいいという理沙のアドバイスもあって、食事をすることにした。




「美味いメシに美味い酒……それに美人の女の子ときたもんだ。これぞ酒池肉林だな」




赤く染まった顔でいやらしい笑みを浮かべる王子。瓶ごとお酒を飲み、ハイペースで飲み干していく。無くなったら即、注文という豪快な飲みっぷりだ。褒められるのは光栄だが、下品な笑みは正直、いい気がしない。




「……それはどうも」




「んぅ、うまいッス!」




「ヤバ、超美味しい。お姉さん、もう1個追加ー!」




理沙はどんどん食べては飲み、食べては飲んでいく。ノノも気に入ったらしく、バグバグ食べていく。みんなペースが早くテーブルの上に空いた皿がどんどん埋まっていく。それをウェイトレスがこまめに運んでいってくれる。私も負けじと苦い気持ちを振り払い、ぱくぱくと手を休めずに食を進める。アイン王子は呆れていたが、私達は誰も気にしなかった。何せ、屋敷事件のせいで時間を食ったのもあり、しばらくは結構飛ばして歩いたからだ。しかし、走ることはできない。山道でもそうだけど、長い距離は走らずに自分のペースで歩いていくことが重要だ。でないと、体力を消耗して進めなくなる。そのせいでお腹すいたんだよね……でも、運動の後のご飯はやっぱ美味しい。



ところで、店内には大勢のお客さんがいる。

でも、何か、私達が注目されている気が。




「みんなこっち見てる。有名なんだね、王子。もぐもぐ」




「アインでいいぞ。ま、ここら辺で俺を知らない奴はいねーよ。ルックスもいいし、王子だし。あと、ファッション誌でモデルもしてるからな。ってゆーか、お前ら、よっぽど腹が減ってたんだな」




「しばらく、ずーっと歩きだったからね」




「俺の自慢は無視かよ……ま、そりゃご苦労なことだな。ところで女同士でパーティを組むなんて珍しいじゃないか。何か理由でもあるのか?」




「魔道士の子とか、何組かいたじゃん」




「ああ、まあな。でも、お前らはじゃないんだろ? だから目に留まったのさ」




アイン王子の言う通り、女の子同士のメンバーは少数派だ。先ほど並んでいた候補者達も男女ペアもしくは男性ペアが多かった。魔道士ペアはいたものの少数派だし、私達のような戦闘系は他にいない。私は騎士になりたい訳ではなく、正確には元の世界に戻る情報を集める為だ。


その為、僻地任務もあり、様々な場所へと赴くことができる「騎士」は情報を集めるチャンスだ。情報の少ない現時点で目的なく世界各地を渡り歩くことは自殺行為。だからこそ、騎士になって情報を手に入れるのだ。だが、アインにはまだ秘密にしておく。




「仲良しですから★」




私はそう言ってウインクで誤魔化しにかかる。アイン王子は微妙な顔をしていたが、「まあいい」と詮索するのはやめてくれた。




「ところでメイ。大会受付は今日で終了だ。明日には選手発表、明後日に試合開始となる。これからどうするんだ?」




「特に決めてないけど……」




「やっぱりな」といいつつ、アイン王子は少しため息をついた。ん、何かやり忘れたことあったかな?アイン王子は酒瓶を飲み干してから真剣な顔をした。でも、赤い顔で真剣になられてもねぇ……。説得力は下がる一方である。




「いいかメイ。大会には大勢の候補者が集まってくる。その中にはさっきのバズダブみたいなプロの連中も大勢いる。試験内容は言えねぇが、体力だけじゃねぇ、頭も使う競技もあるんだ。お前さんがどれほど強いか知らねぇが、特訓もした方がいいんじゃないか?」




タチの悪い酔っ払い親父のように説教してくるアイン。これで顔が赤く無ければ説得力があるんだけどなぁ。




「ふむ……それは確かにッス」




理沙は食べる手を休め、難しい顔をする。そんな彼女を尻目にしつつ、私とノノは食事を続ける。




「んー、でも、あんまし時間ないよね。付け焼刃にならない?」




修行をしても一朝一夕で身につくものではない。最低でも3日以上の日数がないと意味が無いと思う。まず身体をならして体力をつけ、それから実践していくんじゃないかな。詳しくは知らないけど、以前、お姉ちゃんの好きな格闘技番組の選手がテレビでそんな風にトレーニングしていたのを思い出した。




「だな。それでどうだ、俺と戦うってのは。自慢じゃないが、俺は騎士団経験もあるし、諸国漫遊で色々な国々を回っていたからな。それなりに自身はある。どうだ?」




「どうだって言われてもねぇ……それに」




私は後ろの席に気配を感じていた。実はさっきから感じる異様な邪気。

まさか気づいてないとでも? 席を立ち、ハサミに願いを込める。




封印解除ブレイク・アセール!」




セグンダディオを現し、後ろの席へ強烈な一撃を叩き込む。吹き飛ばされた誰かが壁にぶち当たり、大穴を開けた。しかし、すぐに起き上がる。




「ふふ……なかなか、いいかんをじている。さすがだ」




起き上がったのは見覚えのあるローブの男。バズダブだ。きっと脱獄してきたんだろう。お客さんはざわざわとしているが、逃げ出しはしない。というか、ワクワクしているみたいだ。流石に騎士の街だけあって、みんな血気盛んらしい。




「アイン、ごめんね。いい練習相手がいるみたい」




「やるんなら外でやれ。ここだと客を巻き込んじまう」




「OK。バズダブ、ついてきなさい!」




「ふっ……おでに指図するとは生意気な」




私の駆け出しにノノ、理沙も続いた。






外へ出ると私達は注目の的だった。往来の人も、レストランの二階席の人もこちらを見ている。私と睨みあうバズダブに恐れをなし、弱腰な住民は逃げていく。けれど、8割の住民は熱い視線で私達の試合を観戦しているようだ。中には賭け事にしている人も……。




「二人とも、ここは私に任せて」




「そんな、無茶ッス!」




「メイ、大丈夫なの?」




「うん。だって向こうは1人だし。こっちが大勢で戦うのはフェアじゃないでしょ? 弱いものいじめは趣味じゃないの」




私が挑発混じりで言うと、バズダブは低い声で笑い出した。不気味な声だが、怖いとは思わない。




「ぐふふ……なかなか威勢がいいな、ごむずめ。無駄にじしんか……だな」




「ごちゃごちゃ言ってないで早く来なさいよ。それとも臆病風に吹かれたの?  男のくせに情けないわね」




「その口、閉じろ!! 」




かかった!私は奴の斧の一撃を避け、背後に回り、その背中を切り裂く。厚く広い背中は絶好の的だと言えるだろう。しかし、分厚いアーマーに弾かれてしまう。




「ん……蚊でもとまっだが? 」




奴は背中をポリポリ掻き、ゆっくりとこちらを向く。図体がデカくて攻撃力はあるが、反応と動きは鈍い。私がさっきまでいた場所は大穴が開き、道路が陥没している。もし少しでも遅かったら、あのまま落ちて、地底人と会っていたかもしれない。




「おでには……この筋力と分厚いアーマーがある。これはだ。おまえのけんじゃきれぬ……だれのけんでもきれぬぞおおおおおお! 」




私はすぐさま回避し、斧からの攻撃を避けた。力任せに斧の攻撃で私を粉砕しようと躍起になるバズダブ。ただ、目が血走っていて、どこを狙うのかがすぐにわかるのだ。だから回避することは別に難しくない。私は回避をしつつ、その隙に背中に一撃を食らわしてやることを繰り返す。もちろん、バズダブには効果がない……ように見える。けれど、それを何度も何度もやることに意味があるのだ。10回ほどしたところで準備が整った。




「かのようにうろちょろして……。だが、よければ、よけるほど、つかれる。いずれ、おでの斧のだ。あぎらめて、こうさんしろ」




「それはこっちのセリフよ。身体をよく見なさい! 」




「あ? 」




バズダブは視線はこちらに向けたまま、身体を触る。すると、ドサッという何かが落ちた音がした。言うまでもなく、奴の装着しているアーマーだ。付け根の部分が綺麗に斬られていた。鮮やかな切り口は芸術的で並大抵の剣ではこうはいかないだろう。流石、セグンダディオね。彼に斬れぬ物なし。




「な……なんだと? 」




「ふふん、セグンダディオにそんな普通のアーマーが通用すると思ってるの? 」




「な、何!? せ、セグンダディオ……だと? あ、あのよんえいゆうの!?」




バズダブは信じられないという驚きを顕にした。どんどん血の気が減り、顔が青く染まっていく。人々も揃ってざわめきだした。あ、つい大声で言っちゃったから聞こえちゃったのね。ヤバ……このままじゃ騒ぎになっちゃう。でも、奴を動揺させることはできたし、いいとしよう。と、前向きに考えておく。




「アーマーのないアンタは甲羅から出た亀同然。それでも戦う? 」




「こ、こむずめ……!よんえいゆうのぶきなど、あ、あるわけがない!は、はったりもたいがいにしろ! こ、ころじてやる! ブチごろしてやぐぅぅぅぅぅぅぅ!! 」




すっかり正気を失ったバズダブは猪のように突進してくる。私は奴の頭を体育の跳び箱と同じ要領で飛び越え、着地する寸前に背中を一文字に切りつけてやる。




「ふぐああああああああああああああああああああ!! 」




絶叫と共に血の噴水を地面に撒き散らすバズダブ。奴は痛みに耐え切れず、その場に倒れ、そのまま動けなくなった。けれど、殺してはいない。




「小さいからって油断しないことね。こっちはシェリルやミリィを倒したし、変態紳士も倒している。アンタが勝つ道理は何一つなかったのよ」




シェリルの名で住民たちは更にざわつきだした。それと共に歓声も上がり、「幼女すげー!」「ヤバイ、めちゃ強いぞ!」などの声も。うーん、幼女はちょっと微妙だな。可愛い女の子くらいなら許せるけど。




「お、おのれぇぇぇ!!」




「あ!」




バズダブは傷ついた巨体を動かし、近くにいた子供を掻っ攫う。

斧を子供の首にあてこちらを睨みつける。




「うごぐな! 動けばこの子供の命はなぎぞぉ! 」




「卑怯者! それでも竜殺しのバズダブなの!? 」




「ぜんどうにひきょうもクソも無い。勝つか負けるかだけ……。おではおめぇなんぞに負けはしない。かづのは、おでだ!!」




「それは無理ッス」




そこへ先回りしていた理沙が奴の背中をハルフィーナで切り裂いた。




「うぐあああああああああああああああああ!! 」



元々切れた背中を更に斧でえぐるのは相当な痛みだろう。奴の絶叫と共に血の噴水が地面へと舞う。理沙は子供を連れてすぐに安全な場所へ。倒れたバズダブは本当に虫の息となった。背中をセグンダディオとハルフィーナで切り裂いたのだ。生きているのは頑丈だと言えるものの、これ以上は無理だろう。さて、どう料理してやろうかと考えていたが……。




「メイ、その辺にしとけ。殺す必要はないだろ」




「そうだね」




アインの一言で私は思考を中断した。

それから兵士さんが10人ぐらい来てバズダブを担架に載せて運んでいく。まあ、まずは治療が先だろうからね。




「メイの圧勝だな。あの伝説のオリハルコンすら切り落とすとは……。本当にセグンダディオなのか、その剣?」




「ままままさか、単なるハッタリだよ。どんなアーマーでも付け根の部分は弱いから。そこを切ったの。つか、四英雄の武器なんてあるわけないじゃん」




勿論、嘘だ。

これ以上騒ぎになる前に嘘をついておく。この嘘が真実だと皆が信じるなら騒ぎは収まるだろう。というか、観衆ギャラリーは.まだ興奮状態のままだ。




「……あの竜殺しのバズダブを幼女が倒しやがった!」


「末恐ろしいな、あの女の子!」


「シェリルもあの子が倒したんだって、すげえ! 」


「ヤバ、惚れそう……」




うーん、色々な声が出てくるなぁ。

惚れそうはちょっと勘弁して欲しいけど。




「さすが、メイッス」




「理沙こそナイスだったよ」




と、私達はハイタッチを交わす。

こういう瞬間ってとっても気持ちいいよね。




「メイ、お疲れ」




「ノノ、ありがとね 」




「でも正直楽勝だったな。試合じゃ強い相手はいっぱい出るからもっと頑張らないとね」




「あのー、お客様……」




と、そこへウェイトレスがやってきた。

何やら顔をピクつかせながら。




「お勘定と壁の修理費、払ってもらえませんか?」




「え……」




勘定札には結構な額が書かれている。っていうか、ゼロの数が多い!

壁の修理代が高すぎる!




「ど、どーしよう。バズダブに払わせようと思ったんだけど……。うーん、資金が減るのはマズイなぁ。アイン、なんとかして!」




「お前の喧嘩だろ。喧嘩の尻拭いぐらい、自分でやれ。俺は取り調べをやらんといかん。これで失礼するぜ、またな」




「ええー……」



さて、どうしたものだろうか。シェリルを倒した時、かなりの報酬をもらったけど、ロランの治療代に充てた。それでもかなり残ってるけど、壁の修理費+食事代に回すと大分減ることになる。いくら参加者が宿代無料でもちょっと厳しいかも。毎日の食事代とかだってあるし、旅には何かとお金がかかるんだよぉ。




「それなら私達が払おう」




と、そこでまたもや誰かがやってきた。それは馴染みのある声だった。

あれ、まさか……。




「久しぶりだな、メイ」




「やっほー!」




「ロランにミオ!? なんで……」




そして、もう1人私が見知った人間がそこにいた。




「ハロー、メイ。久しぶりね! かっこいいぞ、このこの! 」




と、私を抱きしめてきたのはロランでもミオでもない。豊満な胸と抱き心地、懐かしい声。この懐かしいぬくもり、忘れるわけがない。




「お姉ちゃん!? 」




なんと、我が姉・七瀬茜ななせあかねであった。

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