第19話「もう、ひとりじゃない」



「私たちはナイトゼナの人間じゃないの。こことは違う異世界の人間なの」




「異世界?」




私たちはノノに状況を説明していた。時刻はそろそろお昼になろうとしている。太陽の光も少し落ち着き、優しく穏やかな天気だ。私たちの言葉にノノさんはふむと腕を組んで考えているようだ。フェアリーティーを飲みつつ、私達は説明を続ける。




「アタシもメイも日本の大阪という所の出身ッス。どういう訳か、この世界に来てしまったッス」




「ふむ……異世界ねぇ。どんな感じで来たの?」




「私の場合は入学式の登校途中でハサミが光って、気づいたらナイトゼナにいたの」




「アタシの場合は闇祭神社という所にあるハルフィーナに触れてからッス」




私達の言葉にノノは驚かなかった。もっと驚かれると思ったが、意外だ。

ただ、うんうんと頷いている。納得している?




「なるほどね。ま、なんとなくナイトゼナの人と違うなとは思ったケド」




「違うって、どこが? 服装とかは変じゃないと思うけど」




服装はこの世界に合わせている。元々の制服は地下墓地の時、男たちによって破かれてしまった。一応セグンダディオの力で戻ったけど、TPOを考えてくれたボルドーさんの奥さんが服とマントをくれたので、今はそれを装備している。理沙もマントやアーマーを装備し、靴も冒険者用の紐靴だ。街にいる時、色々な人の服装を見たけど、特に私たちが浮いている様子はなかったと思う。奇異な目で見られることもなかった。




「服装はね。発音のイントネーションかな。ナイトゼナの言語ではあるんだけど、よく聞くと少しだけ違うのよ。といっても、ほぼ正確だし、普通の人には分らないレベルだけど。でも、妖精は耳がいいの。だから、ほんのちょっとの違いでもわかるものなのよ」




私の言葉はセグンダディオが翻訳してくれている。それと同様に理沙もハルフィーナが翻訳してくれている。けど、イントネーションの違いがあることを指摘されたのは初めてだ。




「まあでも、重要なのはそこじゃないわ。私が気になるのはハルフィーナにセグンダディオ。どうして四英雄の伝説の武器をあなた達が持ってるの?」




「うーん、そう言われても。アタシは神社で触れただけッス」




「私はお姉ちゃんからハサミを渡されて、それがセグンダディオに」




「……そう」




ノノさんはフェアリティーの残りを一気に飲み干し、急に土下座した。




「ノ、ノノ?」




「……セグンダディオ様、ハルフィーナ様、お帰りなさいませ。我ら妖精一族、お二人のお帰りをお待ちしておりました」




その土下座はいわゆる謝罪の土下座ではない。時代劇で言う武士の平伏へいふくという感じだった。突然の事に私も理沙も驚きを隠せない。




「ど、どういう事?」




「大昔、マルディス・ゴアに仕える幹部の一人が妖精の国をメチャクチャに破壊したことがあったの。600万人いた妖精たちは女王様を除いてわずか10人へと激減し、国は存亡の危機を迎えていたの」




「600万人がたった10人!?」




げ、激減過ぎる。どれだけ暴れまわったんだろうか、その敵は。恐らく、破壊と暴力の限りを尽くしたのだろう。それは想像に難くない。ノノさんの表情もやや険しくなっている。




「そこへ女王様と親交が深かった四英雄の一人、カムラ・セグンダディオ様が現れたの。彼は1週間の激闘を繰り広げ、遂に幹部を討ち滅ぼした。復興にも協力してくれて、自ら率先して動いてくれたそうよ。慰霊碑建立も彼のおかげでできた。私たち妖精は誰もがその話を知っている。100万年経った今でも語り継がれているわ。妖精が人間に深い信頼を寄せているのはその出来事があったからよ」




私も理沙もその話に驚きを隠せなかったが、ノノさんは真剣そのものだ。どう言葉をかけようか悩んだが、そこへあの声が聞こえた。




”ノノ、顔を上げよ。女王やそなたら妖精一族が我の前の契約者を敬い、尊敬していることは存じておる。その感謝の念、前契約者もさぞかし喜んでいるだろう”




「勿体無いお言葉であります、セグンダディオ様」




ノノにも言葉が聞こえるようにしたのだろう。私達全員にセグンダディオの声が聞こえた。その声はいつものように不思議な、例えようのない声だ。でも、喜んでいるという気持ちがにじみ出ている。彼にも感情というものがあるのだなと知った。




”今、再びこの世界に危機が訪れようとしている。マルディス・ゴアの復活だけではない。何かもっと”今の契約者は素直でまっすぐな者だ。我を扱うにはまだまだ力が足りないが、それでも我が認めた者である。出来ることなら、二人に力を貸して欲しい”




「はっ、承知致しました! 微力ではございますが、粉骨砕身、努力させて頂きますので何卒宜しくお願い致します」




と、ノノはひとしきり土下座をしたあと、何故か私に抱きついた。



「え、なに、ちょ……」




「こんなに可愛いのに、セグンディオ様を扱えるなんて! それだけでも凄いのにあんなモンスターまでやっつけちゃうなんて! 貴女とお供をすることは私たち妖精にとっても誉れ高いことよ。メイ、ぜひ私と契約して!」




「あ、ええと、その、うん」




「ノノ、さっさと離れるッス!」




理沙がノノを引っペがそうとするけど、彼女は私から離れない。何はともあれ、これで仲間が三人になったわけだ。彼女は補助魔法や回復魔法が得意だから、きっとこれからの旅の助けになるだろう。本音を言うと、私はマルディス・ゴアを倒すという話はそこまで興味がないんだ。私は早く理沙と一緒に元の世界に帰りたい。でも、その方法はまだまだわからない。



けれど、一歩前進したと思う。これからも様々な困難が待ち受けているだろう。でも、どんな障害が来ても、大丈夫。私はもう一人じゃないから。




「理沙、ノノ。改めてよろしくね!」




「はいッス!」




「はーい♫」





二人の声が見事にハモった。

この後、私とノノは正式に契約した。

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