第14話「愛故に」


「うわ……」



図書室についた私たちは絶句した。まず、とんでもなく広い図書室でびっくりした。学校の図書室を4つも5つも合体させたかのような広さだ。そこにある本棚はどれもぎっしりと本が詰め込まれている。隙間など一つも空いておらず、それはもうぎっしりと詰め込まれている。もし本に意思があるなら、苦しいよー、なんとかしてくれーと泣き叫ぶことだろう。それぐらいにぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。




で、それはどれもこれもエロ本ばかり。何冊か取り出して見たけど、絵がなんともまあダイレクト。レディースコミックも裸足で逃げ出すほどの直球勝負だ。正直、直視できないよ。




「……田吾作は嫌がるラファールを押し倒した。何が家賃だ、研究費だ。こうなったら、お前を犯しちゃるでしかし!と暴言を吐いたかと思うと、荒い息をふきかけ、下半身を滾らせ、男のシンボルを剥き出しにしながら、彼女の唇を強引に奪い……」




「理沙、音読しないで!」




「あ、ご、ごめんなさいッス……」




バツの悪い顔をして本を戻す理沙。まるで、いたずらをした子供のようだ。まったくもう。




「と、取り敢えず色々探してみるッス。メイはナイトゼナの文字は読めないでしょうから、怪しい本があればキープッス」




「う、うん。でも、なんかやらしい本ばっかりで嫌だなぁ」




「嫌かもしれませんが、探さないとここに来た意味ないッス。アタシは左側を探しますんで、メイは右側をお願するッス」




「う、うん」




そう言って理沙は本棚へと去っていった。じっとしていても仕方ないし、嫌な気持ちはあるが、とりあえず調べてみることにした。まずは手近な本棚から調べていく。




だが、やはり、どれもこれもいやらしい本ばかり。幼女が裸になってメイド服を着ているのを犯しているお爺ちゃんとか、看護婦さんに性的看護してもらうお爺ちゃんとか、息子の嫁に下の世話をしてもらうお爺さんとかそんなのばかり。文字は相変わらず読めないけど、挿絵でわかる。どうも趣味が偏っているわね。王様は高齢だったから、お爺さんに自分を重ねていたんだろうか。どうでもいいけど。




「なんか嫌になってくるなぁ」




しばらく探してみたけど、どれもこれもそういう本ばかりだった。1時間くらい探したものの、怪しい本は何一つなかった。異世界について書かれた本は一冊も無い。理沙はどうなったかなぁと左側の本棚の方へ向かう。




「……良子は礼菜のキャミを脱がしてから、ダンガリースカートを丁寧に脱がす。乱暴にせず、優しく丁寧に脱がしていく。まるで壊れ物を扱うような丁寧さで。二人は無言になり、室内には服の布切れの音だけが響く。良子は顔を赤く染めつつも、手を止めなかった。意識せずにはいられないし、心臓がさっきから早鐘のようにうるさく鳴り響く。それを無視してただ、脱がすことだけを考え、脱がしていく事に没頭する。どんどん生まれたままの姿に近づいていく礼菜。露になっていく自分の姿に礼菜も恥ずかしさを感じていた。だが、良子にされるがままだった。自分の裸を良子の瞳に焼き付けてと心で願いながら。やがて、礼菜は下着姿となり……」




「理沙! 何、官能小説なんか読んでるの!」




「はっ!いや、その、つい。あ、や、官能小説じゃないっすよ。百合小説ッス。「ケンドー女剣良子の獅子奮闘記」っていう、カクヨムってサイトで投稿されていた奴なんですが……何故かその本があったんで。六恩治小夜子先生の作品、アタシは大ファンなんっすよ。携帯小説書いてた時代から読んでましたし、メッセージ性も強くてキャラの個性もよくて面白いッス!」




熱く語る理沙は目をキラキラと輝かせていた。私はその先生を詳しく知らないけど……なんかHな人なのかなと印象しかない。




「百合ってつまりレズでしょ?」




「いいや、それは違うッス。元々、百合という言葉は薔薇族って雑誌の編集長さんが造った造語ッス。そもそも百合という感情は古代ギリシャのサフォーから来てるッス。あのプラトンも認めた詩人でして、彼女は女学校を建てたんですがそこで女生徒達と親密な関係に……」




薀蓄うんちくはいいから。それで見つかったの、本は?」




「いえ、全然。どれもこれもエロ本ばかりッス。まあ、アタシはそういうの興味ないッス。どっちかというと、小夜子先生の書く百合小説とかが好きッスね~」




「理沙、前から思ってたんだけどさ、女の子が好きなの?」




「いえ、好きなのはメイだけッス」




「えっ……」




唐突なその言葉に私は固まる。え、好きって、友達として好きって事?

それとも……え、え、えええ? ふたりの間に静寂が訪れる。針を落としたら聞こえそうなほど静けさだ。理沙は顔を真っ赤にしていたが、急に私に抱きついた。




「ちょっ……」




「アタシはメイが大好きッス。メイの事しか頭にないッス。これは友達の好きじゃなくて、一人の女の子としての好きって意味ッス。英語で言うならライクじゃなくて、ラブッス」




「り、理沙……」




いきなりの告白に私の頭は真っ白になる。彼女の鼓動が早鐘のように聞こえてくる。言葉に嘘偽り、まして冗談などは一ミリも含まれていないようだ。彼女の真剣な表情を見ればそれはすぐにわかる。




「ナイトゼナでしばらく一人旅してましたが、なかなか大変でしたッス。お金がないときは野宿でしたけど、山賊に襲われてレイプされかけた時もあったッス。安宿だと素泊まりなんで変なおっさんが覗きに来たときもありましたし。うんざりする事も多かったですが、それでも元の世界に帰る方法を探そうと必死こいたッス。絶対にメイともう一度会うんだと強い気持ちでここまで来たッス」




「理沙……」




理沙の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。それは頬を伝い、地面に流れ落ちていく。私を抱きしめる手が震え、俯く理沙。しばらく間を置いてから、ゆっくりと彼女は言葉を紡ぐ。




「でも、こうしてまた出会えたッス。アタシ、ホント嬉しいんッス。アタシにとってメイは親友であり、大好きな人ッス。勿論、肉欲込みで!」




「……最後のは余計だよ」




感動シーンがぶち壊しなんですけど。でも、理沙らしくていいや。いきなり変な世界に来て、裏切られたり、色々あった。でも、理沙がいてくれれば、この先の困難も乗り越えられそうだ。




「理沙、ありがとね」




「メイ……」




「返事は考えるから。それまでずっと側にいてね」




「はい……いつまでも側にいるッス」




私たちはそのまま、離れるタイミングが掴めないまま、いつまでも抱き合っていた……。





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