少女メイと呪われた聖剣セグンダディオ

六恩治小夜子

第一章「異世界ナイトゼナ」

第1話「なんで、どーして? ここどこ?」


 その日、私は目覚ましが鳴る前に起きてしまった。時刻は午前6時40分。うわ、20分も早く起きちゃったんだ。いつもなら、そのまま二度寝しちゃうけど、今日はしない。そのまま洗面所に行き、顔を洗顔クリームでよく洗い、お湯を浴びせて死にかけた肌を活性化させる。




効果はてきめん、 つやとハリを出す事に成功。死にかけたは言い過ぎ? ううん、とんでもない。




朝は肌が乾燥しているから本当に死んだような感じがするんだよ。でも、この洗顔クリームなら肌を蘇生させることができちゃうのだ。




これは嘘でも大げさでもなく、本当にそうなの。少なくとも私はそう思っているわ。この前、わざわざショッピングモールで高いのを買った甲斐があった。




洗い終えたら、居間で熱々の炊きたてのごはんを盛りつけ、冷蔵庫から昆布を取り出す。スーパーによく売ってるパックの奴ね。




その後はインスタントのたまごスープをお湯に溶かし、箸でかき混ぜる。すると、たまごのふんわりとしたいい匂いが漂ってくる。ついでにラジオをかけ、適当にチューニングさせて朝の情報番組を聞く。




季節の話、ニュース、交通情報など色々な話題が流れてくる。それらに耳を傾けつつ、手と手を合わせる。




「いただきます」




天の恵みに感謝と思いつつも、食事を始める。




パクパク、もぐもぐもぐ……。




熱々ご飯と昆布がとても美味しくて、嬉しくて、めちゃ泣きそうになる。




「う~ん、やっぱ朝はパンよりご飯だよね!」




この組み合わせは最高だよと感激する私。




朝はやっぱりご飯がいちばんだ!

日本人ならやっぱりお米だよね!




 パンってなんかおやつな感じがする。焼けるまでジーと待つのも面倒だし。そういえば、時間が無くて朝ごはんを食べない人も多くいるけど、それはダメ。朝ごはんを食べないと脳卒中のリスクが高まるんだって。朝はしっかり栄養を取らないとね。




そんなことを思いながら、私こと七瀬芽衣 ななせめいは優雅な朝食タイムを過ごしていた。




「おはよ、メイ。ねぼすけのアンタが珍しく早いわね」




と、部屋からのそりとやってきたのはお姉ちゃんだ。ちなみにお姉ちゃんに限らず、友達もみんな私を「メイ」と呼ぶの。でも、執事は出てこない。




「お姉ちゃん、ブラくらいしなよ。いくら家の中だからって、はしたないよ」




「だって着けると寝にくいんだもん。ナイトブラ買ったんだけどさ、寝苦しくて辛かったわ。やっぱノーブラに敵うものはないのよねぇ」




 私のため息を他所に手で肩を揉む私のお姉ちゃんこと七瀬茜 ななせあかね。ダイナマイトボディではあるが、既に見飽きた私にはもはや何の感情も浮かばない。きっと歳取ったらシワシワになっていくんだろうなぁと想像し、2秒でやめた。




お姉ちゃんはまだ何かブツブツ言ってたけど、のそのそと部屋へと戻っていった。お姉ちゃんは家ではこんな感じだけど、外では違うの。




 お姉ちゃんは県内でもトップの高校に通う女子高生(二年生)なんだ。 生徒会副会長も務め、上級生から一目置かれ、下級生からは尊敬され、先生方からも信頼を得ていて、まさにカリスマ的存在。これは何も誇張しているわけではなくて、全て事実。




 以前、高校見学でお姉ちゃんの学校に行ったとき、そこの先生が教えてくれた。他にも、女子から告白されたり、ラブレターを貰ったこともあるんだとか。全部丁寧に断っているらしいけど。で、そんな優秀な姉の元に育った妹はそれはそれは優秀……ではなく、残念ながら私は平凡そのもの。




 お姉ちゃんの高校にも受験したけど、残念ながら落ちてしまい、結局、滑り止めで受けた高校に受かった。でも、私は悪くない。きっと私の賢い部分を全部取ったお姉ちゃんが悪いんだ~! と内心思っているけど、まあいいや。




でも、今日から私も高校生!

部活したり、カラオケしたり、不思議な事件に巻き込まれたり、男の子とラブロマンスに落ちたり、壁ドンされたり、きっと夢のような日々が待っているに違いない!




パンを咥えて曲がり角でぶつかった異性が運命の人! なんてマンガな展開は期待していないけど、きっと何かしらのイベントがあるはず。そんな淡い期待に小さな胸も膨らむってものよ。




それは全裸の記憶喪失の少年かもしれないし、銀髪の女か男かわからないロシアの少年かもしれないし、田舎の学校に通うメガネの無口な少年かもしれない。




ともかく、肉食女子・草食男子なんて言葉が流行る現代では、昔みたく、お見合いだの何だのと簡単に結婚できて子だくさんなんて時代じゃない。




だからこそ、男の子と出会いを掴みとりたい。ただ待つだけじゃダメだ。今の時代は女の方から行動しなくちゃね。勉強も頑張りはするけど、それはついで。




でも、バカだと思われるのはマイナスなのでたまには勉強もするわ。ガリ勉女とか思われちゃうのもダメなので、やり過ぎないように注意しないと。何事も用法・容量を守って正しくお使いくださいである。




ご飯を終え、歯を磨き、ラジオを消し、部屋に戻って、新しい下着と制服に身を包み、期待と不安を教科書と一緒に鞄に詰め込んだ。 財布には新しい友達とすぐ遊べるように樋口先生と野口先生を一枚ずつ準備している。




他にも家の鍵とか、コンビニやカラオケ、ケーキ屋さんのポイントカードなんかもあり、どれもポイントがしっかり溜まっている。放課後の買い食いにも有効ね。




鏡台の前で髪を整え、基礎化粧品で目立たない程度のメイクをする。香水を手首にあて、首に塗りつける。これはお姉ちゃんから誕生日プレゼントで貰ったものだ。私の大のお気に入りである。




支度を済ませ、忘れ物がないか再度確認。ガスの元栓を確認し、きちんと閉まってるかを確認。




あとの戸締りはお姉ちゃん担当だ。お姉ちゃんはもう少し後でも間に合うので、家を出る時間はいつも私より遅めである。私の場合、学校がちょっと遠いから、家を早めに出て電車に乗らないといけない。




時計を確認すると、7時15分だった。

遅くとも30分の電車には乗らないといけない。




「お姉ちゃん、そろそろ行くね。戸締りよろしく」




「あ、ちょい待ち」




「何?」




「これを持っていきなさい」




と、お姉ちゃんは何かをくれた。

それは小さいハサミだ。




「はさみ?」




「お守りよ。アンダーヘアとか飛び毛とかあったら、それで処理するといいわ」




「ん、もらっとくね。いってきまーす」




「いってらー」




能天気な声に送られ、私は家を後にした。






家を出てから駅まで歩いて5分程度。

その途中で商店街を通り抜け、その先に地下鉄の駅がある。朝の商店街はまだ眠っていて、どの店もシャッターが閉まっている。唯一開いているのは不眠不休のコンビニだけだ。




商店街ではオリジナルのテーマソングがかかっていて、その能天気なBGMは駅へと向かい、今日も戦う人々のせめてもの気晴らしになろうとしている。でも、私みたいに足取りが軽い人はいない。どこか重く、そして早歩きの革靴の音があちこちから響き、そこから苛立ちや疲労が伝わってくる。




みんな、疲れているんだろうね。残念ながらテーマソングはあまり役に立っていないみたいだ。




商店街を抜けて信号待ちをし、青になってから、カッコウと鳴る広い交差点を渡る。渡った先には地下鉄へと続く階段とエスカレーターがある。私はエスカレーターに乗り、そのまま地下へとのんびり向かった。まだ電車は来ていない。




「え、なに?」




鞄が急に輝きだした。

眩しくて、思わず目を閉じてしまう。

そして、それに気づいてから1分もしない内だった。










周りの風景がガラリと変わったことに気づく。地下鉄へと向かう駅の風景が何故か自然豊かな森へと変わっていた。




「え、ええええ?」




辺りを見渡して更に驚いた。

都会ではまず見られない木々と森林の海。

高い建物が何もなく、草木花、緑や山が視界の一面にこれでもかというほど、広がっている。




まるで美術の教科書で見た外国の風景のようだ。息を吸うと、むせてしまい、空気の濃度が濃いことがわかる。都会では考えられないこの空気に胃が反応し、脳が警鐘を鳴らしている。




また、建物がないせいか、風が障害物に阻まれずに直接私の身体に当たり、寒い。ちょっぴり寒いどころじゃなくて、かなりの寒さだ。でも、太陽は照っていて、のどかで温かくもある。




これで風がなければ良かったのだが、いずれにせよ、制服では過ごしにくい。何か羽織るものが欲しいレベルだ。




「なんで、どーして? ここどこ!!」




だが、この答えに私はすぐに思いつく。

かつて東京タワーから召喚された伝説の騎士の如く、この唐突な展開。

昨今、ライトノベルの世界に数多くあるけど、多すぎてマンネリ化し、オリジナリティと独創性のあった90年代とは違う、今時のオンラインゲームのようなよくある世界。




つまり、ここって。




「異世界……なのかな?」




私は呆然として呟いたけど、それに答えてくれる人は誰もいなかった。さっきまでしていた革靴の音も、車や横断歩道のカッコウも何もない。




ただ、草木が風にたなびく音が聞こえてくるだけだった。




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