関西弁を憎む子
穴田丘呼
第1話はじまりは
ぼくはある雑誌社に送るべき原稿を前にして、アクビをしたりタバコを吸ったりしている。偶然にもぼくは小説の依頼を受けた。ぼくはこれまでに一度も小説など書いたことがないので、どうやってよいものやら、何を書けば良いのか、ということが問題だが、白い原稿用紙を見ているだけで息が詰まりそうだ。ぼくの体は机の周りをうろちょろするだけで、どうしても一ヶ所にとどまることができずにいる。ぼくの指はタバコをくわえる。そして肺はその煙を吸い込んでぐるぐるまわしているだけだ。ぼくの耳は屋外の騒音に引っ掛かり、雀の声、車の走る音、道路工事の掘削機の音に掛かりっきりだ。体は椅子の上に乗っかっているというのに、五体はてんでバラバラの所に住んでいるようだ。これでは小説どころの騒ぎではない。朝起きてから、顔も洗わず、歯も磨かずだし、食事も摂っていない。タバコをだけ立て続けに吸って、コーヒーを一杯飲んだだけだ。
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