第5問 リスニング


『……私と雄二は、卒業してすぐに結婚する。ホントは雄二の誕生日に入籍届けを出したいけど、雄二が恥ずかしがるから、入籍は三月十三日、卒業式の翌日。雄二が私の手を引いて、一緒に出しに行く。

 私と雄二は同じ国立大学に入学して、一緒に暮らし始める。雄二は政経学部。私は法学部。雄二は毎日私に勉強とかそれ以外とかを教えてくれる。雄二はいつも忙しそうにしているけど、女の子のいる飲み会には参加しないし、夜の五時からは絶対に私と一緒に過ごす。雄二は浮気をしない。

 その後、二人とも優秀な成績で大学を卒業。雄二はベンチャー企業を起こし、私は秘書として、仕事と家庭両面のパートナーとなる。雄二は私の誕生日も、最初に出会った記念日も、私が好きになった記念日も、告白記念日も、入籍記念日も、結婚記念日も、クリスマスも、クリスマスイブも、クリスマスイブイブも、クリスマスイブイブイブも忘れない。記念日には必ずプレゼントとか、いろいろくれる。

 だから第一子を妊娠。きっと男の子。名前はしょうゆ。会社は大変な時期だけど、雄二は私をずっと支えてくれて、無事出産。経営も軌道に乗って、規模が拡大していく。しょうゆ三歳の頃、初めての家族旅行で海外に行く。その途中で雄二がビジネスの予定を入れちゃって、初めての夫婦喧嘩もしてしまう。

 だから第二子妊娠。今度は女の子。名前はこしょう。妹が出来てしょうゆも嬉しそう。会社も大きく発展する。

 でも――でも、雄二と私が三十歳の時、雄二の乗った飛行機が墜落。雄二が……雄二が死んでしまう。残されたしょうゆとこしょうを抱きかかえて、悲しみに暮れる私。でも二人が励ましてくれるから、私は一人で頑張ろうと決意する。

 雄二の会社の社長になって、私は夫の遺した夢――日本一、世界一の企業を目指す。道のりは大変だったけど、医療産業を主軸に大きな成功を収める。その中のひとつ、再生医療とクローン技術を飛躍的に向上させるため、私は自分を被験者に選ぶ。

 私が三十三歳の時、ついに実験が成功。私は雄二を妊娠。平行して進めていた黒魔術の研究も用いて魂を転生させる。私の体の中で、雄二は元気一杯。すくすくと育っていくしょうゆとこしょうも喜んでくれる。

 翌年雄二を出産。雄二の第一声は「まったく、無茶するなよ、翔子。愛してる――」。私も愛してる。けれど、このときすでに私の身体は度重なる実験のせいでボロボロ。余命いくばくもない。雄二はそんな私の手を握って、こう誓ってくれる。「安心しろ、翔子。今度は俺が、お前を産んでやる」――。

 次に目が覚めたとき、私は雄二の身体の中にいる。魂の転生も基礎技術として確立したらしいことを知る。雄二が私を産んでくれて、立派に成長したしょうゆとこしょうと雄二が私を迎えてくれた。

 でも、肉体も魂も磨耗が激しいから、私も雄二も長生きできない。長くても三十年。そのときがくれば、また二人は離れ離れになってしまう。もう一度転生することは、しょうゆとこしょうを思うと決断できなかった。禁断の再生に手を出せば、雄二と私の子供たちを見送ることになってしまうから……そんなことできない。

 そんな雄二と私の苦悩を見抜いて、今や社長として会社を切り盛りするしょうゆが優しく諭してくれた。「お母さんとお父さんは、いつも一緒なんでしょう」と。こしょうも「パパとママは一緒にいなくちゃだめだよ」って励ましてくれた。二人とも、雄二と私たちの子供でよかったと言ってくれた。

 ――16歳になって、私は再び雄二を妊娠。二度目の転生を前にして、雄二と私は誓いを立てた。未来永劫一緒にいようと。いつか細胞と、魂と、時空が癒着するまで、片時も離れず、百年、千年、万年の時を生きようと。

 私は雄二を出産する。16年経って、今度は雄二が私を産む。次は私が雄二を産む。そうやって少しずつ、少しずつ、私たちはひとつになることを目指す。私が雄二を産む。雄二が私を産む。私が雄二を産む。雄二が私を産む。私が雄二を産む。雄二が私を産む。私が雄二を産む。雄二が私を産む。私が雄二を産む。雄二が私を産む。私が雄二を産む。雄二が私を産む。私が雄二を産む。

 雄二が――。
























 ――雄二。

 ……ちゃんと聞いてる?』



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