第14話 仮面

 祖母に別れを告げた病院を出ると、夕日が眩しく差し込む中、駅へ続く道を沢山の人達が足早に歩いていた。

 僕は、なんだか違和感を感じ、しばらく彼らが作る長い列を眺めていた。

 すると、行き交う人達が、ひとり、またひとりと祖母と同じ様に輝き始めた。いや、祖母のような金色の光ではなく、それぞれ、青や赤、様々な色に輝いて見えた。

 その光の列は、次第に人の列を飲み込んで行き、駅まで続くこの沿道に横たわる、大きな虹色の蛇のように見えた。街中の沢山の人達がそれぞれに輝いていた。


「そう言うことか……分かったよユーマ」


 いつの間にか、目の前にはユーマがいた。ただ、優しい目をしてこちらを見ている。


「みんな、それぞれ、何かしらの魔法に掛かっていたんだね。きっと、ありのままの自分でいるのが怖くて辛くて……少しずつ、魔法と言う名前の仮面をかぶって生きているんだ。そして、きっと僕の魔法は解けた……」


――魔法の効力と法則

二.魔法の効力をなくす方法は一つだけ。出会った相手の理想の人物像を超えた時。そして、二度と魔法にかかる事はない。


 僕の魔法は解けた。もう、僕には魔法は効かない。この世の全ての人にかけられた、仮面をかぶって、本当の姿を隠す魔法は効かなくなった。



 近くにあった公園のベンチに座り、僕とユーマは沈んでいく夕日を見ながら話を続けた。ビルの隙間から差し込む光が、丁度、このベンチの周りだけを染めている。


「おばあちゃんは、僕がお祖父ちゃんよりいい男になったと言ってくれた……きっと、おばあちゃんの理想の人はお祖父ちゃんだったんだね」


「ごめん……杜夫、実はあの時――二人で病室に向かった時、本当はおばあちゃんは亡くなってしまったんだ。でも僕は杜夫の悲しい顔を見たくなかった。あの瞬間、杜夫のかあさんが、目を開けてって呟いた時、思わずおばあちゃんに魔法を掛けた。だから、おばあちゃんは、かあさんの理想通りに目を開けて、杜夫の理想通りに優しくて元気なおばあちゃんに変身したんだ」


「うん……」


 ユーマの一年分の寿命をもらって、祖母は少しだけ長生きした。そして、その短い時間で、母と僕は沢山の大切なものをもらった。


「でも、ユーマ、君は変わらないね。ユーマは魔法使いだから、魔法は効かないんだよな。よく、そんなに強くいられたね。辛くなかったかい? ユーマ……」


「――辛かった……俺だって強かないよ……実はね、僕にも好きな人が――大切な人がいてね、その人の前では仮面を被っているのさ、伝えていないことが沢山ある。もし、魔法に掛かってしまえば、僕はその人の理想の姿になれるかもしれない……でも、嫌だったんだ。実は、東京にいた魔法使いの前に行くまでは、理想の人に変身できる魔法を掛けてもらうつもりだったんだ。でも、どちらかを選択しろと言われた時、やっぱり嫌だって思った。僕はいつか、ありのままの姿をその人に見て欲しい。仮面を外した、ありのままの姿を……杜夫に……もね……」


 僕は、どうしたら良いのか分からずに、なぜだか分からないけれど、ユーマの輝く金髪を撫でた。


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