落第魔法使いのパラダイムシフト

@zig

第1話 落ちこぼれとして生まれた子供

レピオス・ケイローンは落ちこぼれだったという。

終わりにして始まりの魔導師、と呼ばれる彼がである。


現代魔導の父レピオスは、古典的魔導師としては落ちこぼれだった。

しかし、その落ちこぼれは、世界を変えた。






レピオス・ケイローンは小国アルスラのケイローン伯爵家の長男として生を受けた。

しかし、彼がケイローン家の後継者たり得ないことは、明らかだった。

なぜなら、アルスラの貴族とはすなわち魔導士の事であり、伯爵家ともなれば相応の実力が求められる。


魔導士としての適性の内最も重要なのは、この世界のマナに愛されているか否かである。

いくら貴族の血に宿る内在魔力オドが強い傾向にあるとはいえ、世界に満ちる偏在魔力マナが扱えないようでは、一人前の魔導士になることは出来ないからだ。

レピオスには、生まれながらに才能が無かった。

それこそ、一目見てわかる程に、マナに愛されていなかった。

親の素質を全く受け継がない子供、あるいは逆に親からは考えられない素質を持った子供は、時折生まれてくる。

彼らは取り換え子チェンジリングと呼ばれていた。



アルスラでは、学問と言えば、魔導の学問である。

古語、エルフ語、精霊言語といった、魔導のための語学。

古文書から研究して探るのは魔導の歴史。

そして、実践での魔導の実力こそが最大のステイタスであり、教養である。


レピオスは、絶望的に実践の才能が欠けていた。

それならば、とレピオスの父レオル・カイロン伯爵は、語学や歴史と言った知識面での教養を身に着けさせようと、家庭教師を雇って幼いころから養育に努めた。


大貴族の子息に家庭教師が付くことは、ごく当たり前の事だが、一般的には領地の家臣から適当な人選をする。

しかし、レオルは、ソレでは足りぬとばかりに、わざわざ学院から若い講師を引っ張ってきた。

若手の講師は、学院からの給与だけでは大抵暮らしてゆけない。

実家が豊かな者はずっと講師をしていればいいが、そうでない場合は富裕な貴族とのコネは重要だ。

一時的に講師を辞して家庭教師となるのも友好な手段の一つで、その間に後援を得て自分の研究に勤しむ事が出来る。


レピオスは、古語、エルフ語、精霊言語といった大言語は勿論、古ヘラス語、ダークエルフ語、精霊方言といったマニアックな領域まで、バンバン教えられた。

魔導言語を子供に教える場合、あまり沢山の言語を教えずに、教える言語を絞る代わりに適度に実践を交えて教育するのが良いと言われていたが、レピオスの場合はそもそも実践にほとんど期待が持てないのだから、代わりにどんどん言葉を詰め込んだのである。


言葉を覚えれば、次にどうするか。

本を読む。


幸い、大貴族ともなれば、書庫の書物の充実はなかなかのモノである。いかに古くて貴重な古文書を所蔵しているか、というのは貴族たちの自慢の種だったし、逆に良く知られた本は所有していないと話題についていけない。


自分の研究時間を確保したい家庭教師にとって、本を読ませて放置するのは、実に都合がいい方法である。

もちろん、読ませて分からない事があれば、かみ砕いて説明する位の事はする。

雇われた分くらいは働かなければ、信用を失う羽目になり、それでは本末転倒だ。


幼いころから学ばせた甲斐あって、レピオスは砂地が水を吸い込むように、知識を飲み込んでいった。

朝も夜も、書庫の本を読み尽すような勢いで読み続けるのだ。

家庭教師に至っては、友好活用するために自分の研究のための調べ物を任せる位であった。


本の蟲ブックワーム、それがレピオスの渾名になっていた。

レピオスは、後に、『本に絡みつくワーム』を自分の紋章にする。


そう、ワームである。

世界を震撼させた、あの・・ワームの由来がここに見られる。

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