一の段其の幕間 妖怪と使い魔
魔獣。物の怪。怪異に化生。 妖怪。悪魔に祟り神。
そんなものなどありゃしない。それがこの世の常識だ。
科学の発展や技術の進歩と共に、かつては信じられていたそれらの化け物達は、唯物論と機械文明の下に当然のごとく否定されていった。
今では子供まで、そんなものを信じる人間を馬鹿よばわりする始末だ。
だが、それらの存在はかつて確かに人々の身近にいたのだ。
仙化の秘跡。
そう呼ばれる数万年前の古代文明の産物が、それらの生物を生み出す源となっていた。
それは見た目はただの古木であったり小さな池であったりと、自然物と判別のつかない姿でそこにあった。
ただ一つ違うのはそこが生物を変貌させる生体ナノマシンの育成地であったということだ。
現代の機械文明とは異なる生化学文明の根幹となるそれらの場所は、現代では開発により全てが失われてしまった。
しかし、その文明が緩やかに滅びて尚、数万年の長きに渡り、秘跡は残されていたのだ。
そこで生体ナノマシンが集まることでできた仙丹は、生物の体内に入ることでその生物と共生し肉体を改造する。
仙人は呼吸法による韻律でその制御を行うことで新たに仙人を作るが、それをせずに共生化が進めば妖怪とよばれるような奇怪な生物が生まれる。
生後まもない状態で共生化が進めばその多くはもとの姿を止めぬ変貌をし、強大な力を持つ存在に進化していき。
成長した個体が共生化すれば姿を
ただ人の場合、仙人の制御なしに強制化が進めば、成体であっても人の形を止めなくなるため、そのほとんどが狂気を得て人を害する鬼へと成り果てるのが常だった。
秘跡が多く残っていた時代。
そういった存在は数多く存在し、あるものは神と呼ばれ、あるものは妖怪や鬼として恐れられることになる。
そうして人間に知られた秘跡は、神域や忌み地として隔離され、経験からそこで血を流すようなことをするなと口伝に伝えられ、近代まで多く残されていた。
おそらく、そこで負った怪我でナノマシンの共生化が起きたのを見た人か仙人が伝えたのだろう。
だから秘跡のそばに妖怪がいることは不思議でもなんでもないことだ。
だがそう判っていても、久遠は何故こいつがここにいるのだと問わずにはいられなかった。
ようやく使い魔の大鷲が辿り着いた秘跡の地には仙丹がいくつか生成されていたのだが、それを手に入れようとしたところ、使い魔の大鷲を妖怪が襲ったのだ。
危うく逃れはしたものの秘跡である古木はその蛇の姿をした妖怪の棲家らしくいつまでたってもその場を離れようとしない。
そして仙丹は蛇の
いくら使い魔化しているとはいっても大鷲は普通の動物だ。
ただの大鷲が鉄に近い強度の鱗をもち猛毒を噴出させて獲物を打ち落とす大蛇に敵うわけがないため、久遠は手を打ちあぐねていた。
このまま蛇が古木から離れるのを待つか、何かの獲物を捕らえてそれを囮にして仙丹の奪取を試みるか、あるいは火攻めなどの間接的な手段で大蛇を追い払うか。
考え付く手はいくつもあるのだが、どれも簡単とはいえないものだった。
待ちの一手はいつまでかかるか見当もつかない。
獲物を捕らえるといっても使い魔を操っての狩りなどしたことがない。
火を手に入れるのも大鷲を使って火攻めをするのもかなりの危険が伴う。
とりあえず獲物を探してみるか。
そう考えて久遠は大鷲を飛び立たせることにした。
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