歌鬼
天川なゆ
第1話 閉ざされた世界
暗闇が割れて、朝日が昇ってくる。
午前五時。太陽が見え始めると、
それから一時間もすると、リビングのほうから誰かが起きだしてきた音がする。この部屋とは逆にカーテンを開ける音や、ニュースを映し出すテレビの音、朝食を準備する物音。
だが、それらはすべて朱里には関係のないこと。朱里は今から、眠るのだから。
けれど、ドアを一枚隔てた向こうで流れていく普通の生活は、簡単に切り離せるものではない。嫌でも飛び込んでくる音や、光、それを感じるたびに朱里の心が痛む。
(私は普通ではない―――)
それを強く感じながら布団の中で体を丸め、ただ早く時間が過ぎることを祈るしかない。
長い時が経つのに、いまだ心から消えない恐怖がある。両親を亡くし、親戚の家で暮らし始めてもう二年。
朱里から家族を奪った火事は、家族以外にもたくさんのものを奪った。顔に火傷の痕を残して美しかった容姿を汚し、その傷跡のせいで起こった差別は、友達との関係も断ち切った。そして傷を見られることを恐れるあまり日の下に出ることさえできなくなってしまった。
住む場所を失くした朱里を引き取った親戚は、恐怖は時間が解決すると繰り返し口にした。けれど、朱里が閉じこもって一年が過ぎると、すっかり社会復帰をあきらめた。そして二年が経つ今ではただの厄介者扱い。
朱里に残された平穏は、弱い自分や現実から逃げるように眠ることだけだった。
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