宇宙刑事は女子校教師!2-5
「何? いったい何が起きたの?」
内臓まで響く轟音に直面し、着替えを終えたばかりのシーラたち五人の少女は、慌てふためき校舎の外へと飛び出した。
音の発生方向は、およそ校庭を挟んだ向こう側あたり。
校庭の敷地内では、二学期の初日から活動を開始した運動部の面々が、いまだ青春時代の真っ最中にいるはずだ。
彼女たちのものと思われる無数の悲鳴が響き渡る。
全速力でそちらの方向へと足を運んだシーラたちは、そこでとんでもない光景を目の当たりとした。
学園を囲む分厚い煉瓦の外壁が、幅数メートルにわたり倒壊していた。
おそらくは、先ほどの爆発によってのものだろう。
ちりちりと鼻を突く硝煙の臭いが、風に乗ってあたりを漂う。
続けざま、そこを突破口として校庭内への進入を果たそうとしている怪しげな一団が目に入った。
全身を黒タイツで覆った、十数名の怪人物たちだ。
その各々が、銃器のようなものを腰だめの形に携えている。
それらが武装した戦闘員であることに疑う余地などどこにもなかった。
「あれって──」
その連中を見た春香が、驚きの余り目を見開いた。
「先月テレビでやってた、国籍不明のテロリストなんじゃないの!」
「あれは」
その正体を瞬時に察した金髪娘が、唸るような声を上げる。
「ブンドール帝国の戦闘員!」
「えッ?」
そんなシーラが弾かれたように駆け出したのは、その直後のことだった。
周囲の制止を振り切って校庭の真ん中へと向かった彼女は、「みんな! 急いで逃げてッ! 逃げるのよッ!」と、呆然と立ち尽くしたままの学友たちに向け、のども枯れよとばかりに避難を促す。
だがこの時、混乱の極みにあった彼女たちの耳にシーラの声が届くことはなかった。
「ほう。どうやらここは、原住民の雌どもが集う戦略拠点であったようだな」
戦闘員たちの後ろに控えていたひとりの威丈夫が、手に持った鞭でぴしっと地面を打ち据えにやりと笑った。
おそらくは、黒タイツの一団を率いる指揮官なのであろう。
高級軍人のごとき身形をした彼はその長身をふんぞり返らせつつ、部下たちに向かって命令を放つ。
「ザッコスども! 作戦を変更する! このあたりにいる原住民の雌どもを、ひとり残らず捕獲するのだ! 速やかに本部へと連れ帰り、新たな実験の材料とする!」
「イーッッ!」
敷地内へ侵入してきた全身タイツの怪人たちが、奇声を発しながら少女たちめがけて突進した。
声を失い固まっていた女学生たちがようやくのことで迫る危険に気付いたのは、まさしくその瞬間のことだった。
運動服を着た少女の群れが、まるで蜘蛛の子を散らすようにして逃走を始めた。
死にものぐるいという奴だろうか。
そのスピードは、わずかだが怪人たちのそれを上回っていた。
このまま行けば、ほとんどの娘たちは追っ手を振り切ることができただろう。
しかし、全員が全員、そうというわけではなかった。
最後尾を走っていたひとりの少女が、瞬く間に足をもつれさせ転倒した。
部活の絡みでこの場にいた生徒ではなかったのだろう。
セーラー服を着たままの、おさげで眼鏡の女生徒だった。
シーラはその娘を知っていた。
同じクラスの女生徒で、自分とは机を並べる関係だ。
「七海ッ!」
我が身の危険を顧みず、シーラは彼女に駆け寄った。
「大丈夫?」と声を掛けながら、助け起こそうと手を伸ばす。
「シーラちゃんッ!」
涙を浮かべて七海が叫ぶ。
「駄目ッ! 足挫いちゃったッ! シーラちゃんだけでも逃げてッ!」
「いまさらそんな綺麗事言うんなら、もっと早くに言ってよねッ! こっちはもう、とっくのむかしに
シーラは、級友に肩を貸すべく膝を屈した。
頷いた七海が、勧めに従い身体を起こす。
だが、ブンドール帝国の下級戦闘員・ザッコスどもの強襲は、ふたりがその場で立ち上がるタイミングよりも完全に一歩早かった。
「シーラァッッ!!」
春香たちが絶叫した。
級友の盾になろうとしてか、小柄な七海を背中に隠し、シーラは、きっ、とザッコスどもを睨み付ける。
伸びてきたザッコスどもの手が、両者を捕捉できる距離に突入した。
その指先がミリ単位の間合いに迫る。
その時だった!
一陣の疾風が両者の間に吹き込み、シーラと七海とを力強くその両脇に抱え込んだ。
疾風は、そのまま数十メートルを軽々とジャンプ!
空中で軽やかに身を捻り、滑るようにして着陸を果たすと、ふたりの身体をやんわりその場で地上に下ろした。
何が起きたものかわからず目を瞬かせる二名の少女。
次の瞬間、そんな彼女らの瞳に、なんとも頼りがいのある笑顔がひとつ映り込んだ。
それは紛れもなく、新任教師・轟雷牙、そのひとのものであった!
「雷牙ッ!」
「轟先生ッ!」
「怪我はありませんか、ふたりとも!」
力強く彼は言った。
「もう大丈夫です。さあ、早く安全なところへ!」
「ほう。貴様が噂の宇宙刑事か」
ザッコスどもを指揮する威丈夫が、雷牙に向かって声を掛けた。
その姿を認めた雷牙が、叩き付けるように口走る。
「おまえは! ブンドールの大幹部、『残酷将軍』カーネル=ザンコック!」
「お見知りおき痛み入るよ、宇宙刑事」
「なぜ、この
決然とした口振りで彼は尋ねた。
「なぜ、この
「知りたければ教えてやろう」
カーネル=ザンコックと呼ばれた威丈夫が、もったいぶってそれに答える。
「その原住民の雌どもを、新たなる機界獣の母体とするためだ。より良い機界獣を生み出すためには、若く健康な雌の肉体が多量に必要となるのでな」
「なんだとッ!」
雷牙が吼えた。
「そんなことのために……そんなことのために、おまえたちは彼女たちの輝かしい未来をどす黒く塗りつぶそうと目論んだのかッ!」
「そうだ」
カーネル=ザンコックは断言した。
「強き種が弱き種を食らう。それがこの大宇宙に備わる普遍の法則だ。何が悪い。そのような運命を覆したくば、おのれが強くなれば済むだけの話だ」
「ふざけるなッ!」
すっくと立ち上がった雷牙が、ぎん、と威丈夫を凝視する。
「この僕がいる限り、そんな戯言を認めはしないッ!」
「面白い。ならば、その意思を見事まっとうしてみるがいい」
「言われるまでもないッ!」
裂帛の気合いで言い放つ臨時講師に向け、集結したザッコスどもが三日月型の陣形を取る。
複数方向から半包囲体勢で攻めかかり、一気に仕留めてしまおうという戦術だ。
「轟先生ッ!」
シーラに引きずられるような形でその場から離れていく七海が、べそをかきつつその名を呼んだ。
彼女もまた、夏休み中に起きた武装テロリストの襲撃事件を、メディアを通じて見知っている人間のひとりだった。
ゆえにこそ、自衛隊ですらが手に負えなかった武装集団を前に、一介の高校教師が何かをできるなどとは欠片も思えなかったのだ。
おそらくは確実に訪れる青年の死。
回避不能なその運命を、彼女は直視することなどできなかった。
されど、シーラはそんな七海に同調したりはしなかった。
「大丈夫!」
半狂乱になりかけている級友に向かって、彼女はきっぱりと言い切った。
「雷牙なら全然大丈夫だから!」
ザッコスどもの手にあった銃器が棒状の形に変化した。
その胴部には、かすかな放電光がまとわりついている。
白兵戦用の電撃ロッドだ。
武器を手に、青年との間合いをじりじりと詰める黒ずくめの怪人たち。
「かかれッ!」という指揮官からの命令一下、彼らが一斉に地を蹴ったのは次の刹那の出来事だった。
「先生ッ!」
それを見ていた女生徒たちの口から、悲鳴に近い声が飛び出してきた。
おそらくは、七海のそれと大してかわらぬ見識を持った少女たちだったのだろう。
だが当の雷牙は、それを恐れる素振りなどまったく見せなかった。
曲げた左腕を前に突き出し、実に雄々しく咆吼する。
彼は叫んだ。
「龍神変ッッッ!」
次の瞬間、雷牙の額中央、その一点が目映いばかりの光を放った。
青白い輝きが周囲を包み、それはたちまちのうちに球体の形に集約する。
直後、その光球は襲いかかるザッコスの群れを瞬く間に蹴散らし、上空高くに跳ね上がった。
跳躍した先は、校舎中央に屹立する時計塔の天辺だ。
輝ける光の球はそこで消失。
おのが胎内に抱え込んだひとりの男を、その場において解放した。
そしてその瞬間、女生徒たちは見ることになる。
突如として時計塔上に降臨した、黄金騎士の凜々しき姿を!
「おおッ! その姿はッ!」
驚きの余り目を見張るカーネル=ザンコック。
その様相を悠然と高見から見下ろし、黄金色の戦士は、全身で見得を切りつつ大音量で名乗りを上げた。
「宇宙刑事ッッ! ライガァッッ!」
◆◆◆
解説しよう。
轟雷牙がバトルスタイルに龍神変するタイムは、わずか百分の五秒に過ぎない。
では、その変身プロセスをスローモーションで再現する。
◆◆◆
「龍神変ッッッ!」
曲げた左腕を突き出しつつ青年がそう叫ぶと同時に、彼の額に埋め込まれた宇宙刑事の力の源・ドラゴクリスタルが共鳴を開始。
銀河中央で宇宙刑事警察機構を統括するミラクルコンピュータ・ギャラクシーと、時間差なしでのリンクを果たす。
地球最高の電子頭脳が一兆年かかる計算をコンマ一秒以下で完了するそれは、完璧なリアルタイムでもって状況を把握。
彼我の戦力を瞬時に判断・分析し、封印された雷牙の力、その解放要求をためらうことなく受け入れた。
『承認。ぶーすとあーまー、戦闘もーど起動シマス』
一瞬も間を置くことなく、ギャラクシーからの認可を得たドラゴクリスタルが異次元スペクトルによるフィールドを形成した。
フィールド内部を亜空間と直結させることで、平衡時空に待機している装甲強化服・ブーストアーマーを使用者のもとへ召喚するためだ。
強力な力場の発生が青年の着衣を分子レベルで粉砕!
空間を強引に引き裂きつつ出現した無数のプロテクターが、全裸となった雷牙の肉体を覆い始める!
青年の額に輝く青白い光が赤い宝石状の物体となって凝固!
その直後、閉じられていたまぶたが音も立てよとばかりに見開かれる!
そして次の刹那、その精悍な眼差しで眼下にたむろう悪の心魂を射貫きつつ、轟雷牙は裂帛の気合いとともに雄々しく名乗った!
それこそが、銀河系の平和を守護する宇宙刑事の、何物にも代えること適わぬ決意と矜恃との証であったからだッッ!
◆◆◆
「嘘……何……変身って……」
その光景を目の当たりとした少女たちが思わず言葉を失うのを尻目に、轟雷牙は獅子のごとくに吼え猛った。
震える拳を握り締め、前口上を叩き付ける。
「カーネル=ザンコック! 街を焼きッ、
「ふっふっふ……その黄金のブーストアーマー、アンコックめが言っておったことは、紛れもない事実だったようだな。面白い!」
騎士の勇姿を地上から見上げつつ、カーネル=ザンコックは言い放った。
「者どもッ! 彼奴を存分に可愛がってやるがいいッ!」
「イーッッ!!」
銃口を向けるザッコスどもの指が、一斉に引き金を引き絞った。
乾いた音とともに飛び出した橙色の光の帯が、吹き付ける豪雨のように雷牙へ向かう。
だがそのすべては、ただ何もいない虚空を貫いただけに終始した。
瞬時に時計塔から跳躍した宇宙刑事が、銃の焦点を完全に逸らしてしまったからだ!
「とォォォォォォッ!!!」
気合い一閃、猛禽のごとく地表へと舞い降りた黄金戦士が、ザッコスどもの只中へ突入した!
迎え撃つは、黒一色の怪人たち。
圧倒的な数を頼りに四方より襲いかかる彼らを、しかしこの若き宇宙刑事は物の数ともしなかった。
その拳足が鋭利な打突を繰り返すたび、ザッコスどもは次々と打ち倒され、跳ね飛ばされ、見る見るうちにその活動数を減らしていく。
無双。
そう、無双とは、まさしくこのこと以外の何物でもなかった!
凄い。
凄いよ。
本当に凄い。
この状況を、まんじりともせず眺めていた少女たちの口から、次第次第に感嘆の声が漏れ始めた。
危険から少しでも離れよう。降りかかるリスクから少しでも距離を置こう。
そういった至極あたりまえの危機意識は、この時、彼女たちの頭から雲散霧消してしまっていた。
それは「勇者」
あるいは「英雄」
あるいは「ヒーロー」
およそ創作の中でしか出会うことの叶わぬ存在が、いままさに、その活躍を存分に見せつけてくれているのである。
強き者、逞しき者、頼れる者に憧れる人間としての本能が一時的に少女らの目を眩ましたのだとしても、責められるべき謂われはどこにもなかった。
「第一、第二小隊は、すでに戦力の八割を喪失。残りの半分も、戦闘を継続できる状態ではありません!」
「そんなことは見ればわかる!」
傍らに跪き戦況を報告する部下に対し、カーネル=ザンコックはおのれの苛立ちを隠そうともしなかった。
手に持った鞭で、ぴしりと一度地面を打つ。
「
強い口調で彼は言った。
「第一分隊はそのまま奴に向かえ! だが第二分隊は、あそこにいる原住民の雌どもを捕獲するのだ! 彼奴に対する人質として使えるやも知れぬ!」
カーネル=ザンコックの指さした先にいたのは、此路春香以下、四人を数える少女たちだった。
指揮官の周囲を固めていたザッコスどもの半分が雷牙のもとへ向かうのと前後して、残りの半分が鶴翼の隊形で彼女らに迫る。
「なんでこっち来るのよッ!」と、ひと声叫んで逃げ出した春香たちの足元を、見え見えの威嚇射撃が音を立てて通過した。
ミシン目のように地表が爆ぜる。
それを見て、思わず足をすくめてしまう少女たち。
ザッコスどもはその間隙を突いた。
「春香ッ!」
「春香ちゃんッ!」
シーラたちの悲鳴を耳にし、戦闘中の雷牙は春香たちの危機を悟った。
「此路さんッ!」
新手のザッコスどもを短時間のうちに叩き伏せた宇宙刑事が、掛け声とともにジャンプした。
背中のアタッチメントから長剣を抜き放ち、優に百メートルはある距離を、ひと呼吸の間で跳躍する。
「雷光剣ッ!!!」
少女たちの眼前に着地した黄金騎士が、間を置くことなく鋭い刃を一閃した。
わずかひと振り。
煌めく剣が弧を描き、群がり寄る黒衣の怪人を放射線状になぎ倒す。
「大丈夫ですか?」
身を屈した雷牙が春香たちの安否を気遣った。
だが、彼女らの口から帰ってきた言葉は、それに対する謝意ではなかった。
「先生ッ! 後ろッ!」
叫びを耳に振り向いた雷牙の視界に入ってきたもの。それは、身の丈三メートルはある異形の者の存在だった。
「機界獣ッ!」
怒濤の勢いで突進してきた
地を蹴った巨体が、左脚を先頭にして
「おおーッ!」
雷光剣を左手に持ち替えた宇宙刑事が、その攻撃を右の拳で迎え撃った。
空中でふたつの打撃が激突する!
がきん、という衝撃音が轟き、真っ赤な火花が両者の間で炸裂した!
打ち勝ったのは雷牙だ。
いや、ここはあえて引き分けとすべきか。
まったく無傷のまま地上に降り立った機界獣が、その禍々しい肉体を直立させる。
それはクワガタか、さもなくばアリジゴクのそれに似た二本の角を頭部に備える、見るからに屈強な体躯を持った人間型の怪物だった!
「ふっふっふ、切り札は最後まで取っておくものだ」
カーネル=ザンコックが、ほくそ笑みながらそう告げた。
「我が頼もしき機界獣ヘルアリーに貴様の実力がどこまで拮抗しうるものか。しかとこの眼で確かめさせてもらうぞ!」
「望むところだッ!」
叫ぶや否や、雷牙は目にも留まらぬ斬撃を魔獣めがけて打ち込んだ。
勢いに押された機界獣が、校庭の真ん中あたりにまで後退する。
しかし、明確な有効打はひとつもない。
岩のように固く大きな両の拳が、巧みにその太刀筋をいなしているのだ。
刹那ののち、ヘルアリーの反撃が宇宙刑事を襲った。
左からの鉄拳。
人間の胴体ほどもあるそれが、力任せにねじ込まれる。
咄嗟に両腕をクロスし、雷牙はその一撃を防御した。
だが、押し寄せる衝撃を殺しきるまでには至らなかった。
軽々と吹き飛ばされた彼の身体が、校舎の壁面に背中から突入する。
煉瓦造りの外壁が音を立てて崩れ落ち、濛々たる砂埃が立ち上った。
戦いを見守っていた生徒たちの間から、突発的な悲鳴が上がった。
「雷牙ッ!」
「轟先生ッ!」
宇宙刑事がおのれの健在を誇示したのは、それから数秒を経てからのことだ。
少女たちの表情に、あからさまな安堵の色が広がる。
瓦礫を払い除けて立ち上がった彼は、不敵な笑みを口元に浮かべた。
左手で剣の刃をなでながら、強い口調で宣言する。
「プラズマブレードッッッ!!!」
雷光剣の刀身が、目映いばかりに輝き出した。
そんな長剣をぶんと外側へとひとしごきし、雷牙は弾かれたように大地を蹴る。
その足先がまっしぐらに向かったのは、ヘルアリーの真正面だ。
躊躇する兆しなど、そこには微塵も見受けられない。
「愚かな」
カーネル=ザンコックが、彼の行為を嘲笑った。
「ヘルアリーのパンチは音速の三倍! いかに宇宙刑事とて、躱しきれる代物ではないッ!」
カウンターのブローが、雷牙の出鼻に襲いかかった。
およそ肉眼では捉えきれない、弾よりも速く重い一発。
だが、そんなパンチがものの見事に空を切った。
残像だけを残し、騎士の姿がその直前でかき消える。
絶妙のタイミングで身を沈ませた宇宙刑事が、ヘルアリーの一撃を最小の動きだけででかいくぐったのである!
「なんだとォッ!」
次の瞬間、雷光剣が一閃し、巨木のような機界獣の腕が左右そろって宙に舞った。
雄叫びとともに、鋭利な切っ先が魔獣の土手っ腹深く突き立てられる。
黄金の鎧を煌めかせつつ若き戦士が宣ったのは、まさにその直後のことだ。
彼は叫んだ!
「ただ破壊と殺戮しか知らないおまえたち機界獣がッ、若者の輝きを知るこの僕に勝てるわけがないッッ!」
甲高い悲鳴とともに後退るヘルアリーに合わせ剣を引いた雷牙が、その刀身を改めて構え直した。
額のクリスタルが紅く輝き、雷光剣の発する光がぐんぐんとその明度を増す。
「ライトニングッ! エクスプロージョンッッッッッッ!!!」
叫ぶや否や、宇宙刑事は頭上に構えた光の剣を勢いよく振り下ろした。
その切っ先が、空中に縦一文字の軌跡を描く。
機界獣ヘルアリーの頭頂から股下にかけて、ひと筋の煌めきが雷光のごとく発生した。
それはたちまちのうちに面積を広げ、遂に対象の存在を分断するにまで至る。
機界獣の肉体が左右に分かれて地に堕ちた。
そのそれぞれが、真っ赤な炎を噴き上げて爆発する!
「勝ったァッッ!!!」
瞬きもせず戦いの行方を見守っていた女生徒たちの口から、爆発的な歓声が湧き起こった。
それは、新たなる「勇者」、新たなる「英雄」、新たなる「ヒーロー」の出現に、備わっていた乙女回路を強く刺激されてしまった結果だった。
若者らしい純粋な熱気と興奮とが、その感情のすべてを支配し始める。
だが、そうした彼女らの心情を嘲笑う者が現れた。
ブンドール帝国の幹部、「残酷将軍」カーネル=ザンコックそのひとだ。
いつの間にかこの場から姿を消していた彼は、どこからか威圧的な嘲笑を響かせつつ挑発的な言葉を浴びせかける。
『ふっふっふ……その程度で勝ったつもりか、宇宙刑事ッ!』
凄まじい地響きが直下から湧き起こったのは、その直後のことだった。
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