翔龍機神ゴーライガー

石田 昌行

第一話:宇宙(そら)から来た青年

宇宙(そら)から来た青年1-1

「『まさか本物とは思わなかった』ってどういう意味よッ!」

 夏真っ盛りのプールサイドで、乙女の怒声が響き渡った。

「わたしのこのもこの髪も、大事なママから受け継いだ大切な宝物よ! あんたたち、そのふたつとないわたしの宝物を、実は偽物なんじゃないかって疑ったわけェ? それっていったい何様のつもりッ?」

 そんな彼女の勢いに、いかにもな外見のナンパ男二人組は、ただただ狼狽する以外に為す術を持たなかった。

 ひと言も言い返すことなく、たじたじになって後退る。

 それは、男としてあまりにみっともない態度のひとつだった。

 ナンパ男たちもそんな自分たちをはっきりと自覚しているようだ。

 顔付きが半分泣きそうになっている。

 もっとも、客観的に判断するなら、それもまた致し方のないことなのかもしれない。

 なぜなら、二十一世紀を生きる典型的な日本の若者にとって、いま目の前で仁王立ちしているこの乙女は、彼らが普段接することのできる同胞の女性たちとはまったく別種の存在だったからだ。

 ふわっと豊かな蜂蜜色のロングヘアーに、南の島の海の色にも等しい真っ青な瞳。

 余裕で百七十センチを越えるモデル並みの長身に、それを支える人並み外れた長い手足とぎゅっと引き締まった細い腰。

 加えて、その上半身に突き出したメロンのごとき大きなバストが、否応なしに彼女の「女性」を主張して止まなかった。

 そんな恐るべき対人兵器の数々が、露出の大きい黒のビキニに覆われただけのなんとも刺激的な装いで、彼らの眼前に晒されているのだ。

 まったく、なんという大胆不敵か。

 ナンパ男たちの視点からすれば、それはまさしく常識外れとも言える物件に相違なかった。

 そう。

 よりによってこの乙女は、典型的な北欧系白人種ゲルマンの娘だったのである。

 それも、常識外れな美形の類い。

 年齢的には、およそ十代の終わり頃といったところか。

 正直な話、外見だけで評していいなら、そこいらのアイドル女優など裸足で逃げ出すこと請け合いなほどのレベルだった。

 そんなただでさえ近寄りがたい異世界の存在が、いま眼前で両手を腰に置きながら、ぷんぷんと怒りの感情をあからさまにしているのである。

 これはもう、とてもではないが並大抵の胆力で対抗できるようなものではない。

 あまりに相手が悪すぎた。

 「ご、ご、ごめんなさいィィ!」と、情けなくも謝罪の台詞を口にしたナンパ男たちがその場からすたこらさっさと退散していったのは、それからものの十秒も経たぬうちの出来事だった。

 いやそれは「退散」などといった殊勝な言葉で表すべきではない。

 それは間違いなく、彼らの全面的な「敗走」だった。

 仮にも成人に近い年頃の日本男児が見目麗しい欧米系美女を前にすごすごと踵を返すそのさまは、周囲の面々に失笑されるに相応しい文字どおりの「醜態」ですらあった。

 そんなナンパ男たちの背中を最後の最後まできっちりと見届けてから、その金髪碧眼の美少女は、足元で寝そべる友人の隣へどっかと音を立てて着座した。

 不機嫌そうに口元を歪め、腕組みしながら胡座をかく。

 言っては悪いが、女性的なしとやかさなど欠片もない仕草だった。

 頬杖を突いた黒髪の少女が、彼女めがけて質問の言葉を投げかける。

「いいのォ、シーラ? あのふたり、たぶんどこかの大学生だよねェ。見た目は割とイイ線行ってたと思うんだけどなァ。お茶ぐらいしてあげてもよかったんじゃない?」

「ハッ、冗談でしょ」

 シーラと呼ばれた金髪の乙女は、大げさに両手を広げて言い放つ。

「わたしたちと大して変わらない年頃のくせに、ちゃらちゃらと金ぴかのピアス付けたりなんかして自分を飾って、挙げ句の果てはプールでナンパァ? どうせわたしの髪の毛見て、『あ~、あそこに髪の毛染めた頭悪そうなオンナがいるな。ちょっと俺らで遊んでやるか』ぐらいの気持ちで声掛けてきたに違いないわ!

 そんなティッシュペーパーより軽くて薄くてつまんないおつむの可哀想な海綿体相手に、このわたしのたった一度しかない人生の貴重な一部を費やすだなんて、まさに人類の損失ッ! これ以上は考えられない世紀の愚行よッッ!

 もちろん春香はるかだってそう思うでしょ? 思うわよね? 思わないわけないわよね?」

「……シーラ」

 そう一気呵成に毒舌を吐き散らす友人に思わずため息を吐きながら、少女は半ば諭すような口振りで言葉を返した。

「もし機会があっても相手の目の前じゃそれ言わないほうがいいと思う。面と向かってあんたにそんなこと言われたらさ、たぶんそのひと二度と立ち直れなくなっちゃうから」


 ◆◆◆


 解説しよう。

 雪姫ゆきひめシーラと此路このみち春香は、「私立セントジョージ女学院」に通う十八才。

 同じクラスに属する、普通学科の三年生だ。

 いまの時分、すなわち八月頭の時期ともなれば、一般的な学校にとっては夏休みの真っ最中。

 その長い休暇は、普段学業に励んでいる十代の若者たちにとって、もうひとつの青春を謳歌するためのまたとない絶好の機会であった。

 そんな社会人にとってはなんとも羨ましい限りの特権を存分に利用して、本日この若いふたりは、郊外に展開する屋外型のレジャー施設にまで気楽な息抜きにやって来たという次第なのだった。

 夏と言えば、若い男女の出会いの季節。

 それを疑問視する者は内外に少なかったし、各種資本により成るさまざまな情報媒体もまた、かねてよりその風潮をあおってあおって止まなかった。

 しかしながら、学校行事を通しての異性間交流などなきに等しい女子校生の彼女らにとって、素敵な男性と知り合いになるための機会など自ら望んで掴み取るほか道はない。

 そんな現実を知ってか知らずか、お堅いイメージを誇るミッション系女子校の生徒であるふたりの同級生たちにおいても、いわゆる「貞淑」を「恋のチャンスを自分から放棄する愚行」と捉える者の数はそれなりの比率に達していた。

 春香もまた、そんな思想に身を染めた現代っ子のひとりだった。

 素敵な彼氏を見付けて、それでもって一度しかない素敵な恋をしてみたい。

 そんな熱情にすら近い思いは、いまの彼女にとってある種の目標ですらあった。

 ただし、そういった新時代的思考がほかの同性すべてに一律適用されるものでないことを、春香はもっと早くに察するべきであった。

 その現実に気付かなかったがゆえに、この日、彼女は自らの貴重な青春の一ページをまるまる無駄に使用する羽目へと陥ってしまったのだから。

「これだから、泳ぎに行くのなんて嫌だって言ったのよッッ!」

 レジャー施設からの帰り道。

 自慢の愛車であるオープンタイプのスポーツカーを運転するシーラが、長い金髪を吹き込む風になびかせながらそんなぼやきを口にする。

 これでもう何度目になるのだろうか。

 哀しいかな、それは助手席に座る春香にとって、およそ「耳にタコ」的な繰り返しにほかならなかった。

「だいたい去年もそうだったじゃない」

 見るからに嫌そうな相方の態度など気にも掛けず、サングラス姿のシーラは、なおも畳みかけるように吐き捨てた。

「どうしてもって言うからわざわざ日程空けて付き合ってあげたのに、春香ったら、もうろくすっぽ水の中に入らないでプールの側で寝そべってばっかり!

 そんな風に若い女の子がふたりして『わたしたち暇してま~す』なんてポーズ取ってたらさ、そりゃあ発情したこの時期のオトコどもが灯りに群がる蛾みたいにわんさか寄ってくるのも当然よねッ!

 それは春香にとっちゃ狙いどおりの状況だったのかもしんないけどさ、わたしにとってはおとといおいでの大迷惑なわけ!

 第一、さっきのみたいな見るからに薄っぺらいオトコどもが『真剣交際』だとか『真面目な恋愛』だとか、とにかくそんな大層なこと考えて女の子にアタックかけてるなんて本気で思う?

 ああいうのの頭の中にあるのは、どうせ『ヤリて~』とか『ワンチャンあるか?』とか『ウェ~イ』とかそんなのばっか。

 性欲暴走した猿山のモンキーじゃあるまいし、誰があんたらみたいに海綿体に手足生えたようなオトコなんて相手にするかってのッッ!

 水着のオンナがそろいもそろってひと夏のオトコ探してる、なんて腐った戯言信じてたのなら、味噌汁で顔洗ってネギで髭剃ってから出直してこいって言いたいわ!」

「シーラって、付き合う相手は『神さまの選んだ運命の人』じゃないと嫌ってひとなわけね。まあ、そんなのは随分前から知ってたけどさァ」

 そんな連続する友人の愚痴をさすがに鬱陶しく感じたものか、う~んと背筋を伸ばし直した春香が自分なりの反撃に出た。

「現実を見ようよ。現実を。頭の中まで処女のネンネじゃあるまいし、あんまり甘っちょろい夢ばっかり見てたらさァ、せっかくの若さが無駄遣いされちゃうよォ」

「しょ、しょ、しょ……処女で悪かったわねッ、処女でッ! どーせ、わたしは処女ですよッ! そんな春香こそ、男性経験なんてないくせ──」

「ざーんねん。今年の春に済ませちゃいましたァ~」

 舌を噛みながら開き直る金髪娘に、あっけらかんと春香が告げた。

 「うぐぐ、いつの間に」と対応に窮する友人の顔を意地悪そうに見やりつつ、「こういうのはね、勢いと割り切りってものが大事なのよ。勢いと割り切りってものが」と鼻高々に応えてみせる。

「もっともシーラだってさァ、あわよくば、な~んて心のどこかで思ってたんじゃないのォ? じゃないと、あの水着はないわよねェ、あの水着は。去年着てたのより、ずっと面積少なかったじゃん。周り中のオトコの視線、釘付けだったわよ」

「うぐ。あ……あれは」

 ぼん、と顔中を真っ赤に染めてシーラは言った。

「ああいったのしか胸の収まる水着がなくって……その、いまだに全然成長が止まんなくってさ……仕方なく、やむを得ず、緊急避難的にというか、その……」

「いまJカップだっけ。あんたのその究極兵器」

 にやりと口元を綻ばせながら春香が応じた。

「そんなウェポン標準装備してたらさァ、そこいらのオトコなんて掴み取り余裕じゃん。あ~もったいないもったいない。あたしがそれ持ってたら、もっと有効用しちゃうんだけどなァ~。ま、将来神さまに仕える予定のシスターの卵としては、なかなかそういうわけにもいかないってか。その点に関しては、ちょっとだけあんたに同情しちゃうかな」


 ◆◆◆


 やがて友人ハルカをその自宅近くにまで送り届けたシーラは、しかしその脚で我が家に帰ろうとまではしなかった。

 どこかに独りで遊びに行こうという意図があったわけではない。

 ただ単に、家路に就こうという気に毛頭ならなかっただけの話だった。

 時刻は午後五時ちょうどを差している。

 この時期の太陽が没するまでには、まだ相当の時間があった。

 いや夕食時を基準においても、軽く一時間から二時間程度の余裕があったと見なしていい時間帯だった。

 にもかかわらず、この時彼女の脳裏には、異様なまでに暗くて寂しい自宅の様子が思い浮かばれてならなかった。

 「ただいま」と玄関先で声を掛けても、誰からの返事も来ない無人の空間。

 その進むべき先には、本来あるべき生活の息吹などまったく感じることができない。

 そしてその光景は、残念なことにシーラの妄想が生み出した偽りのそれなどではなかった。

 毎日のように潜らねばならない、暗く重たい無機質な門。

 それは紛れもなく、彼女にとって確約された日常のひとこま。

 必ずや訪れる、冷たい現実の風景であった。

 それゆえか、最近そんな自宅に戻ること自体が、シーラにとって激しい抵抗の対象となるまでになっていた。

「帰りたくないなァ……」

 気が付けば、時計の針は日付の変わり目を指していた。

 朝には満タンにしていたはずの燃料計が、半分以下となったその容量を示している。

 どうやら無意識のうちに、シーラは自慢の愛車で郊外の山々を走り回っていたらしい。

 疲労が軽い眠気となって押し寄せてきた。

 もはやひとっ子ひとり見当たらない山村部にある道の駅で足を止め、クルマのエンジンを掛けたまま彼女はステアリングの上に身を突っ伏す。

 目をつぶりそのままの姿勢で脱力すると、ふと在りし日の光景がまぶたの裏に浮かび上がってきた。

 それは幼い頃の自分と、そしてその当時の両親とが映った映像であった。


『シーラちゃん。今日から僕が君の本当のパパになるよ。もう君とママには不自由な思いはさせないから、安心して僕のことを頼って欲しい』


『シーラは偉いな。もうママのお手伝いができるんだね。さすがは僕たちの娘だ。よしよし、大事な君にご褒美をあげよう』

『あなた。あなたはその子に甘過ぎです。親莫迦なのはいいですけど、あまり娘を誉めすぎないでやってくださいな』

『何を言ってるんだい。僕たちの娘がこんな素敵に育ってるのは、この子を君がきちんと躾けてる何よりの証じゃないか。母親として全うしている自分の仕事を、そんな風に自分から卑下したりするもんじゃないよ』

『もう、あなたったら』


『じゃあシーラ。行ってくるね。パパとママのいない間、日本のお婆ちゃんの言うことをよく聞いて、とっても良い子にしているんだよ。一週間ちゃんと良い子にしていたら、パパがあとでいっぱいプレゼントを買ってあげるからね』

『シーラ。毎朝毎晩、神さまへの心からのお祈りを欠かして駄目よ。神さまはね、いつだってあなたのことを見てくださっているわ。だからいまの自分があることを常に神さまに感謝して、そして、決してあなたひとりでこの世に生きているんじゃないってことを絶対に忘れないようになさい。

 では、神の祝福があなたとともにありますように──アーメン』


「神さま……か」

 唐突にシーラは、運転中に聞いた春香の台詞を思い出した。

 シーラって、付き合う相手は『神さまの選んだ運命の人』じゃないと嫌ってひとなわけね──…

 それは明らかに軽口の類いに含まれるべき発言であった。

 だがいまの彼女にとってその記憶は、少しだけ別種の意味をもって捉えられるものへと奇妙な変化を遂げていた。

「神さまなんて……嫌いよ。好きになってなんて……やるもんかッ!」

 シーラは呟く。

 突き上げる感情が涙腺を刺激して、その目尻からあふれた涙が一筋、なだらかな少女の頬を流れ落ちていった。


 フロントガラスの向こう側で小さな光点が瞬いたのは、その次の瞬間の出来事だった。


 当初それは、蛍の光を思わせるほどの小さな小さな輝きだった。

 ともすれば見逃してしまったかもしれない大きさの地上の星。

 だがそれは時が経つごとに膨張を続け、たちまちのうちに直径二メートルを越える青白い光の球へと成長を果たした。

「何……あれ?」

 ガラス越しに差し込んでくる眩しさにシーラが思わずその顔を上げた時、彼女の視界の中で球体は文字どおり爆発的な閃光とともに内側より破裂して四散した。

 反射的に悲鳴を上げ両手で頭を抱えたシーラだったが、予想に反して覚悟したような衝撃が周辺を振るわせたりはしなかった。

 もちろん、その破裂を発生源とする大音量もなければ圧力もない。

 少なくとも、そこで爆弾か何かが炸裂したというわけではなさそうだった。

 そんな現状に違和感を覚えたシーラは、いかにも恐る恐るといった風情で視点を戻す。

 左右の瞳が、あからさまな変化を求めてせわしなく動いた。

 しかしながら、その視線の先に広がっていた風景は、つい先だってとまったくもって変わりない、深夜の駐車場にほかならないものだった。

 季節が過ぎれば心地よい虫の音が鳴り響いているであろうほどに人の気配を感じさせないその様子。

 それはまるで、先ほどの閃光がつかの間に見た夢だったのではないかとシーラが思ってしまうくらいに落ち着き払った静寂を保ち続けていた。

 いや……待て!

 だが、刹那ののちにシーラは気付いた。

 いまさっき光球が消失したばかりのその場所で、それまでなかったはずの人影がひとつ、ぼうっと立ちすくんでいるという事実に、である。

 それは、紛うことなき男性の姿だった。

 それも、あろうことか衣服の類いなどいっさい身に着けてない全裸の男──…

「やだッ! 嘘ッ!」

 予想もしていなかった存在の、そのあまりに唐突すぎる出現に、シーラは仰天して声を上げた。

 それは、この年頃の娘としては至極当然の反応だと言える。

 思わず顔を覆わんとして、彼女は素早く両手を上げた。

 されど、結果としてその行為が完了を果たすことはなかった。

 少女は見てしまったのだった──いま自身が視界より排除しようと目論んだ対象が、力なくばたりと倒れ伏す瞬間を、である。

 この時、シーラの中にある女性としての「恥じらい」を、人間としての「優しさ」が上回った。

 「大丈夫ッ!?」とひと声叫んで車の中から飛び出した少女は、脇目も振らず男の側へと駆け寄った。

 うつぶせになっていた彼の身体をひっくり返し、上半身を抱き起こす。

 それは、アスリートのような肉体を持つ若い男だった。

 見た目的に歳は彼女よりやや上といったところであろうか。

 胸に耳を当てると、規則正しく刻まれる心臓の鼓動が聞こえてきた。

 呼吸もまったく乱れていない。

 その整った顔立ちが時折苦悶に歪むことから、彼の命に別状がないことは明白だった。

 救急車を呼ぼうか──シーラは素直にそう思った。

 それはごくあたりまえの、無難に過ぎる判断だった。

 いかにこの場所が市街地から離れた山の中とはいえ、ものの三十分もあれば白い車がサイレンを鳴らして到着するであろう。

 だがどういうわけか、彼女はその選択をしなかった。

 日付が変わる時刻の道の駅、およそ人気などあるはずもないその場所に、目映い光とともに現れた裸の青年。

 シーラは、そんな謎めいた存在に対し、なぜか奇妙に因縁めいた感触を抱いてしまったのだった。

 結果、この金髪碧眼の美少女は、まったく見ず知らずの人物であるひとりの青年を、自分の家に連れ帰るという常識外れの決断を下した。

 暴挙であった。

 愚挙であった。

 おそらくは、ほかの誰もがそのように判断するであろう行為に違いなかった。

 なぜこの時、自分がそのような道を選んだのか。

 実のところその理由は、シーラ自身さっぱりわからないものだった。

 汚い言葉で表してしまうなら、頭がどうかしていたのではないか、とさえ思えてしまう決断だった。

 ただし、事の良否はともかくとして、これだけははっきりと断言することができた。

 この彼女の選択こそが、地球の、そして雪姫シーラというひとりの少女の運命を変える、決定的な「神の一打」であったのであると。

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