十一番勝負-体育祭編 最終-

~青団 VS 白団~

前半で はしゃぎすぎると燃え尽きる①



「ええっ、それで、気絶しちゃったの!?」


 話を聞いたらん丸が目を丸くした。


「そう。あそこまで完璧に銀団の団長を追い詰めといて、最後の最後でやらかしてくれたんだよ」


 悠馬がもう何度目とも分からないため息を吐く。

 合戦は青団の勝利に終わった。セイジがいなくば成し得なかったかもしれない大勝利だった。しかし悠馬からしてみると、最後がどうにもいただけない。

 あの状況で、あの流れで、どうしてなってしまうのだ。

 青団は少し前に《青龍》の陣営に引き上げたが、悠馬とらん丸はまだ第二フィールドの側にいた。

 頭にどでかいたんこぶを作ったセイジを木陰に寝かせてその横で喋っている。


「はぁぁ〜、今回のリーダぁは序盤からカッコよかったのに! せっかくいつになくカッコよかったのに! もしかしたら最後までカッコいいままかもとか思ってちょっぴし期待してたのに……!」

「まぁあれだ。所詮は馬鹿だからこいつ。本質が馬鹿だから。こいつに期待する方が間違ってたんだそもそも」

「リーダぁ、次の合戦までに起きるかなぁ?」

「次の対戦相手か。白団来てくんねーかな」


 今回三つ巴となって戦った合戦だが、まだこれで終わりではない。今から赤団・白団・紫団の、もう一つの三つ巴が始まろうとしているのだ。

 更にその後は、第一回戦で決まった順位同士で再び第二回戦を行い、最終順位を決定しなければならないのである。

 つまり第一回戦で最下位を取った団はたとえ第二回戦で勝利を収めても五位以上の順位はもはや取れないということになる。たった二回の勝負で、六つの団の明暗ははっきりと分かれてしまうのだ。

 三つ巴での戦いや減点方式からしてそうだが、余りにも平等とは言いがたい。しかし、公平ではある。

 これが学園側の遣り方なのだ。弱肉強食・強者生存はいわば学園の教育方針なのである。


「そういえば悠馬、あのトシヤとかいう人に仕返しする為に青団入ったんだっけ」

「ああ、実は昨日いっぺん前夜祭で顔合わしたんだけどな……」


 なにやら苦々しい口調の悠馬である。


「どうなったの?」

「ヘラク先生に見つかって、それどころじゃなくなっちゃってさ」


◇◇◇



 ピシャァァンッ! ゴロゴロピシャァァ! ・・・がらごろがらごろ・・・



 昨夜。撤退の合図が鳴った後も、悠馬とトシヤの言い争いはまだ続いていた。あたりを取り巻く不穏な空気は更に濃度を増している。合図自体、二人の耳には届いていないようだった。

 二人のやり取りはここに来て芸能うんちく合戦からこれまでにもらったバレンタインチョコレートの数にまで発展していた。完璧に二人だけの世界に入りこんでいた悠馬とトシヤを現実に引き戻したのは、懐中電灯片手に校内を見廻りに来ていた体育教師・レスラー=ヘラクである。



「くぉらぁ!! 貴様等そこで何しとる!!」



 雷よりも激しい怒号に、さすがに二人も目を丸くする。

 学園の見廻りの教師に捕まると、反省室に連れて行かれて一晩中説教を食う羽目になる。とくにレスラー=ヘラクのような教師の場合、反省文だけではとてもすまなさそうだ。腕立て500回だのスクワット1000回だのという無茶な要求をしてくることは疑いようも無い。翌日になっても説教部屋から帰ってこない生徒達は恐らくこの教師に捕まった者達だろう。


「うげげっ」

「ヘラクだ!!」


 何も言わずとも、悠馬とトシヤの意見は一致していた。

 とりあえず勝負をお預けにした二人は、背後の脅威から一目散に逃げ出すため暗闇に身を躍らせたのである。



◇◇◇



「……と、いうわけだ」

「あはははっ、よかった悠馬捕まらなくて〜!」

「笑い事なもんか。オレがいなかったら一体誰がこの馬鹿リーダーの手綱を取ってやれるってんだよ」


 二人でそんな会話をしていた時、噂の馬鹿リーダーことセイジが小さく身じろぎをした。


「……う……んん……」

「起きたか?」

「大丈夫? リーダぁ」


 のろのろと起き上がったセイジだが、すぐに顔をしかめて後頭部を抑える。


「うぐっ、い、いててて……」

「まったく。お前の作戦はやっぱどっか抜けてんだよな。いくら前に皿を付けたってそれ以外から攻撃が来ないとも限らないってのに」


 悠馬の説教とも文句ともつかない言葉を聞き流し、きょろきょろと辺りを見回すセイジ。状況が理解しきれていないような顔のセイジに、悠馬はますます呆れて言い募る。


「何が起きたか判ってないって顔してるな? 銀団団長のすっぽ抜けたアクション棒が頭に落ちてきて、お前合戦中に気ぃ失ったんだよ。銀団・緑団との合戦はもうとっくに終わったぜ」

「えっと……あのさ……」

「そもそもお前は勝ったと思うとすぐ調子乗ってベラベラ喋りだすクセが悪いんだよ。前にも注意しただろ? いい加減反省して――……」



「あんた、誰だったっけ?」



 ――悠馬の表情がピシリと音を立てて凍りついた。


「……な……」

「あれ、そういやが誰だ??」


 この態度。この口調。後頭部をぶつけて気絶というこの状況。悠馬とらん丸の脳裏に非常に嫌な予感が走り抜けた。


「もしかしてお前っ……か!?」

「セイギ?」

「ウソ?! リーダぁまた記憶喪失になっちゃったの!?」

「キオクソーシツ……? 俺が?」


 戸惑うセイジの肩をがっしと掴む悠馬。


「おち、いや落ち着こう。とりあえず落ち着け……!」


 そんな悠馬の方が狼狽えている。


「お前、自分の名前は言えるか!?」

「いいや」

「自分が何組かは!?」

「さあ?」

「オレ達の事は覚えてるか!?」

「全然」

「……今日、ここで何をやってたか判ってるか……?」


 この上なく言動の怪しい彼はちょっと辺りを見渡して言った。


「……お祭り? あっコスプレ大会か!?」


 悠馬ががっくりと肩を落とした。


「……本物だ……本物のセイギだ……」


 以前突発的事故により、セイジは一時的に記憶をなくしている。悠馬やらん丸どころか、自分の名前すら言えない状態になってしまったのだ。その時彼が代わりに名付けられていた名が、他ならぬ『セイギ』だったのである。


「で、でも、記憶喪失って普通滅多にならないものなんじゃ……?」

「きっと、同じ場所を何度も打ってるからクセがついたんだ。元に戻す時もショック療法でぶっ叩いたし……」

「あ、でもさ、それならまたおんなじことすればきっと元に戻るよね!」

「確かにその通りだ。よし、らん。もう一度あの〈ハンマー〉出せ」


 受けたショックから何とか体勢を立て直そうとした悠馬とらん丸だったが、そこへ更なる不幸が二人を襲った。

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