またの名を あやとり名人すないぱー⑩
◇◇◇
『青団12660点 緑団10725点 銀団09825点』
モニターに映し出される点数を見たフォックスの口を衝いて出たのは、青団に対する罵倒の数々だった。
フォックスは一学年下の諸星に完璧に出し抜かれた形になる。激しい憤りに今にも爆発しそうな程だったが、この間にも徐々に銀団の点数は減っていっている。今から巻き返すことは到底不可能だ。
この上は撤退するしかないと腹を括った。
そのフォックスの前に立ち塞がった者がある。
「見つけたぞ! 銀団応援団長、フォックス=コーン!」
まず目に入ってきたのは、額の真ん中に取り付けてある得点盤。
――……馬鹿か……?
思わず呆れた視線を送ったが、すぐにその顔に思い当たった。
「お前は……1年は組のセイジ……か?」
入学時の体力実技で一位の成績を納めた者として、そして三日前突然青団応援団に入団した者として、この1年の顔と情報はある程度調べてあった。一応二軍に組み込まれているのを注意して見ていたが、大柄な訳でもなく特殊能力を使う訳でもなく、ちょこまかと逃げ回る素早いだけが取柄の男だった。
仮にも応援団長を名指しで呼び止めた者がただの1年生という事に少なからず驚きを示したフォックスだったが、その間にもセイジは不敵な笑みを浮かべて彼に話しかけてきている。
「俺さまを知っているなら話は早い。――決闘だッ!!」
返す返すも馬鹿な事をと思った。あまりの無謀に怒りすら沸いてきた。
何をとち狂ったのか知らないが、ただの1年が団長クラスに敵う訳も無い。その上セイジはこうもはっきり見える位置に得点盤を
怒りに任せて今すぐ得点盤ごと頭を叩き割ってやろうかとも思ったが、今更青団から80点を奪った所で所詮何の得にもならない。
無視して背を向けようとした所に、再びセイジが声を掛けた。
「フッ――諸星団長をして負けを認めさせる俺さまとは、恐ろしくて勝負出来ぬか?」
フォックスが怒りに顔を赤く染めた。ただの1年が一団の団長に掛ける言葉にしては、余りにも侮辱的な言葉だった。
「お前が諸星に勝ったとな? フン、面白い……!」
フォックスがひと飛びでセイジと距離を詰めた。
次の瞬間には相手を完全に沈めているはずのその攻撃はしかし、セイジの手にしたアクション棒によって防がれる。
――初撃は受け止めたか。動体視力は中々、しかし長くは持つまい……!
矢継ぎ早に攻撃を繰り返すフォックス。その全てが防がれた所で、彼の顔色が変化した。
「それで終わりか? 随分と軽い一撃だ」
真っ直ぐ見据えてくる自信に満ちた視線がフォックスの神経を更に刺激する。
「棒きれの正しい使い方を教えてやる!」
セイジが素早く脇を払いに来た。身を引いてかわそうとするが、途端にセイジはもう一歩踏み込むと同時に突きに切り替えてきた。
「どうした!? 避けきれておらんぞ!!」
片手で変幻自在に繰り出される攻撃を払いきれない。腕や膝を幾度もセイジの攻撃が掠めていく。
「ぐっ……!!」
歯軋りが漏れる。
今までフォックスの周りにはこんな攻撃をする者はいなかった。どう切り返せばいいのかすぐさま見当がつかない。
“守護科”であるフォックスは物を透視する能力を持っている。そのお陰で機械などに頼らずとも敵の隠している得点盤の位置を知ることが出来た。その時点でこの試合、フォックスは常に相手よりも優位に立っていたのだ。
それが、この男には使えない。この男は得点盤を初めから隠してなどいない。いや、隠していない時点で、必然的に自分はこの男よりも優位に立っていなければいけないはずなのである。
――そもそも、何故こいつはこんな真似をしている? あえて敵に急所を見せる必要はどこにも無いはずだ。何かを企んでいるのか? ただの1年風情がこんな真似をして、この時間まで生き残っていられるはずがない。まさか、こいつも特殊能力者……!? しかしこいつはただの“戦闘科”のはず! いやしかし、それなら何故自分の攻撃が通用しない!?
思考が判断を鈍らせる。ここは、引くべきか――フォックスの脳裏にとうとうそんな考えがよぎった時だった。
「手が留守だぞっ!!」
セイジが一瞬の早業でフォックスのアクション棒を絡め取り、宙高く跳ね上げた。
◇◇◇
銀団の背後に二軍が喰らいついたとたん、セイジはやはりというか予想通りというか、銀団団長に向かって突撃を開始していた。食い止めようと向かってくる敵を腹だ背中だと騒ぎつつ蹴散らし、ぐいぐいと内部まで切り進んでいく。
一応“青団の目になる”という自分の役割を覚えてはいるようだ。お陰でセイジ言うところの『雑魚』達の相手は後ろに続いていた二軍の団員達が軒並み引き受けることになった。
セイジが目的の相手と接触したのを目の隅に捉えながら、悠馬も1年と思われる銀団員と対峙した。精々リーダーの邪魔をしないよう、食い止めておいてやろうという部下なりの心遣いである。
その悠馬が上手いこと敵を倒した時、セイジも相手の武器を上に跳ね飛ばしたところだった。
「ぶはははっ! おぬし、本当にあの団長と同じ団長なのか? 諸星団長の方がよほど重く早い一撃だったぞ!」
銀団団長が忌々しい表情で大きく後ずさる。合わせてセイジが踏み出した。
その時、
「あっ、バカッ!」
ひるるるるるるるるるごぉぉぉぉぉんっ!
セイジの後頭部に衝撃が走った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
……………………ぱてふっ。
一瞬目の中に星を散らせたセイジが、無言のまま顔面から倒れ伏す。
「……生憎、わたしは頭脳派だ」
そう返した銀団団長の言葉と、悠馬の吐いた深い深いため息は、合戦の終わりの合図と全くの同時であった。
◆十番勝負~体育祭編3~ 終
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