お買い物 値切るはレディの嗜みです④
「私はひ弱だから、葵ちゃんみたいに元気で強くてヒーローを目指してるなんて憧れちゃうな。今日もこれから集会があるの?」
ヒメ子が言うと“集会”という言葉も“魔女のサバト”的な様相を呈してくるが、葵は笑って首を振った。
「ううん。今はわたし、どこのチームにも入ってないの。しばらくは自分の力をうまく使えるようにレベルアップに勤しもうかなって。それに、わたしなんてヒーローとしてまだまだだよ」
明るく答える葵の微笑みに何を感じ取ったのか、ヒメ子がそっと葵の手を取る。
「――葵ちゃん。何か悩みがあるのね」
どきりとした。確かに今葵はヒーローとしての力のなさに悩んでいる。しかしそれは自分の力以外ではどうしようもないことだ。ましてやヒーローの世界とは無縁なヒメ子に話しても仕方のないことなのだ。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ」
葵の言葉にも手を離さない。ひやりと冷たいヒメ子の手の温度が伝わってくる。
「私はヒーローやギルティのこと詳しくないし、葵ちゃんみたいに強くないから頼りないかもしれないけど、占いでだったら力になれるわ」
真摯な目(勿論見えない)で見つめつつも細い声で精一杯力強く断言するヒメ子。
「葵ちゃん、私の目をよく見て」
「め、めって、目? ヒメ子ちゃんの?」
思いもよらない無謀な要求に思わずうろたえるが、ヒメ子側から葵の目が窺えれば問題なかったようだ。覗き込むように葵に顔を寄せたヒメ子はその瞳から彼女の未来
を感じ取る。
「――悲しい色だわ。残念だけど、もうしばらくは今のまま答えは見つからないみたい。でも……近いうちに転機があるわ。――夏休みの後――9月――体育祭の前後――……」
断片的に呟かれる言葉に葵はひとつの心当たりを思い浮かべた。ヒメ子もそれに気が付く。
「葵ちゃん確か、そろそろあれだったよね?」
「うん、ちょうどその時期に行く予定だけど……」
「そうなんだ。寂しくなるな……」
ちょっぴり悲しそうに呟いて、改めてまっすぐに葵の目を見つめる。
「そこで出会う人たちとのやりとり、お話が、葵ちゃんの悩みを解決してくれる筈だよ」
「そこで……出会う人たち……? 知らない人が、私の悩みを?」
「ううん……全く知らない人ではないみたい……変だよね。どうしてかはわからないんだけど……ごめんね、私の占い、全然参考になってないね……」
しょんぼりと肩を落とすヒメ子を今度は葵が力強く励ます。
「ううん、そんな事ないよ! じゃあ、それまでは悩んだりしたってしょうがないって事だよね! 後ろ向きな事は考えずにいこう! ヒメ子ちゃんがそう言うなら外れることはないもんね!」
さっと立ち上がり胸の前でガッツポーズをしてみせる。
「なんだか元気が出てきた! 本当だよ? ヒメ子ちゃんのおかげだよ!」
「本当? よかったぁ……ウフ……ウフフフフフ……」
ヒメ子もその表情を和らげ朗らかな明るい笑みをこぼす。笑い声がか細すぎて夜道で聞いたら心霊現象と間違われる気もするが断じてそんな事はないのだ。誰がなんと言おうとこれは朗らかで明るい笑みなのである。
◇◇◇
ヒメ子と別れて歩く葵の足取りは先程よりも軽かった。
元気が出た、とヒメ子に言ったことは本心だった。自分にはああして心から心配して助けてくれようとする友達がいる。
あかねとアサギもそうだ。“一般科”にも関わらず出来る限りのことをしようとしてくれている。危険を省みず――あの『赤虎』を危険と言い切れるかは微妙だが――共に戦ってくれている。
そして――……
「見つけたぞ水戸葵!」
今日もまた前触れもなしに、目の前に現れる影3つ。
「ふははは、一人で歩いているところを見つけられたが運のツキ! 今日こそこの俺さまが手を下してやろう……!」
「ひゅ~ひゅ~、いったれリーダー」
「やっちゃえリーダぁ!」
葵をつけ狙う弱小悪の組織『赤虎』。いつでもどこでも騒がしく現れてくる。特にありがたくはないが、お陰で最近は一人物思いにふけることも少なくなった。
「あ~! 葵が遅いから迎えに来てみたらまたあんたらか、ヤマネ!」
「ヤマトだ!!」
「良かったわねあかね。早速新しい武器をお披露目する機会があって」
『赤虎』一味とは反対の道からあかねとアサギが駆けつけてくる。
皆から助けてもらえる自分は、悩める自分は幸せだ。
それなら自分は応えなければならない。せめて今はその友達を安心させられる位に強くなろう。
葵の両手が胸のバッジにかざされる。
「変身バッジ起動!」
光が葵を包み込む。一人のヒーローへと姿を変える。
「許しちゃいけないあなたの罪を、広く大きく包み込む! 守護者ナディア、お待たせしました!」
そして、完璧なる決めポーズで登場したナディアは、今日も右手に持った装備〈
「海より深く反省なさい!」
さあ。戦闘開始だ。
◆休戦 終
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