第464話

「それだけに囚われる事がくだらぬと言うのだ。他に為すべきことはいくらでも転がってるであろうに」

「いくらでもだと?」

 怪訝な表情を浮かべるゴルゴーラにレグスは言う。

「フリンディアの大聖堂には一部の高僧にのみ閲覧が許された秘蔵書『テネブライ』なる物が存在する。その書には邪教徒達も知らぬ悪魔の生態が、詳細に記されているそうだ。ドゥランハイムのドワーフ達が製造するヴィクトール鋼製の武具は、青国の名高き剣や盾にも劣らぬ性能を誇り、トリンダラムのエルフ達が作る秘薬は創傷を一晩で癒し、新兵を瞬く間に猛獣の如き戦士へと変えてしまうという。モゾールの魔術師達は失われし古代魔法『エクスぺドラ』の一つを見事復活させ、メノールの隠者達は今なお森の精霊と交誼を結ぶという。聖ミドラ騎士団、ロドバールの重騎兵、ブリスの長弓兵、ビザンの長槍兵、いずれも千軍に匹敵する強兵だ。今、一度問おう、壁の民よ。その事実を前にして、お前達はここでいったい何をしている」

「まさかお前は我らに、その者達の助けを借りよというのか。フリアの庇護者たる我らに、彼らに助けを乞えと」

「真の脅威を前に何を迷う必要がある」 

「ふざけるな!!」

 元老院議員達より再び怒声が飛ぶ。

「我ら壁の守護者は独力で千年とこの地を守り抜いてきたのだ。その伝統と名誉を汚せば、我らの名声は地に堕ちることになろう!!」

 レグスの言っている事は、流れ者の一人に協力を要請するのとはわけが違う。

 近年、フリア諸国の民は教会を崇め、壁の地を軽んずる風潮にある。

 そんな中で、自分達の手に負えぬと正式に助力を乞うとなれば、何が戦いの民かと、彼らはいっそう壁の民を侮る事になろう。

 自尊心の強い壁の民達にとってそれは耐え難き苦痛であった。

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