第437話

「ほんとそうよ。誰かさんの方がよっぽど手間のかかる子供ね」

「俺はそんな世話頼んだ覚えはないがな」

 悪びれる様子もなく言い切るレグスに、セセリナは声の調子を強める。

「よく言うわ。私がどれだけあなたの為に力を使ったと思ってるのよ。少しは感謝してほしいものね」

「……しているさ」

 レグスの短くとも真面目なその一言に、緩い空気が乱される。

 そして微妙な間を置いて、乱された空気を断つようにセセリナは言う。

「まっいいわ。とにかく今は体を休めて回復させる事に集中なさい。何をするにしても全てはそれからの事よ」

 彼女の言葉にカムも同調する。

「そうだな。存外、顔色は良さそうだが、それでも一週間も飲まず食わずの寝たきりだったんだ。まともに動けはしまい。いろいろと考えるのは、そこで体を休めながらでもいい」

 今レグスが置かれている少々厄介な立場についてはカム達の耳にも入っていた。

 寝台の上での考え事とはその事を指していた。

「今日はもう軽く何か食べたらさっさと寝ておけ」

「彼らに言って重湯でも用意させましょう」

 セセリナは絶食の続いた男の体を気遣い、消化に負担のかからない物を壁の民に用意させようとする。

 だが、精霊が部屋の外で待機する見張りの壁の民に声をかけるより早く、一人の人物がレグス達の部屋に踏み入ってきた。

 それは彼らが見知った大男、ガァガであった。

「調子はどうかな勇者殿よ」

 穏和に聞こえる口調で声を掛ける大男の背後からは、これまた見知った小男が顔をのぞかす。

 マルフスだ。レグスを救世主と騒ぎたてる自称星読みの小男は言葉を発さず、寝台の上の当人をじっと見つめている。

 二人の訪問者に、瞬時にして部屋の空気が張り詰めた。

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