第436話
古き精霊は男の揺るがぬ覚悟に、次に掛けるべき言葉を失った。
されど驚きはなかった。
彼女とて端からわかっていたのだ。
恐らくは、レグスという男はそのような事を言うであろうと。
そして、どれほど他の言葉をぶつけたところで、その気持ちが変わる事はないであろうと。
互いに発する言葉を失い、重苦しい沈黙が場を覆う中、二人の耳に石造りの床を鳴らす軽快な足音が聞こえてくる。
やがてその足音と共に、沈黙を破るようにしてこの部屋に飛び入ってきたのは少年ファバであった。
彼は壁の民達の騒ぎにレグスの目覚めを知り、急ぎ部屋へと駆け戻ってきたのだ。
「レグス!!」
寝台の男の様子を確認しながら、安堵するような笑みを浮かべて少年は言う。
「ったく、ようやくお目覚めかよ。心配させやがって」
走ってきた為か、ファバは少しばかり息を切らしていた。
その呼吸を落ち着けながら、彼はレグスのもとへ近寄る。
「どうよ調子は?」
「これが良いように見えるのか?」
「ははっ、まさか」
肩をすくめる少年。
その背後には、遅れて部屋へやってきたカムの姿も見えた。
「まったくお前には驚かされる。数々の無謀もそうだが、まさかあれだけの爆発に巻き込まれて、こうして生きているとはな」
呆れ半分で言う彼女に、レグスは皮肉めいた口調で答える。
「どうやら俺は死神にすら嫌われているらしい」
「それは何よりだ」
そう言って少しだけ笑みを浮かべるカム。その笑みはレグスの無事を喜んでいる証でもある。
そんな彼女に、寝台に横たわる男はファバを一瞥しながら言う。
「世話をかけたな」
「気にするな。むしろ戦いにおいては頼もしかったぐらいだ。それに、彼女の苦労を思えば何て事はない」
カムの視線がセセリナの方へと向く。
まだ短い付き合いではあるが、古き精霊の少女がどれほどレグスの為に働いているのか、それをもう彼女は理解していた。
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