第431話

「お前の力でどうにか出来ないのか?」

「馬鹿言わないで。そうやって無理を重ねてきた結果がこれでしょ。しばらくは安静にしてなさい」

「悠長にしていればその分冬が近付く」

「だからといって、ここで無理をしてどうするの。春だろうが、夏だろうが、道中での戦いは避けられないわ。休めるうちに休んでおくのも必要な事、そうでしょ? それにどのみち灰の地での冬越えは避けられない」

 かつて流浪した日々の古い記憶を頼りとするが、目的地である精霊の国への扉が存在するという場所までのおおよその行路をセセリナは把握している。

 彼女の記憶が正しければ、万事順調にいったとしても、とても次の冬までに辿り着くような距離にはない。

 ましてや往くは魔物、蛮人が跋扈する地である。年を何度か越える長旅をも覚悟せねばならなかった。

 その事を思えば、一カ月やそこらの遅れなど誤差のようなものだと言えた。

 彼女の言い分に納得したのか。それともこれ以上の説得は無理だと悟ったのか。

 束の間、黙した後、男は話題をさらに別のものへと切り替える。

「……それで、イファートはどうなった。あの怒れる炎の巨神をどうやって止めた。まさか力ずくというわけにもいくまい」

 魔剣の力を利用しても討てなかった相手だ、その強力さをレグスは身を以って理解している。

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