第429話『目覚め』

 数奇なる運命の為せる業か。

 古き炎の神に敗れた男は、あるいはその運命的な呪縛より逃れる唯一の機会ともする死の間際において、それを得るを許されず。星読みを自称する小男に身を救われた。

 それから彼は、激戦繰り広げられた巨大な城の比較的損傷の少ない一室に運ばれると、その部屋で一度も目を覚ます事なく眠り続けた。

 それほど深き傷を、その男レグスは精神と肉体に負っていたのである。

 その傷はたとえ精霊の力があったとしても容易に回復するようなものではなかった。


 幾日と日が過ぎて、戦いを生き残った者達がそれぞれの時を過ごす中、ようやくレグスは見知らぬ部屋の一室で意識を取り戻す。

 その時、見知った精霊の姿だけが彼の傍らにあった。

 眼を開いた男の顔を見て、安堵するように、呆れるように、一つため息を吐いて青き精霊の少女は言う。

「気が付いたのね」

 そうして部屋の片隅に置かれた水差しを手に取ると、それをレグスの口の前へとセセリナは持っていく。

「さぁ、ゆっくりと飲んで頂戴」

 差し出された水差しより舐めるようにして水を飲むと、久方ぶりの水分に体が驚いたのか、ゴホゴホとレグスは咳き込む。

 それでも彼は渇き切った体を潤す為に、無理矢理にでもその水を口に含み続けた。

 そしてある程度の水分を補給すると、力無くも落ち着いた口調でレグスはセセリナに尋ねる。

「ファバ達はどうなった。あいつらは無事か?」

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