第428話

「終わったんだよな? 俺達は生き残ったんだよな!?」

 殺戮の限りを尽くした炎の巨神の姿が消えると、ガドーは確かめるように、噛み締めるように仲間達に問うた。

 その問いにディオンがうっすらと笑みを浮かべながら答える。

「ああ、俺達の勝ちだ」

「勝ち……。そうだよな、あの軍勢を追っ払ったんだ、俺達の勝ちだ……」

 ディオンの言葉に安堵すると同時に、死闘を制した勝利を実感し始めるガドー。

 彼は笑い、焼けた大地に魔物達の骸が転がる城外を見やりながら叫んだ。

「くくっ、はははは!! ざまぁ見やがれ、クソ野郎共!! てめぇらがどれだけ束になろうが俺達の敵じゃねぇ!!」

 彼だけではない。絶望的な戦況からの奇跡的な生存と勝利に、壁の大男達、大女達も沸く。

 そしてその盛り上がりの中、彼らを祝福するかのように空が白み始めた。

 夜明けだ。血塗られた戦いの夜が明ける。

 昇り始めた太陽に、多くの同胞の犠牲のうえに自分達は生き残ったのだと、壁の民達はその事をひしひしと感じながら空を見上げ、中には自然と涙を流す者さえもいた。


 だが死闘の果てに掴み取ったこの奇跡的な勝利すらも、壁の地に永遠の平穏をもたらすものではない。

 次の冬が来れば、魔物達はまた押し寄せてくるだろう。そうして戦いは過酷さを増し、また多くの同胞を失う事になるのだ。

 その事は、この地に生まれ暮らす者達こそがよく理解している。

 だが今は、夜明けの太陽の祝福を浴びる今この時は、ただひたすらに掴み取った勝利を喜び、戦いの民として、壁の守護者として、使命を見事果たしたその誇りに彼らは胸をふるわせるのである。


 たとえその感動が一時の喜びに過ぎず、いずれ夜がまた訪れるのだとしても……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る