第423話

「聞け!! 聞いてくれ!! 大いなる炎の神よ!!」

 恐怖を殺し、体の震えを抑え、マルフスは己を見下ろす巨大な神に訴える。

「彼を殺してはいけない、どうか殺してくれるな!! あの男は星々に選ばれた運命なのだ!!」

 縋るように懇願し、彼は叫ぶ。

「もうすぐ夜が来る。望むはずもない長き夜の時代が!! 黒き預言に語られし暗黒の時代が!!」

 熱風を浴び、喉を、肺を、焼きながら彼は叫び続ける。

「穢れた闇が大地を覆い、星を呑み、全てを滅ぼそうとしているのだ!! 彼が、その闇よりこの世界を救える唯一の希望なのだ!!」

 マルフスが何を訴えているのか、イファートは言葉で理解するわけではない。

 心だ。

 強い心の震えが思念となりイファートに伝わるのだ。

「教会が崇める傲慢な神々と人がかつてお前達に対して犯した大罪を許してくれとは言わない。言えるはずもない!!」

 古き炎の神々を崇めたミダンディアの炎の王国。それを滅ぼしたのは他ならぬ人間だ。

 ユピアの神々に仕える天使達と共に人が彼らの故国を滅ぼしたのだ。

 わかっている。古き神々のその怒りをわかっていてなお、彼は懇願する。

「それでもどうか機会をくれ!! 犯した過ちを正す機会を、我らに与えてはくれないか!!」

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