第420話『炎』

 全力で駆ける小男の願いも虚しく、炎の巨神は大地に転がる標的を見つけると、燃やし尽くさんと容赦なく近付いていく。

 爆発によって吹き飛ばされ転がるそれは、まるで動かず、遠目にはもはや死んでいるようにしか見えなかった。


 だが、それは生きていた。

 わずかではあるがその男、レグスは確かに息をしていたのだ。

 されど当然、まったくの無事であろうはずもない。

 朦然とした意識、これ以上とない満身創痍。

 精神も肉体も限界をとうに超え、指一つ満足に動かす事すら出来ずにいた。

 にも関わらず、そのような状況にあってなお、彼は望む。

――戦え、戦え、戦え。

 必殺の一撃を浴びても倒れぬ相手、そもそも唯一の攻撃手段といえる黒き魔剣すらもどこに吹き飛ばされたか、手元にはありはしない。

 誰が見ても明らかに勝ち目のない絶望的な状況。

 それでも彼の闘争心は高まるばかりで決して萎える事はなかった。

 戦い続けなくてはならない。

 目的を果たすその瞬間まで、戦い続けなくてはいけない。

 たとえ阻む者が神と呼ばれる存在であろうと。

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